表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
140/151

第140話 君と歩く帰り道



王国課題の発表を終えた学園には、どこか穏やかな達成感が漂っていた。


一年近く取り組んできた課題を無事に終え、生徒たちの表情には安堵の笑みが浮かんでいる。


「それじゃあ、また明日!」


フィンがいつものように元気よく手を振る。


「お疲れ様でした。」


オリヴィアたちも、それぞれ帰りの馬車へと向かっていった。


賑やかだった昇降口も、少しずつ静けさを取り戻していく。


そんな中、エリアスがリリアーナへ歩み寄った。


「リリアーナ。」


「少しだけ、一緒に歩かない?」


穏やかな笑顔に、リリアーナも自然と微笑み返す。


「ええ。」


二人は肩を並べ、学園の門へ続く石畳をゆっくりと歩き始めた。


冬の澄んだ空気が頬を優しくなでる。


吐く息は白く、夕焼けに染まる空はどこまでも高かった。


葉を落とした並木道を歩く二人の足音だけが、静かに響いている。


言葉はない。


それでも、その沈黙は心地よかった。


「終わったね。」


エリアスがぽつりと呟く。


「ええ。」


「本当に終わったのですね。」


リリアーナは小さく笑った。


「最初は、街道について何を調べればいいのかも分からなかったのに。」


「あの日が懐かしい。」


エリアスも微笑む。


「初めて一緒に街道を歩いた日、君はすごく緊張していた。」


「そんなに分かりやすかったですか?」


「うん。」


「実は僕も緊張していたから。」


「えっ?」


リリアーナが驚いて見上げると、エリアスは少し照れたように笑った。


「前の日から、何を話そうか何度も考えていたんだ。」


「でも、いざ会ったら全部忘れてしまって。」


「ふふっ。」


思わず笑みがこぼれる。


「意外です。」


「リリアーナの前では、意外と余裕なんてなかったよ。」


その一言に、リリアーナの胸が小さく高鳴った。


王子として誰にでも堂々としているエリアスが、自分の前では緊張していた。


それが、どうしようもなく嬉しかった。


しばらく歩くと、冬の風が少しだけ強く吹いた。


リリアーナは思わず肩をすくめる。


その小さな仕草を、エリアスは見逃さなかった。


「寒い?」


「少しだけ。」


そう答えた瞬間だった。


エリアスはゆっくりと右手を差し出す。


「……よかったら。」


「え?」


「リリアーナの手、冷たそうだから。」


リリアーナは差し出された手を見つめた。


鼓動が少しずつ速くなる。




戸惑いながら顔を上げると、そこには優しく微笑むエリアスがいた。


その笑顔に背中を押されるように、そっと手を重ねる。


指先が触れた瞬間、ひんやりとしていた手が、ゆっくりと温もりに包まれていく。


エリアスは強く握ることはしない。


壊れ物を扱うように、優しく包むだけだった。


「少し、温かくなった?」


「……はい。」


小さく頷くと、エリアスは安心したように微笑んだ。


その笑顔を見ているだけで、胸の奥まで温かくなる。


二人は手をつないだまま、ゆっくりと歩き続けた。


言葉は少ない。


それでも、不思議と伝わるものがあった。


やがて学園の門が見えてくる。


それぞれの馬車が待っていた。


「もう着いてしまいましたね。」


少しだけ名残惜しそうに呟くリリアーナ。


「そうだね。」


エリアスも静かに頷いた。


「でも……。」


彼はリリアーナの手をそっと見つめる。




「今日みたいに、またこうして歩こう。街道の調査が終わっても。課題が終わっても。理由なんてなくても。」




その言葉に、リリアーナの瞳が大きく揺れた。




「君と歩く時間が好きだから。」


真っ直ぐな眼差し。


飾らない言葉。


だからこそ、その一言は何よりも胸に響いた。


リリアーナは頬を赤く染めながら、小さく笑う。


「私も……。」


「エリアス様と歩く時間が、大好きです。」


その瞬間、エリアスも少しだけ照れたように笑った。


「よかった。」


それだけの言葉なのに、お互いの想いが伝わってくる。


手を離すのが惜しい。


そんな気持ちが、二人の間に流れていた。


やがてエリアスはゆっくりと手を離す。


名残惜しさを隠すように、小さく息をついた。


「リリアーナ。」


「はい。」


「これから先、何があっても。」





冬の夕日に照らされた青い瞳が、真っ直ぐにリリアーナを見つめる。




「君を一人にはしない。」


その約束は、静かでありながら、誰よりも力強かった。


リリアーナは嬉しさで胸がいっぱいになり、そっと微笑む。


「ありがとうございます。私も……エリアス様のおそばにいます。」


二人は微笑み合う。


冬の空気は冷たいはずなのに、不思議と寒さは感じなかった。


馬車へ乗り込んだリリアーナは、窓からそっと振り返る。


エリアスはその場で、優しく手を振っていた。


リリアーナも小さく手を振り返す。


馬車がゆっくりと動き出す。


重ねた手には、まだ彼の温もりが残っている気がした。


(この時間を……。ずっと、大切にしたい。)




冬の夕焼けの中、アルディス公爵家へ向かう馬車は静かに走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ