表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
128/151

第127話 忍び寄る記憶【後編】


目の前に広がる景色を見た瞬間、全身から血の気が引いた。


――王立学園。


見覚えのある石畳。


色鮮やかな花壇。


朝日に照らされた校舎。


私はこの景色を知っている。


忘れたくても、忘れられるはずがない。





(ゲーム……。)


私は誰かの目を通して、その景色を見つめていた。


ゆっくりと視線が上がる。


門の前に立っていたのは、一人の少女。


淡い空色の髪を揺らしながら、不安そうに校門を見上げている。


オリヴィア・フローレンス。


ゲームの主人公。


(また……始まるの……?)


胸が苦しくなる。


オリヴィアは深呼吸をすると、小さく微笑み、校門をくぐった。


その瞬間だった。





「おはよう。」


聞き覚えのある声。


オリヴィアが振り返る。


そこには、柔らかな笑みを浮かべるエリアスが立っていた。


――ゲームのエリアス。


私の知るエリアス様とは違う。


けれど、その姿は前世で何度も見てきた。


オリヴィアは少し驚いたように目を丸くし、ぎこちなく頭を下げる。


ゲームは、私の記憶どおりに進んでいく。


(やめて……。)


見たくない。


もう思い出したくない。


そう願っても、映像は止まらない。


やがて人混みの向こうから、一人の令嬢が姿を現した。


艶やかなダークプラムの髪。


堂々とした立ち姿。




誰もが目を奪われるほど美しい少女。





――ゲームのリリアーナ・アルディス。





彼女はオリヴィアの前で立ち止まり、冷たい瞳を向ける。





『あなたが、ローズ侯爵令嬢ですの。』


静かな声。


けれど、その一言だけで空気が凍りつく。


『殿下に近づくことは、お勧めいたしませんわ。』





私は思わず首を振った。







「違う……。」


「あれは、私じゃない……。」


ゲームのリリアーナがゆっくりと背を向ける。


その瞬間――


世界が大きく軋んだ。


ギシ……


ガラスを爪でなぞるような、不快な音。


景色に細いひびが走る。


ゲームの世界にまで、ひび割れが……?


そう思った刹那。


【悪役令嬢として振る舞え】


冷たい声が、頭の奥へ突き刺さる。


「――いやっ!」










「リリアーナ!」


肩を揺さぶられ、私は勢いよく目を開いた。


目の前には、心配そうな表情のエリアス様。







「大丈夫?」


息が苦しい。


胸が激しく上下する。


夢ではない。


あれは、夢ではなかった。






「…も…申し訳ありません。少し、ぼんやりしてしまって……。」


私はそう答えながらも、自分の手が小さく震えていることに気付いた。


エリアス様は何も聞かず、そっと私の手を包む。


「今日はもう無理をしない方がいい。」


その温もりに、張りつめていた心が少しだけほどける。


けれど。


胸の奥では、あの声だけが消えない。


【悪役令嬢として振る舞え】


その命令は、静かに、そして確かに――


再び私の運命を動かし始めていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ