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第129話 胸騒ぎ



朝日がカーテンの隙間から差し込み、部屋を照らしていた。


目を開けた私は、しばらく天井を見つめたまま動けなかった。


「……。」


昨日、思い出したゲームの記憶。


あれは夢ではない。


胸の奥に残る重苦しさが、その事実を何度も突きつけてくる。


小さく息を吐き、ゆっくりとベッドを降りた。


身支度を整え、食堂へ向かう。


「おはようございます。」


いつも通り挨拶をすると、お母様がすぐに顔を上げた。


「あら、リリアーナ。」


その表情が、すぐに心配そうなものへ変わる。


「顔色が優れませんわ。昨夜は眠れなかったの?」


「少し寝不足なだけですよ。」


私は微笑んで答える。




「本当に?」


お父様も新聞から目を離し、こちらを見た。


「無理をする必要はない。体調が悪いなら学園は休んでも構わないぞ。」


「ありがとうございます。でも大丈夫です。」


そう答えながら席に着く。


温かなスープの香りが漂う。


けれど、食欲は湧かなかった。


向かいに座るルシアンが、じっと私を見つめている。


「リリィ。」


優しい声だった。


「何かあったのか?」


その一言に胸が締め付けられる。


言えるはずがない。


ゲームの記憶を取り戻したことも。


未来を知ってしまったことも。


「あまり眠れなかっただけですよ。」


そう言って笑ってみせる。


ルシアンは少しだけ納得していないようだったが、それ以上は何も聞かなかった。


「何かあったら、すぐに言うんだよ。」


「ええ。」


その言葉が、胸に温かく響く。


私は一人じゃない。


そう分かっているのに、一番大切なことだけは誰にも話せなかった。








教室へ入ると、いつもの賑やかな空気が広がっていた。


「おはよう!」


「今日、先生から校外学習の説明があるらしいよ!」


あちこちで楽しそうな声が飛び交う。


やがて担任が教室へ入り、軽く咳払いをした。


「では、今日は来月予定している校外学習について説明します。」


教室の空気が一気に弾む。


「今回の校外学習は班行動です。ルールを守り、互いに協力しながら行動してください。」


黒板へ予定が書き込まれていく。


私はその文字を見つめたまま、指先に力を込めた。


――校外学習。


その言葉だけで、昨夜の記憶が胸をよぎる。


「王国課題も控えていますから、忙しい時期になります。」


先生は教室を見回し、ふっと表情を和らげた。


「ですが、たまには息抜きも必要です。この日は仲間と一緒に、思い切り楽しんできてください。」


その一言に、教室中が笑顔に包まれる。


「やった!」


「お弁当楽しみ!」


「どこの班が一番早く回れるかな?」


笑い声が次々と重なっていく。


けれど――


私は笑えなかった。


(あの日も……みんな、こんなふうに笑っていた。)


誰も知らない。


この先に待つ未来を。


私だけが、その結末を知っている。


教室の賑やかな声が、どこか遠く聞こえた。


その時だった。


「リリアーナ。」


名前を呼ばれ、私ははっと顔を上げる。


そこには、心配そうにこちらを見つめるエリアスの姿があった。


「最近、ずっと様子がおかしいよ。」






その言葉に、胸が小さく痛んだ。


私は慌てて微笑みを作る。


「申し訳ありません。少し考え事をしていただけです。」


そう答えながらも、不安は消えない。


校外学習の日は、確実に近づいていた。

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