第131話 校外学習の日
朝日がカーテンの隙間から差し込んでいた。
リリアーナは静かに目を開けた。
「……今日。」
小さく呟き、胸に手を当てる。
昨夜見た夢は、今も鮮明に残っていた。
オリヴィアの視点で見た、あの日の校外学習。
花を摘むエリアス。
本を読むオリヴィア。
そして――嫉妬に駆られたゲームのリリアーナ。
(今日は……あの日と同じ。)
ゆっくりと深呼吸をする。
けれど、すぐに首を横へ振った。
(違う。私は、あのリリアーナじゃない。)
鏡に映る自分を見つめ、小さく微笑む。
「行ってきます。」
そう言って部屋を出た。
学園には朝早くから多くの生徒が集まっていた。
「リリアーナ!」
元気よく手を振りながら駆け寄ってきたのはフィンだった。
「今日は楽しみだね!」
「ええ。」
笑顔で返事をする。
その横ではセドリックが小さく肩をすくめた。
「朝から騒ぎすぎだ。」
「いいじゃないか!」
二人のやり取りに、思わず頬が緩む。
少し離れた場所にはエリアスとヴィンセントの姿も見えた。
そして――。
(オリヴィア……。)
オリヴィアは友人たちと楽しそうに話している。
その姿を見た瞬間、夢で見た光景が胸をよぎった。
(落ち着いて。)
(まだ、何も始まっていない。)
自分に言い聞かせるように、小さく息を吐く。
馬車に揺られることしばらく。
目的地へ到着すると、生徒たちから歓声が上がった。
「わぁ……!」
広がる森。
木漏れ日が差し込み、小鳥たちのさえずりが響く。
穏やかで、美しい景色。
――だけど。
(この景色……。)
見覚えがある。
夢の中で見た景色と、一寸違わぬ風景だった。
胸が、どくんと大きく鳴る。
「それでは、班ごとに行動してください。」
教師の声が森に響く。
「二時間後、この場所へ集合です。危険な場所へは近づかないように。」
班のみんなが歩き始める。
「よーし! まずはあっちへ行こう!」
先頭を歩くフィン。
「少しは落ち着け。」
苦笑するセドリック。
エリアスも穏やかにその後を歩く。
ヴィンセントは静かに周囲へ目を配っていた。
リリアーナも歩き出すが、その視線だけは何度もオリヴィアへ向いてしまう。
(ゲームでは……。)
ここから少し歩いた場所で。
オリヴィアは本を取り出した。
そしてエリアスは――。
(まだよ。)
(まだ、その場面じゃない。)
心臓の鼓動が早まる。
何気ない会話が聞こえるたびに、身体が強張ってしまう。
そんな時だった。
オリヴィアが立ち止まり、小さく微笑む。
「この辺り、とても静かですね。」
そう言って、鞄へ手を伸ばく。
リリアーナの瞳が大きく揺れた。
(……来る。)
夢で見た、あの場面が。
ゆっくりと幕を開けようとしていた。
リリアーナは思わず拳を握りしめる。
(今度は――。)
(絶対に、同じ未来にはさせない。)
その決意だけが、胸の中で静かに燃えていた。
――校外学習は、まだ始まったばかりだった。




