第119話 王都の声
休日の朝。
約束の時間より少し早く、リリアーナは学院の正門へ着いていた。
ほどなくしてエリアスが姿を見せる。
「待たせた?」
「いいえ、私も今来たところです。」
二人は並んで馬車へ乗り込み、王都へ向かった。
窓の外には、春の陽射しを浴びた街並みがゆっくりと流れていく。
「こうして二人で王都へ出掛けるのは久しぶりですね。」
「そうだね。」
エリアスは外を眺めながら微笑む。
「公務で来ることはあっても、街を歩く時間はあまりないから。」
「今日はゆっくり見て回れそうですね。」
「ああ。それも課題の一つだからね。」
馬車を降りると、市場は朝から活気にあふれていた。
焼きたてのパンの香り。
色鮮やかな野菜や果物。
行き交う人々の笑い声。
リリアーナは思わず辺りを見回す。
「見ているだけでも楽しいです。」
「でも、今日は買い物じゃないよ。」
エリアスが笑う。
「ちゃんと調査もしないと。」
「ふふっ、そうでした。」
二人は顔を見合わせて笑い、市場の中へ歩き出した。
八百屋では野菜の収穫について。
鍛冶屋では鉄の価格について。
パン屋では小麦の値上がりについて。
店主たちは最初こそ戸惑っていたが、二人が真剣に耳を傾ける姿を見ると、少しずつ本音を話してくれるようになった。
「最近は仕入れが大変でね。」
「街道が傷んで荷物が遅れることもあるんだ。」
「若い職人も少なくなってきた。」
リリアーナは手帳へ丁寧に書き留めていく。
市場を歩くだけで、次々と新しい話が聞こえてきた。
噴水のそばで一息つき、手帳を見返す。
「本では分からないことばかりでした。」
「うん。」
エリアスも手帳をのぞき込む。
「こうして話を聞いてみると、一つの問題だけじゃないって分かる。」
「だからテーマ選びも難しいんですね。」
「でも、急いで決める必要はないよ。」
エリアスは穏やかに笑った。
「一年かけて取り組む課題だから。」
「まずは、この国を知ることから始めよう。」
リリアーナも笑顔で頷く。
「はい。」
その言葉に背中を押されるように、二人は再び市場の奥へ歩き出した。




