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第132話 花が導く未来






木々の並びも、小道も、吹き抜ける風まで同じだった。


(お願い……。)


(どうか、違っていて……。)


胸の鼓動だけが速くなる。


「少し休憩にしよう。」


エリアスの一言で全員が足を止めた。


オリヴィアは鞄から一冊の本を取り出す。






(始まる…っ)



(やっぱり運命は変えられないの…?)







リリアーナの脳裏に、ゲームの記憶が鮮明によみがえる。


オリヴィアが本を開く。


エリアスが花を見つける。


花を摘む。


そして――オリヴィアへ渡す。






(いやだ……っ。)







リリアーナの呼吸が浅くなる。


視線の先では、現実のエリアスも足元に咲く一輪の花へ歩み寄っていた。





(やめて……。)


声が出ない。


身体も動かない。


ゲームと同じ未来が始まってしまう。





エリアスは静かに腰を下ろし、花を摘み上げた。


(やっぱり……。)


リリアーナは唇を噛み締める。


何も変えられなかった。


そう思った、その時だった。








エリアスは花を手にしたまま、オリヴィアではなくリリアーナの前へ歩いてくる。







「リリアーナ。」


突然名前を呼ばれ、リリアーナは目を見開いた。







「え……?」


「少しだけ、失礼。」





エリアスは優しく微笑むと、そっと手を伸ばす。


風がふわりと吹き抜け、ダークプラムの髪が揺れた。


その髪へ、一輪の花が優しく添えられる。









「……思ったとおりだ。」



エリアスは少しだけ目を細めた。



「その花は、君によく似合う。」




その一言に、時間が止まったような気がした。





ゲームでは。


その花はオリヴィアへ贈られた。





それを見たリリアーナは、小さな嫉妬を抱いた。


その感情が、やがて未来を狂わせていった。




だけど今は違う。


同じ花なのに。






そこにあるのは、誰かを傷つける優しさではなく、みんなが笑顔になれる優しさだった。


「……あ。」





張り詰めていた心が、一気にほどけていく。


ぽろり、と涙が頬を伝った。


「えっ!?」


フィンが慌てて駆け寄る。


「リリアーナ!? 大丈夫!?」


セドリックも心配そうに覗き込む。


「気分でも悪いのか?」


エリアスは焦ってリリアーナの顔を覗き込む


「すまない!勝手なことをしてしまっただろうか?!」


リリアーナは何度も首を横に振る。


違う。


そうじゃない。


涙が止まらないのは――。






「違うんです……。」








声が震える。


それでも、笑顔だけは浮かんでいた。





「嬉しくて……。」




その一言だけだった。





理由を知る者は、この場には誰もいない。


オリヴィアは優しく微笑みながら言った。


「とても素敵ですわ。」


フィンも満面の笑みで頷く。


「うん! リリアーナにすっごく似合ってる!」


セドリックは小さく息をついて笑う。


「さすがエリアスだな。」


照れたように視線を逸らすエリアスを見て、その場には穏やかな空気が流れた。






リリアーナはそっと花に触れる。







(変わった……。)


ゲームとは違う未来。


誰も傷つかず、誰も悲しまない未来。


(本当に……変えられた。)








その瞬間――。


ピシッ。


どこからともなく、小さな音が響いた。


リリアーナだけが反射的に振り返る。


誰もいない空間に、髪の毛ほど細いひびが一瞬だけ浮かび上がる。


「……っ。」


思わず息を呑む。


けれど、そのひびは次の瞬間には跡形もなく消えていた。


「リリアーナ?」


エリアスの声に我に返る。


リリアーナは静かに微笑み、小さく首を振った。


「何でもありません。」







そう答えながらも、胸の奥には新たな疑問が芽生えていた。




未来は変わった。


それなのに、世界は何を失おうとしているのだろう。


森を吹き抜ける風だけが、その答えを知っているかのように静かに木々を揺らしていた。

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