第118話 未来への第一歩
王国課題が始まって数日。
一年を通して取り組むこの課題は、まず研究テーマを決めることから始まる。
学院の図書室では、多くの生徒たちが資料を広げ、それぞれの課題について話し合っていた。
窓際の席で、リリアーナは王国の地図と数冊の本を見比べながら、小さく息をつく。
「教育に農業、医療、魔法技術……。調べれば調べるほど、どれも大切なことばかりですね。」
向かいに座るエリアスは、静かに本を閉じた。
「父上から報告を受けることはある。」
リリアーナが顔を上げる。
「ですが、数字や文書だけでは、民の暮らしまでは見えてきませんものね。」
エリアスは穏やかに頷いた。
「ああ。だからこそ、自分の目で見て、自分の耳で聞きたい。」
その言葉に、リリアーナも自然と微笑む。
「私も同じです。実際にお話を伺って初めて分かることが、きっとあります。」
二人は再び地図へ目を向けた。
王都、港町、農村、鉱山の町――。
王国には、まだ知らない景色が数え切れないほど広がっている。
その時、図書室の扉が勢いよく開いた。
「やっぱりここだった!」
元気な声とともにフィンが姿を現す。
後ろにはセドリック、ヴィンセント、オリヴィアも続いていた。
「皆さんも課題の相談ですか?」
オリヴィアが尋ねると、リリアーナは頷く。
「はい。でも、一年間取り組む課題だからこそ、最初のテーマ選びは慎重にしたくて。」
「俺たちも同じだよ。」
フィンは苦笑しながら肩をすくめた。
「何を選んでも面白そうで、逆に決められないんだ。」
「焦る必要はない。」
セドリックが穏やかに言う。
「時間をかけて取り組く課題だからこそ、納得できるテーマを選ぶことが大切だ。」
皆が頷く中、エリアスは地図の王都へ指を置いた。
「まずは市場へ行こう。」
「市場ですか?」
「ああ。」
「人も物も集まる場所だ。そこで暮らしを見れば、この国が抱える課題も見えてくるはずだ。」
リリアーナは地図に小さく印を付ける。
「では、最初の調査は市場ですね。」
「ああ。今度の休日に向かおう。」
「楽しみです。」
リリアーナが微笑むと、エリアスも静かに笑みを返した。




