第十七話 想いを届けて【前編】
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王宮でのお茶会を数日後に控えた、ある日の午後。
私は自室で本を読んでいた。
すると、コンコン、と控えめな音が響く。
「お嬢様。」
「どうぞ。」
扉を開けて入ってきたのは、クララだった。
「奥様より、お支度のお話がございますので、お部屋へお越しくださいとのことです。」
「ありがとう。」
私は本を閉じ、立ち上がった。
廊下を歩きながら、自然と頬が緩む。
(お茶会……。)
(エリアス殿下にお会いできる。)
その時、不意に足が止まった。
「クララ。」
「はい、お嬢様。」
「私……。」
少し照れながら、小さく微笑む。
「殿下へ、何か贈り物をしたいのです。」
クララは優しく目を細めた。
「贈り物でございますか。」
「ええ。」
「何が喜んでいただけるでしょう……。」
少し考え込む私を見て、クララはふっと微笑む。
「でしたら、お菓子などいかがでしょう。」
「お嬢様のお気持ちが、一番伝わりますよ。」
私は目を輝かせた。
「お菓子……。」
「私にも作れるかしら…。」
「もちろんでございます。」
「料理長にもお願いしてみましょう。」
クララに案内され、私は厨房へ向かった。
厨房へ入ると、焼きたてのお菓子の甘い香りがふわりと広がる。
「まあ、お嬢様。」
料理長が驚いたように頭を下げた。
クララが事情を話すと、料理長は嬉しそうに笑う。
「それは素敵ですね。」
「では今日は、とっておきのクッキーを作りましょう。」
私は少し緊張しながら、エプロンを身につけた。
小麦粉を量り、
卵を割って、
バターを混ぜる。
「きゃっ。」
勢いよく混ぜすぎて、小麦粉がふわっと舞い上がる。
思わず目を閉じる私を見て、クララと料理長がくすくすと笑った。
「失敗してしまったわ…。」
恥ずかしくなって俯くと、クララが優しくハンカチで頬を拭いてくれる。
「最初から上手な方などいらっしゃいません。」
「楽しむことが一番でございますよ。」
その言葉に、私も思わず笑ってしまった。
何度か形を作り直しながら、ようやくクッキーが並ぶ。
丸いもの。
少しいびつなもの。
大きさも少しずつ違う。
焼き上がるまでの時間が、なんだかとても長く感じた。
やがて厨房いっぱいに、甘く優しい香りが広がる。
焼き上がったクッキーを見つめながら、私は少し不安そうに呟いた。
「これで……大丈夫かしら。」
料理長は一枚手に取り、ゆっくりと口へ運ぶ。
「とても美味しいですよ。」
私はほっと胸を撫で下ろした。
するとクララが、優しく微笑みながら言った。
「お嬢様。
贈り物は、上手に作ることよりも。
誰かを想って作ることのほうが、ずっと素敵なのですよ。」
私は焼きたてのクッキーをそっと見つめる。
(殿下……。)
喜んでくださるでしょうか。
その笑顔を思い浮かべるだけで、胸の奥がふんわりと温かくなった。
私は一枚一枚を大切に箱へ詰め、淡い水色のリボンを結ぶ。
「殿下に、お届けできますように。」
小さく願いを込めながら、私は箱を胸に抱きしめた。




