第二十三話 10歳の贈り物【前編】
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柔らかな陽射しが、アルディス公爵家の大きな窓から差し込んでいた。
庭では色とりどりの花々が咲き誇り、小鳥たちのさえずりが心地よく響いている。
そんな穏やかな朝とは裏腹に、屋敷の中は朝早くから慌ただしかった。
「急いでください!」
「お花はこちらへ!」
「会場の準備は順調です!」
廊下を行き交う侍女や使用人たちは、誰もが忙しそうに動き回っている。
その様子を見たリリアーナは、小さく首を傾げた。
「……今日は、みんな随分と慌ただしいのね。」
部屋で朝の支度をしていたクララが、にこりと微笑む。
「本日は、お嬢様の十歳のお誕生日でございますから。」
「そうだったわ。」
リリアーナも嬉しそうに笑みを浮かべる。
前世では、誕生日は年齢を重ねる日という印象が強かった。
けれど、この世界では違う。
家族がいて、友がいて、祝ってくれる人たちがいる。
それだけで胸が温かくなった。
「さあ、お嬢様。本日は特別なお召し物をご用意しております。」
クララが衣装部屋の扉を開く。
そこには、色とりどりの美しいドレスが並んでいた。
「まあ……。」
思わず目を輝かせるリリアーナ。
「どれも素敵ね。」
すると侍女たちが一斉に顔を見合わせる。
「こちらです!」
「いえ、こちらではありません!」
「いいえ! 本日はこちらで決まりです!」
まるで作戦会議でも始まったかのような勢いに、リリアーナは思わず吹き出した。
「ふふっ。みんな、今日はどうしたの?」
クララは静かに一着のドレスを取り出す。
深いアメジスト色のドレス。
光を受けるたび、紫と青が美しく溶け合い、裾には銀糸で小花と蔦の刺繍が施されている。
胸元には小さなアメジストが散りばめられ、公爵令嬢にふさわしい気品を静かに漂わせていた。
「こちらは奥様が、お嬢様の十歳のお誕生日のためにご用意された特別な一着でございます。」
「……綺麗。」
リリアーナはそっと生地に触れる。
上質な絹の柔らかな感触に、自然と笑みがこぼれた。
「着てみてもよろしいかしら。」
「もちろんでございます。」
しばらくして着替えを終えると、侍女たちから小さな歓声が上がる。
「まあ……!」
「本当によくお似合いです!」
「まるで物語のお姫様のよう……!」
「お人形みたいです!」
次々と飛び交う褒め言葉に、リリアーナは少し照れくさそうに笑った。
「そんなに褒められると、恥ずかしいわ。」
「まだ終わりではありません!」
侍女の一人が髪飾りを手に駆け寄る。
「髪はこちらへ。」
「ネックレスもお付けいたします!」
「お花も飾りましょう!」
「えっ、まだあるの?」
あまりの勢いに、リリアーナは思わず笑ってしまう。
「みんな、今日は気合いが入りすぎじゃない?」
すると一人の侍女が胸を張って答えた。
「もちろんです!今日は一年で一番大切な日ですから!」
リリアーナはきょとんと目を丸くする。
「でも、お誕生日は毎年あるでしょう?」
その一言に、侍女たちは一瞬だけ固まった。
「そ、それは……。」
「え、ええ、そうなのですが……。」
慌てて視線を交わす侍女たち。
クララは小さく咳払いをすると、穏やかに微笑んだ。
「皆、お嬢様をお祝いしたい気持ちが大きいのでございます。」
「そういうものなのね。」
リリアーナは素直に納得し、再び鏡へ目を向けた。
鏡の中には、深いアメジスト色のドレスをまとった少女が映っている。
幼さはまだ残っている。
けれど、その瞳には公爵令嬢としての気品と、未来へ歩み始める凛とした輝きが宿っていた。
「リリアーナ」
部屋の扉がノックされ、母のエレノアが優しく微笑みながら入ってこられた。
「まあ……。」
その姿を見たエレノアは、目を細められる。
「とても素敵よ、リリアーナ。」
「ありがとうございます、お母様。」
「今日はたくさんのお客様がお祝いに来てくださるわ。」
「少し緊張するけれど……楽しみです。」
その笑顔を見つめながら、エレノアは優しく娘の頬に触れた。
「今日は、きっと忘れられない一日になるわ。」
「ふふ、お誕生日ですもの。」
何も知らずに微笑む娘に、エレノアもまた穏やかに微笑み返す。
(ええ……きっと、一生忘れられない一日になるわ。)
その想いは胸の奥にそっとしまったまま――。
やがて、誕生日を祝う盛大なパーティーの始まりを告げる鐘の音が、屋敷中に高らかに響き渡った。
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