第十四話 想いを紡ぐ【後編】
私は少年と一緒に、こぼれてしまった土をそっと集め始めた。
「こちらへ少し寄せてください。」
「は、はい!」
少年は慌てながらも、丁寧に花を支える。
その手は、まだ少し震えていた。
「大丈夫ですよ。」
私がそう言うと、少年は少し安心したように息をついた。
二人で植木鉢の代わりになる鉢へ花を植え直していると、遠くから足音が聞こえてきた。
「何があった?」
庭師長だった。
少年はびくりと肩を震わせる。
「も、申し訳ありません!」
「ぼ、僕が植木鉢を……。」
深く頭を下げる。
その姿を見て、私は一歩前へ出た。
「庭師長。」
「この方は、お花を守ろうとなさっていました。」
庭師長は少し驚いたように私を見る。
私は続けた。
「植木鉢は割れてしまいましたが、お花の根っこは元気でした。」
「だから、今一緒に植え直しているところです。」
庭師長はしゃがみ込み、植え直された花をそっと見つめた。
そして、穏やかに微笑む。
「そうか。」
少年は恐る恐る顔を上げた。
庭師長は優しく肩へ手を置く。
「失敗は誰にでもある。次から気をつければいい。」
「……はい!」
少年の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
けれど、それは先ほどまでの不安の涙ではなかった。
私はその様子を見て、小さく微笑む。
「良かったですね。」
少年は何度も頷いた。
「ありがとうございます、お嬢様。」
「僕……もっと立派な庭師になります!」
その真っ直ぐな言葉に、私も嬉しくなる。
「きっとなれます。」
「このお花も、きっと応援していますよ。」
少年は照れくさそうに笑った。
その笑顔を見た瞬間――
ふと、胸の奥が小さくざわめいた。
(……あれ?)
頭の中に、一瞬だけ映像が浮かぶ。
泣きながら屋敷を去っていく、少し大きくなった少年。
『僕には庭師なんて向いていません……。』
そんな声が、遠くから聞こえた気がした。
「……っ。」
私は思わず胸に手を当てる。
(今のは……?)
ゲームの記憶。
ほんの一瞬だった。
けれど確かに、この少年はゲームの中で屋敷を去っていた。
私は少年を見つめる。
今、目の前にいる少年は笑っている。
希望に満ちた笑顔で。
(私の知っているゲームの内容じゃない…)
(未来が……。)
(変わったの……?)
✳✳✳✳
その日の夜――。
私は眠る前に部屋へ戻った。
何気なく窓辺へ目を向ける。
そこに置かれた小さなガラス細工。
私は静かに息をのんだ。
「……。」
昨日までなかった細いひびが、また一本。
月明かりを受けて、静かに輝いていた。
私はそっとガラスへ手を伸ばす。
触れても、冷たい感触があるだけ。
「……。」
小さく呟く。
「何を伝えているの…?」
ガラスは何も答えない。
ただ静かに、一本のひびだけがそこにあった。
窓の外では、春風が庭の花を優しく揺らしている。
その花は昼間よりも少しだけ力強く、月明かりの中で静かに咲いていた。




