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第148話 運命との決戦【前編】



世界が、悲鳴を上げた。


――パリン。


小さな音だった。


だが、それは始まりに過ぎなかった。


次の瞬間。


パリンッ!! パリンッ!! パリンッ!!


学園中の窓ガラスが一斉に砕け散る。


王城の窓。


街の家々の鏡。


花瓶。


ガラス細工。


ありとあらゆるガラスが音を立てて砕け、空へと舞い上がっていく。


空間に刻まれた無数の亀裂からも、新たなガラス片が次々と生まれていく。


まるで世界そのものが壊れ始めたようだった。


空に響く、冷たい声。


【シナリオ修正】


【排除対象】


【リリアーナ・アルディス】


【悪役令嬢ヲ削除】






無数のガラス片が静かに向きを変える。


その切先は、ただ一人。


リリアーナへ向けられていた。


「……っ。」





リリアーナは震える息を吐く。


「私を……消すつもりなのですね。」


ゆっくりと一歩前へ出る。


その瞳に迷いはなかった。


「皆さん。」


静かな声だった。


「お願いです。」


振り返り、仲間たちを見る。


エリアス。


セドリック。


フィン。


ヴィンセント。


オリヴィア。




皆がリリアーナを見つめている。


「逃げてください…!」


誰も動かない。


「私一人なら、まだ……。」


言い終わる前だった。





【排除開始】


轟音。


空を埋め尽くしていた無数のガラスが、一斉に降り注ぐ。




「危ない!!」


リリアーナが叫ぶ。


その瞬間だった。


リリアーナの前へ、一人の青年が立つ。


「……セドリック様!」


セドリックは振り返らない。


ただ静かに、ガラスを見据えていた。





「覚えていますか。」


その声は、不思議なほど穏やかだった。


「一年生が魔道具を壊した、あの日を。」


リリアーナは目を見開く。


脳裏によみがえる。


廊下で交わされた言葉。





――『事実ではないことで、セドリック様を傷つけるのは、おやめください。』





あの日。


誰もが噂を信じようとした。


けれど、リリアーナだけは違った。



「君は。」


セドリックは静かに微笑む。


「家名ではなく。」


「噂でもなく。」


「事実を信じてくださいました。」



ガラスが目前まで迫る。


それでも一歩も退かない。


「ですが。」


小さく息を吸う。


「あの時助けていただいたから、私はここに立っているのではありません。」


ゆっくりと振り返る。


その瞳には、揺るぎない意志が宿っていた。


「今の君がリリアーナだから私は守りたい。」




その瞬間――


ガラスがセドリックへ襲い掛かった。



「セドリック様!!」


リリアーナが叫ぶ。


しかし、その横へもう一人が並ぶ。


「一人ではありません。」


ヴィンセントだった。


静かに眼鏡を押し上げ、前を見据える。


「ヴィンセント様……。」


「私は、人を知ることが好きでした。」


穏やかな声。


けれど、その奥には確かな感情があった。


「好きなもの。」


「趣味。」


「休日の過ごし方。」


「質問を重ねれば、その人を理解した気になっていました。」


ふっと笑う。


「ですが。」


リリアーナを見る。


「あなたのことだけは違いました。」


胸が締め付けられる。


「あの日。私は初めて知りました。知るということは、質問をすることではなく。」






「その人の想いに耳を傾けることなのだと。」


ガラスが風を切る音が響く。


「あなたがどれほど苦しみどれほど悩みどれほど一人で抱え続けてきたのか。」


静かに微笑んだ。





「私は何も知りませんでした。」


一歩、前へ。


セドリックの隣へ並ぶ。


「ですが今なら分かります。知ることができて、本当に良かった。」



ガラスの雨が目前まで迫る。


それでも二人は退かない。


リリアーナは震える声で叫んだ。




「駄目です……!お願いです!皆さんまで傷付かないでください!」


その叫びに応えるように。


明るい声が響いた。




「それは無理かな!」


フィンだった。


いつもの笑顔。


けれど、その瞳だけは真っ直ぐだった。


ゆっくりと首元へ手を伸ばす。


そして。


大切そうに、小さなお守りを握り締めた――。



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