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第122話 実りの村



休日の朝。


王都を北へ進んだ先には、どこまでも続く緑の畑が広がっていた。


風が吹くたび、黄金色に色づき始めた麦がゆらゆらと揺れる。


「綺麗……。」


リリアーナは思わず足を止めた。


学院や王都では見ることのできない景色だった。


「ここが王都へ野菜や麦を届けている村だよ。」


エリアスが周囲を見渡す。


「市場で聞いた話は、この村から始まっているのかもしれないね。」


二人は村長に挨拶を済ませると、畑で作業をしていた農夫たちのもとを訪れた。


「学院の課題でいらしたんですか。」


年配の農夫は汗を拭きながら笑う。


「わざわざこんな村まで来る学生さんは珍しい。」


「皆さんのお話を伺いたいんです。」


リリアーナが頭を下げると、農夫は快く頷いた。


「なら休憩しながら話そう。」


木陰に腰を下ろし、冷たい井戸水をごちそうになる。


「今年の作物はいかがですか?」


エリアスが尋ねる。


「出来は悪くない。」


農夫は畑へ目を向けた。


「ただ、王都へ運ぶまでが大変でね。」


「街道が傷んで荷車が進まない日もある。」


「雨が降ればなおさらだ。」


市場で聞いた話と同じ言葉だった。


リリアーナは手帳へ書き留める。


「やはり原因は街道にもあるのですね。」


「それだけじゃないよ。」


今度は若い女性が会話に加わった。


「収穫の時期になると人手が足りなくなるんです。」


「若い人は王都へ働きに行ってしまいますから。」


「だから家族だけで畑を守っている家も多いんですよ。」


その言葉にリリアーナは顔を上げた。


市場の職人不足。


そして農村の人手不足。


別々の話だと思っていたものが、一つにつながった気がした。


「……エリアス様。」


「うん。」


彼も同じことに気付いていた。


「一つの問題は、別の場所にも影響している。」


「そうだね。」


エリアスは静かに頷く。


「だから一つの声だけでは、本当の姿は見えない。」


昼が近づく頃。


農家の人たちは昼食に焼きたてのパンと温かな野菜のスープを振る舞ってくれた。


「質素なものだけど、たくさん食べていって。」


「ありがとうございます。」


リリアーナはスープを一口飲み、優しく目を細めた。


「とても美味しいです。」


農家の人たちは嬉しそうに笑う。


その笑顔を見つめながら、エリアスはふと呟いた。


「王都で食べる料理も、こうして誰かが育ててくれたものなんだね。」


リリアーナは静かに頷いた。


「私たちは、知らないうちにたくさんの人に支えられていたんですね。」


帰りの馬車の中。


二人の手帳は、新しい気付きで何ページも埋まっていた。


しかし、それ以上に心に残ったのは、人々が誇りを持って畑を守り続ける姿だった。


「また来たいですね。」


リリアーナが窓の外を眺めながら呟く。


「ああ。」


エリアスは柔らかく笑う。


「次は、収穫の季節にも来てみよう。」


その約束を胸に、馬車は夕暮れの街道を学院へ向かって走り続けた。

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