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第101話 休日の王都【後編】



王都の大通りへ足を踏み入れると、休日の街はたくさんの人で賑わっていた。


色とりどりの花が並ぶ花屋。


焼きたてのパンの香りが漂う店先。


大道芸人の周りには子どもたちの笑い声が響き、露店では職人たちが手作りの品を並べている。


「わぁ……。」


リリアーナは思わず立ち止まった。


「こんなにゆっくり王都を歩くのは初めてです。」


「今日は時間を気にせず楽しもう。」


エリアスが微笑む。


「まずは約束のお店だね!」


フィンが先頭に立って歩き出し、一行も後に続いた。


しばらく歩くと、甘く香ばしい香りが風に乗って漂ってくる。


「あっ!」


フィンが指を差した。


「見つけた!」


木製の看板には、美しい文字で




『Quatre Saisonsキャトル・セゾン




と書かれている。


店先には何人ものお客が並んでいた。


「やっぱり人気なんだね。」


オリヴィアが感心したように呟く。


「でも、このくらいならすぐですよ。」


セレナが笑顔で答えた。


順番を待つ間も、店から漂う甘い香りに胸が弾む。


やがて一行の番になると、店員がショーケースを開いた。


そこには、黄金色のパイ生地を幾重にも重ねた美しいミルフィーユが並んでいる。


間には淡い桜色のクリーム。


仕上げには、小さな花びらが優しく飾られていた。


「綺麗……。」


思わずリリアーナが見惚れる。




「こちらが春限定の『春花のミルフィーユ』でございます。」


店員の説明を聞きながら、それぞれが一つずつ購入した。


近くの噴水広場へ移動すると、六人はベンチへ腰を下ろす。


「それじゃあ……。」


エリアスが微笑む。


「いただこうか。」


「いただきます!」


みんなの声が重なった。


リリアーナはそっと一口いただく。


サクッ――。


軽やかな音とともに、繊細なパイがほろりとほどける。


優しい甘さのクリームが口いっぱいに広がり、花の香りがふわりと鼻を抜けた。


「……おいしい。」


思わず頬が緩む。


「本当に、春を食べているみたい。」


「でしょう?」


オリヴィアも嬉しそうに微笑む。


「私も初めて食べた時、同じことを思いました。」


フィンは夢中になって頬張りながら言う。


「これは並ぶ価値あるな!」


「フィンは食べるのが早すぎる。」


セドリックが苦笑する。


「まだ一口しか食べてない人もいるのに。」


「だって美味しいんだから仕方ないじゃん!」


その言葉に、一同は笑い出した。


穏やかな笑い声が広場に響く。


その時だった。


ふわり、と春風が吹き抜ける。


「きゃっ!」


リリアーナの帽子が風を受け、ふわりと宙へ舞い上がった。


「あっ!」


帽子はくるりと回りながら、人混みの向こうへ流されていく。


リリアーナが思わず駆け出そうとした瞬間――。


「任せて。」


エリアスが軽やかに駆け出した。


人々の間をすり抜け、飛ばされそうになった帽子をそっと受け止める。


「はい。」


優しく差し出された帽子を受け取り、リリアーナはほっと胸をなで下ろした。


「ありがとうございます、殿下。」


エリアスは帽子についた小さな花びらをそっと払い、懐かしそうに微笑む。


「春風には気をつけないとね。」


その一言に、リリアーナも自然と笑みがこぼれる。


「ええ……。あの日も、風に大切なものを連れていかれましたもの。」


二人の脳裏に浮かんだのは、幼い日の湖のほとり。


蝶々の刺繍が入った一枚のハンカチ。


そして、忘れることのできない春の日。


「今度は無事でよかった。」


エリアスは帽子をそっとリリアーナの頭にかぶせ直した。


「ありがとうございます。」


二人が微笑み合うと、フィンが大きく手を振る。


「おーい!二人とも置いてくぞ!」


「待ってください!」


リリアーナは思わず笑いながら駆け出す。


その隣を、エリアスも穏やかな笑みを浮かべて歩き始めた。


春の王都には、今日もたくさんの笑顔があふれている。


この何気ない一日が、いつまでも続けばいい――。




そんな願いを胸に、六人は再び賑やかな街並みの中へと歩いていった。

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