第十九話 育まれた想い【前編】
休みなので多めに更新してみました。
夜の帳がゆっくりと王宮を包み込んでいた。
昼間の慌ただしさが嘘のように静まり返り、長い廊下には柔らかな灯りだけが揺れている。
王宮の一室では、リリアーナが静かな寝息を立てていた。
医師の診察を終え、命に別状はないと聞かされたものの、念のため今夜は王宮で休むことになったのだ。
その寝顔を確認した王妃は、そっと部屋を後にする。
廊下へ出ると、窓辺に立つ国王の姿があった。
「あなた。」
王妃が静かに声を掛ける。
国王はゆっくりと振り返り、穏やかに微笑んだ。
「リリアーナ嬢は。」
「先ほど眠りました。」
「そうか。」
短い返事だった。
それでも、その声には安堵が滲んでいる。
二人は並んで窓の外を眺めた。
しばらく誰も口を開かない。
静かな時間だけが流れていく。
やがて王妃が、小さく息をついた。
「今日は、本当に驚きました。」
その一言に、国王は静かに頷く。
「私もだ。」
王妃は昼間の光景を思い返すように目を伏せた。
「エリアスが……。
ためらうことなく湖へ飛び込んだ時は、心臓が止まるかと思いました。」
国王は何も言わず、静かに耳を傾ける。
「あの子は水を恐れません。けれど、自分の危険を顧みず飛び込むような子ではありませんでした。」
少し言葉を切り、優しく微笑む。
「それほどまでに、リリアーナ嬢を助けたかったのでしょうね。」
国王は静かに目を閉じた。
「……ああ。あれは王子としての行動ではなかった。」
王妃がゆっくりと顔を上げる。
国王は窓の外へ視線を向けたまま続けた。
「あれは、一人の少年としての行動だ。守りたいと思った者を、ただ必死に助けようとした。そこに打算も、立場もなかった。」
王妃は静かに頷く。
「あの子は、立派な王子になりましたね。」
国王は小さく微笑んだ。
「そうだな。」
「今日、私はそれを確信した。」




