第117話 王国課題
三年生最初の実技授業。
学院の大講堂には、三年生全員が集められていた。
ざわめく生徒たちの前へ、一人の教師が静かに歩み出る。
「皆さん、本日から三年生としての特別課題を始めます。」
その一言で講堂が静まり返った。
「この課題は一年を通して取り組んでもらいます。」
一年…。
生徒たちの表情が引き締まる。
「課題名は『王国課題』です。」
教師はゆっくりと言葉を続けた。
「未来の騎士、魔法師、文官、そして貴族として、この国をより良くするための提案を考え、実践してください。」
「ただ机上で考えるだけではありません。」
「実際に街へ赴き、人々の声を聞き、王国の現状を知り、自分たちなりの答えを導き出してもらいます。」
リリアーナは自然と背筋を伸ばいた。
(王国の未来を考える課題……。)
未来の公爵家を担う者として、決して他人事ではない。
教師は一枚の名簿を手に取った。
「課題は二人一組で行います。」
講堂がざわめく。
「組み合わせは学院側で決定しました。」
次々と名前が読み上げられていく。
「セドリック、ヴィンセント。」
ヴィンセントは静かに頷く。
「よろしく。」
「こちらこそ。」
セドリックも穏やかに応じた。
続いて教師が名を呼ぶ。
「フィン、オリヴィア。」
「えっ、本当ですか?」
フィンは目を丸くする。
「よろしくお願いいたします、フィン様。」
オリヴィアはいつものように上品に一礼した。
「こちらこそ! 一年間よろしく!」
嬉しそうなフィンに、周囲から小さな笑いが起こる。
教師は最後の名簿へ視線を落とした。
「最後の組です。」
講堂が静まり返る。
「エリア殿下。」
一拍置いて。
「リリアーナ。」
誰も驚かなかった。
未来の国王となる第一王子。
そしてその婚約者、公爵令嬢。
二人が同じ課題に取り組むことは、ごく自然な組み合わせだった。
エリアスはリリアーナへ視線を向け、穏やかに微笑む。
「よろしく、リリアーナ。」
「はい。よろしくお願いいたします、エリアス様。」
教師は二人を見つめながら静かに言った。
「王国の未来を担う皆さんだからこそ、広い視野を持ち、多くを学んできてください。」
リリアーナは静かに頷く。
この一年は、きっとこれまで以上に多くの人と出会い、多くの景色を見ることになる。
そして、その経験は未来へと繋がっていく。
まだ誰も、その先に待つ試練を知らない。
ただ、新たな一歩だけが、静かに踏み出された。




