第二十二話 新たな約束【後編】
数日後――。
アルディス公爵は、王宮へ招かれていた。
静かな応接室では、国王陛下と王妃様が穏やかな笑みを浮かべ、公爵を迎えられる。
「よく来てくれた、公爵。」
国王陛下のお言葉に、公爵は丁寧に一礼した。
「お招きいただき、ありがとうございます。」
王妃様も微笑まれる。
「まずは、先日のことを改めてお礼申し上げたくて。」
「リリアーナ嬢がお元気になられたと伺い、本当に安心いたしました。」
公爵は静かに頭を下げる。
「ご心配をおかけいたしました。娘を手厚く看てくださり、心より感謝申し上げます。」
国王陛下は穏やかに首を横へ振られた。
「礼を言うのはこちらだ。あの日、エリアスは大切なことを学んだ。」
その言葉に、公爵は静かに耳を傾ける。
国王陛下は少し表情を改められた。
「今日は、もう一つ大切な話がある。」
部屋の空気が静かに引き締まる。
「以前から考えていたことだ。王太子エリアスと、リリアーナ嬢の婚約について、話ししたい。」
公爵は一瞬だけ驚いた表情を見せた。
だが、すぐに穏やかな表情へ戻り、静かに頷く。
「……大変光栄なお話でございます。」
少しだけ間を置き、公爵は続けた。
「ですが、一つだけお願いがございます。」
「申してみよ。」
国王陛下の穏やかな声に、公爵は真っ直ぐ顔を上げた。
「私どもにとって、リリアーナは何よりも大切な娘です。ですから、娘自身の気持ちを何よりも大切にしていただきたいのです。たとえ王家からのお話であっても、娘が望まないのであれば、私は婚約を受けさせるつもりはございません。」
静かな沈黙が流れる。
やがて国王陛下は、ふっと微笑まれた。
「安心した。」
公爵は静かに顔を上げる。
「だからこそ、私は貴公へこの話を持ってきたのだ。私も同じ考えである。婚約とは、家と家を結ぶだけではない。二人が共に歩む未来を約束するものだ。本人たちの心なくして、その約束に意味はない。」
その言葉に、公爵は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。」
王妃様は優しく微笑まれる。
「リリアーナ嬢は、もうすぐ十歳のお誕生日ですね。」
「はい。」
「でしたら、お誕生日のお祝いの席で婚約を発表してはいかがでしょう。皆様にも祝福していただける、素敵な一日になりますわ。」
公爵の表情が柔らかくなる。
「娘にとって、一生忘れられない誕生日になりますね。」
国王陛下も穏やかに頷かれた。
「それまで、この話は本人たちには伏せておこう。」
「驚きもまた、良き贈り物となろう。」
三人は顔を見合わせ、穏やかに笑みを交わした。
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夕暮れ。
アルディス公爵家へ戻った公爵は、書斎へ妻とルシアンを呼んだ。
「あなた、王宮ではどのようなお話がございましたの?」
お母様が静かに尋ねられる。
公爵は二人を見渡し、小さく微笑んだ。
「王家より、リリアーナとエリアス殿下の婚約のお話をいただいた。」
一瞬、部屋の空気が止まる。
「まあ……。」
お母様は嬉しそうに口元へ手を添えられた。
ルシアンは目を丸くする。
「リリーが……婚約ですか。」
その声には驚きと、少しだけ寂しさが混じっていた。
「まだ十歳ですよ……。」
その一言に、公爵は思わず笑みをこぼす。
「相変わらず、お前はリリアーナに甘いな。」
「当然です。」
ルシアンは少し照れながらも真剣な表情で答えた。
「リリーは、私の大切な妹ですから。」
その言葉に、お母様はくすりと笑われる。
「でも、とてもお似合いのお二人ですわ。」
公爵も穏やかに頷いた。
「婚約の発表は、誕生日のお祝いの日に行われる。」
「それまでは、私たちだけの秘密だ。」
「承知しました。」
二人は静かに頷いた。
その頃――。
何も知らないリリアーナは、自室でクララと新しいドレスを広げていた。
「お嬢様。もうすぐお誕生日ですね。」
「ええ。楽しみだわ」
「今年は、どんな一日になるのでしょう。」
期待に胸を弾ませるその笑顔を見つめ、クララも優しく微笑んだ。




