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第三十三話 離れていく距離





「リリアーナ様、お加減はいかがですか?」


クララがそっと部屋へ入ると、ベッドに横になっていたリリアーナがゆっくりと目を開けた。




「もう熱は下がりました。ですが、旦那様も奥様も、もう数日はお休みするよう仰っております。」


「……そう。」


リリアーナは小さく頷いた。




あの日から数日。


熱は下がったものの、頭痛だけは時折思い出したように襲ってくる。




目を閉じるたびに浮かぶのは、オリヴィアの悲しそうな表情。


そして、自分の口から零れた言葉。





『……来ないで。』




(違う……。)


(あれは私じゃない……。)


何度否定しても、あの一言は消えてくれなかった。






✳︎ ✳︎ ✳︎


一方、王立学園では



「リリアーナ様、まだお休みなのですね。」


オリヴィアは心配そうに窓の外を見つめた。


「はい。」


セレナは悲しそうな顔を上げる




「体調を崩されたと伺っています。」


「そう……ですか。」


オリヴィアは少し俯いた。


「やっぱり……私が急に話しかけてしまったからでしょうか。」


「い、いいえ…」


セレナは静かに首を横へ振る。



「リリアーナ様は、そのような方ではありません。きっと何か事情がおありなのです。」




その言葉に、オリヴィアは小さく胸をなで下ろした。





✳✳✳✳✳✳✳✳





中庭を歩いていたオリヴィアへ、一人の人物が声を掛ける。




「オリヴィア嬢。」


「エリアス殿下。」


オリヴィアは慌てて一礼した。


「学園には慣れたかな?」


「はい。皆様、とても親切にしてくださいます。」


「それなら安心した。」


エリアスは穏やかに微笑む。


「困ったことがあれば、先生方やクラスメイトを頼るといい。」


「ありがとうございます。」


そのやり取りを見ていた生徒たちも、どこか安心したように笑みを浮かべていた。





✳︎ ✳︎ ✳︎



数日後、体調も幾分良くなってきたのでリリアーナは久々に王立学園の門をくぐった。




「おはようございます、リリアーナ様。」



挨拶は聞こえる。


けれど以前より、どこかぎこちない。


小さな噂が聞こえてくる




「体調は大丈夫なのかしら。」


「この前のこと……。」


「オリヴィア様に。」




その先は聞き取れない。


聞きたくもなかった。


リリアーナは静かに教室へ向かう。



授業以外は、どこへ行っても「悪役令嬢」という囁きが耳に入る。


それが辛くて


1人になる場所を求めた



王立学園の中庭は色とりどりの花が咲き誇る庭園。


リリアーナは入学してから学園の中でもこの場所が好きだった。



「いい風…」


目を閉じて風を頬で感じていた





そんな時だった。


見覚えのある姿が目に入った。




オリヴィアが笑っている。


隣にはセレナ。


そして少し離れた場所には、エリアス殿下の姿もあった。




「昨日の課題膨大だったね。オリヴィアはできた?」


「はい。なんとか。エリアス殿下もセレナ様はいかがでした?」


「なんとか出来ました!でもとても大変でしたよ」


3人は穏やかな笑顔で話していた。


ただ、友人同士の会話。


リリアーナにも、それくらい分かっている。






それだけなのに。


胸が苦しかった。




(私が休んでいる間に……。)




何かが少しずつ変わってしまった気がする。



違う。


変わったのではない。


時間は止まることなく流れていただけ。


止まっていたのは、自分だけだった。


リリアーナは小さく目を伏せる。


誰にも気付かれないように、その場を静かに後にした。

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