第二十五話 10歳の贈り物【後編】
国王陛下の一言に、会場は静まり返った。
リリアーナも、何が始まるのだろうと不思議そうに首を傾げる。
国王陛下は穏やかな眼差しで会場を見渡されると、ゆっくりと口を開かれた。
「本日は、リリアーナ嬢の十歳の誕生日という、誠に喜ばしい日である。
」
会場から温かな拍手が送られる。
国王陛下は微笑み、その拍手が落ち着くのを待って続けられた。
「そして、この佳き日に、もう一つ皆へ祝っていただきたいことがある。」
その言葉に、貴族たちは顔を見合わせる。
一体、何が発表されるのだろうか。
期待と静寂が、大広間を包み込んだ。
国王陛下はゆっくりとリリアーナとエリアスへ視線を向けられる。
「このたび、王太子エリアスと、アルディス公爵令嬢リリアーナ嬢との婚約をここに発表する。」
その瞬間――。
会場が大きくどよめいた。
「まあ……!」
「お二人が!」
「なんと、おめでたい……!」
驚きの声は、すぐに大きな拍手と祝福へと変わっていく。
リリアーナは大きく目を見開いた。
「……え?」
隣に立つエリアスも、同じように驚いた表情を浮かべている。
「父上……?」
二人は互いに顔を見合わせた。
何が起きたのか、すぐには理解できない。
そんな二人を見つめながら、国王陛下は穏やかに微笑まれた。
「二人には、今日まで知らせていなかった。驚かせてしまったようだな。」
会場からは小さな笑い声が漏れる。
リリアーナは戸惑いながら、お父様の方を見た。
「お父様……。」
お父様は優しく頷かれる。
「すまなかった、リリアーナ。今日まで秘密にしていた。だが、お前の気持ちが何よりも大切だ。」
その言葉に、リリアーナは静かに顔を上げた。
「この婚約を受けるかどうかは、お前自身が決めなさい。誰も、お前に無理強いはしない。」
その優しい言葉に、リリアーナの胸が温かくなる。
そして、ゆっくりとエリアスへ視線を向けた。
エリアスは少し緊張した面持ちで、一歩前へ進み出る。
「リリアーナ。」
真っ直ぐな瞳が、リリアーナを見つめる。
「僕は……。」
少しだけ言葉を探し、小さく息を吸う。
「君と、これからもたくさん笑って過ごしたい。嬉しいことも、悲しいことも、一緒に分け合えるような存在になりたい。まだ子どもだから、約束できることは少ない。でも……。」
エリアスは優しく微笑んだ。
「君を大切にしたいという気持ちだけは、誰にも負けない。」
その言葉に、リリアーナは思わず笑みを浮かべる。
胸の中にあった戸惑いが、少しずつ溶けていく。
湖で助けてくれたこと。
一緒に笑い合った時間。
今日、一生懸命選んでくれた贈り物。
どれも、リリアーナにとって大切な思い出だった。
リリアーナは一歩前へ進み、エリアスを見つめ返す。
「エリアス殿下。」
その声は、穏やかで優しかった。
「私も……。」
少し照れながら、ふわりと微笑む。
「これからも、エリアス様とたくさん笑いたいです。どうぞ、よろしくお願いいたします。」
その言葉に、エリアスの表情がぱっと明るくなる。
「ありがとう。」
二人は見つめ合い、自然と笑みを交わした。
その姿に、会場は再び大きな拍手に包まれる。
王妃様は嬉しそうに微笑まれ、お母様はそっと目元を押さえられた。
「本当に……大きくなりましたね。」
「ええ。」
お父様も静かに頷かれる。
「今日という日を、きっと一生忘れないだろう。」
祝福の音楽が流れ始める。
笑顔。
拍手。
温かな祝福。
大広間は、幸せな空気に包まれていた。
夜も更け、祝宴は無事に幕を閉じた。
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部屋へ戻ったリリアーナは、静かに息をつく。
胸元には、エリアスから贈られたブローチ。
鏡に映る自分を見つめ、思わず笑みがこぼれた。
「……今日は、本当に驚いた。」
そう呟くと、小さく肩をすくめる。
「でも……楽しかった。」
窓の外では、春の夜風が木々を優しく揺らしている。
リリアーナは幸せな気持ちに包まれながら、そっと明かりを消した。
──パキッ。
パキッ…
伝わるといいな




