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第十三話 想いを紡ぐ【前編】



エリアス殿下がアルディス公爵家へいらしてから、数日が過ぎた。


陽射しは日に日に暖かさを増し、庭の花々も嬉しそうに風に揺れている。


私は窓辺から庭を眺め、小さく微笑んだ。





あの日の出来事は、今でも鮮明に思い出せる。


花冠のお礼にお渡しした、蝶々の刺繍のハンカチ。




「今日から毎日持ち歩くね!」




そう言って嬉しそうに笑ってくださったエリアス殿下。


思い出すだけで、胸が温かくなる。


けれど、その一方で――。





あの日見た、ガラスのひび。


あれだけは、今も心のどこかに引っかかっていた。


(あれは一体何だったのかな…)




私は小さく息をつく。


今考えても答えは出ない。


気持ちを切り替えようと、本を一冊抱えて庭へ向かった。




春風が優しく頬をなでる。


庭師たちが花壇の手入れをし、小鳥たちが楽しそうにさえずっている。


いつもと変わらない、穏やかな朝だった。





私は東屋へ向かい、本を開こうとした、その時――。


「しまった!」


少し離れた場所から慌てた声が聞こえた。


続いて、



ガシャン――。


何かが割れる音が庭に響く。


私は驚いて立ち上がり、急いで音のした方へ駆け寄った。


そこには、一人の少年が立ち尽くしていた。


年は七歳くらい。


庭師見習いなのだろう。


少し大きめの作業着を着て、青ざめた表情で足元を見つめている。


割れてしまった植木鉢。


こぼれた土。


そして、小さな花。


私は少年の前まで来ると、ほっと胸をなで下ろした。


「良かった。」


少年は驚いたように顔を上げる。


「お、お嬢様……。」


私は優しく微笑んだ。


「お怪我はなさいませんでしたか?」


少年は目を丸くする。


「あ……。」


「僕は、大丈夫です。」


その言葉を聞いて、私は安心したように微笑んだ。


「それなら良かったです。」


そして初めて、足元へ目を向ける。


割れた植木鉢から飛び出した小さな花は、土の上で寂しそうに横たわっていた。


私はそっとしゃがみ込み、花の根元を見つめる。


「……よかった。」


思わず小さく呟く。


少年が不思議そうに尋ねた。


「えっ?」


私は花を優しく両手で支えながら微笑む。


「根っこは、まだ元気です。植え直してあげれば、きっとまた咲いてくれます。」


そして、花へ語りかけるように優しく言った。


「お花は、また咲きます。」


その言葉に、少年の表情が少しずつ和らいでいく。


私は少年へ手を差し伸べた。


「一緒に植え直しませんか?」


少年はその手を見つめ、やがて力強く頷いた。


「……はい!」


先ほどまで震えていた声には、もう希望が戻っていた。


春風が二人の間を優しく吹き抜ける。


舞い上がった花びらは、まるで新しい未来を祝福しているかのように、穏やかに青空へと舞っていった。

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