第149話 運命との決戦【後編】
フィンはゆっくりと首元へ手を伸ばいた。
制服の下から取り出したのは、小さなお守り。
少し色褪せてはいるものの、大切に使われてきたことが伝わる。
ぎゅっと握り締める。
「……覚えてる?」
リリアーナは目を見開いた。
「そのお守り……。」
フィンは照れくさそうに笑う。
「妹が初めてのお小遣いで買ってくれた、大切なお守り。」
静かに視線を落とす。
「森で落とした時さ。」
ふっと笑った。
「君は迷わず池へ入った。」
――『大切なものなのでしょう?』
――『でしたら、取り戻しましょう。』
あの日の言葉が蘇る。
「フィン様……。」
「俺ね。」
お守りを握る力が少し強くなる。
「最初は嬉しかった。大切なお守りが戻ってきたから。」
少しだけ首を振る。
「でも、違った。」
真っ直ぐリリアーナを見る。
「本当に嬉しかったのは。」
笑顔になる。
「君と友達になれたことだった。」
リリアーナの瞳が揺れる。
「だから。」
フィンはセドリックとヴィンセントの隣へ並んだ。
「君はもう、一人じゃない。」
「大丈夫。」
「一緒にいるから!」
三人が並ぶ。
その背中は、大きく、頼もしかった。
しかし――。
【排除】
【排除】
【排除】
運命の声が重なる。
空間そのものが砕け始める。
空中に浮かぶガラス片は、さらに数を増し、空を覆い尽くした。
リリアーナは震える。
「やめて……。」
声が震える。
「皆さんが傷付くくらいなら……!」
一歩前へ出ようとする。
だが。
エリアスが静かにその肩へ手を置いた。
「行かせない。」
「エリアス様……。」
エリアスは静かに微笑む。
「君はいつもそうだ。自分より先に、誰かを守ろうとする。」
その声に優しさが滲む。
「でも。今日は違う。」
エリアスもまた前へ出る。
セドリック。
ヴィンセント。
フィン。
その隣へ並ぶ。
「守るのは、私たちだ。」
その瞬間だった。
まるで合図を待っていたかのように。
オリヴィアが駆け出す。
「私もいます!リリアーナ様は、一人ではありません。」
皆が、リリアーナの前へ立つ。
誰一人として迷わない。
その光景を見たリリアーナの瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。
「どうして……。」
声にならない。
「どうして皆さんは……。」
こんなにも傷付きながら。
私なんかのために。
その時だった。
空を埋め尽くしていた無数のガラスが、一斉に放たれる。
世界が白く染まる。
誰かが叫んだ。
「リリアーナ!!」
ガラスが迫る。
エリアスが手を伸ばす。
セドリックが前へ出る。
ヴィンセントが身を挺する。
フィンはお守りを握り締めたまま笑っていた。
オリヴィアたちも駆け寄る。
そして――
パリンッ!!
世界が砕け散る。
無数のガラスが、リリアーナへ襲い掛かった。
その瞬間。
全員が、同時にリリアーナを抱き寄せる。
誰一人として退かなかった。
リリアーナは仲間たちの温もりに包まれながら、涙を流し、叫ぶ。
「私は……悪役令嬢になりたくなかっただけなのに!!」
その叫びとともに。
世界は、音を立てて崩壊した――。




