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第137話 私を信じる



笑顔で迎えてくれたみんなの姿を見て

リリアーナはホッとしていた



しかし本音は胸の奥は重く沈んでいた。


(昨日のことが……頭から離れない。)




花畑で見た景色。


みんなと笑い合った時間。


突然降り出した豪雨。


耳の奥に響いた、あの不気味な声。


――【アクヤクレイジョウ】


そして。


まるで別人のように、自分へ向かってきた生徒や教師たち。


(……夢じゃない。)


ぎゅっと膝の上で手を握る。


あの時感じた恐怖も。


ガラスに走ったひびも。


すべて鮮明に覚えている。


馬車がゆっくりと学園へ到着した。


「おはようございます!」


「昨日は楽しかったね!」


「また王都へ遊びに行きたいな!」


生徒たちは昨日と変わらない笑顔で校門をくぐっていく。


誰も怯えていない。


誰も昨日の出来事を覚えている様子はなかった。






「……何だったの?」


思わず小さく呟く。


その時だった。


「リリアーナ。」



エリアスがリリアーナの肩に手を置いた


その隣にはオリヴィア。


少し離れた場所にはフィン、セドリック、ヴィンセントの姿もある。


五人とも、どこか硬い表情を浮かべていた。


「……みんな。」


フィンが周囲を気にしながら、小さな声で言う。


「昨日のこと……覚えてるよね?」


その一言に、その場の全員が静かに頷いた。


「やっぱり……。」


オリヴィアが胸元で手を握りしめる。


「夢では、ありませんでした。」


セドリックは登校してくる生徒たちへ視線を向けた。


「ですが……様子がおかしいですね。」


「あぁ。」


ヴィンセントも静かに頷く。


「皆さん、昨日のことなど何もなかったように過ごしています。」


昨日、自分へ襲いかかってきた男子生徒が友人と笑い合っている。


教師も穏やかな表情で生徒へ挨拶をしていた。


まるで、昨日だけが世界から消えてしまったようだった。


リリアーナは静かに目を閉じる。


(前世のゲームには……こんな出来事はなかった。)


ゲームでは、誰も助けてくれなかった。


エリアスも。


オリヴィアも。


フィンも。


セドリックも。


ヴィンセントも。


誰一人として、こんな未来を歩んではいない。


(ここは……。)


ゆっくりと目を開く。


目の前には、大切な仲間たちがいる。


心配そうに自分を見つめてくれている。


その優しい眼差しを見た瞬間。


リリアーナの中で、一つの答えが生まれた。


(ここはゲームじゃない。)


(みんなが生きている、本当の世界。)


エリアスがそっと隣へ並ぶ。


「無理はしないで。」


その一言だけだった。


けれど、その優しい声にリリアーナの肩から少しだけ力が抜ける。


「ありがとう。」


自然と笑みがこぼれた。


チャイムが鳴り響く。


いつもと変わらない学園の一日が始まる。


けれど、リリアーナだけは知っていた。


昨日から、何かが確実に動き始めていることを。


そして心の中で静かに呟く。


(私は、私を信じる。)


その瞳には、昨日までの迷いはもうなかった。

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