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第七話 仲間?

 魔法の灯を持ったミランダに従いて行く。他の場所からもジャンと同じく先導される男女がいた。全員が戦いに備えた格好をしている。人々は向かう場所が同じだった。雨水が合流して川になるように人々が列になる。


 集まった男女は顔見知りではないので、共通の話題がない。人々の行き着いた先には広場があった。広場の後方に厚い壁で覆われた四角い建物がある。


 建物の前にアリスがいる。集団を前にアリスが涼しい顔で説明する。

「この島には産業がない。仕事もない。だが、生きて行くには金がいります。金の稼ぎ方は簡単、迷宮に入って価値あるものを拾う。後は街で換金するだけです。結果を出して示しなさい」


 説明は簡単だったが、何が金になるのか、どんな危険があるのか、等の説明は一切ない。


 どこからか男の声がする。

「迷宮に入らないとどうなる? 殺されるのか?」


 愚問だな、とジャンは心の中で謗った。ジャンと同じ考えを思った人間も何人かいたのか、鼻で笑った。乾いた笑いが小さく響いた。


 ドサッと音がする。集団が移動して小さな輪ができた。輪の中には先ほどの質問を発した男がいた。調べた訳ではないが、男は死んでいると予想できた。


「他にご質問がある方は?」と、アリスの透き通る声が響く。死んだ男は馬鹿だが、それ以上の馬鹿は他にいなかった。辺りがシーンとなった。建物の入口がスライドして開いた。奥には地下迷宮に続く階段があった。


 階段の下からは何かが焼ける臭いが微かにした。誰も動かないとアリスが勧める。

「お利口さんなのか、それとも行儀が良いのかしら? もう入っていいのよ」


 集団の内、何人かが顔を見合わせて階段に向かう。迷宮に入らなかった場合はどうなるかは、先の男が命を張って教えてくれた。


 ここまで先導してくれたミランダたちは中に来ない。地下迷宮に下りて行く人間は約六十人。パッと見て女性だとわかる人間は十人。島に送られてくる悪党は男性だけではない。


 女性だからといって地下迷宮に行かなくてもいい理由にはならない。

「島の上で訪れる死は男女平等。命に魚の餌以上の価値があるかどうかの選別だな」


 地下迷宮の一階には円形の大広間があった。壁の所々に窪みが有り、火が灯っている。油の燃える臭いもなければ、熱くもない。原理はわからないが、灯に見える何かだ。


 大広間に集まった男たちの中には社交的な人間がいる。付近の人間に話し掛けて、パーティを組んでいく。一人で謎の場所を歩くより、小集団になったほうが生き残りやすいと考えるのは当然だ。


 誰とも組まずに進んでいく人間もいるが、ジャンは賢い選択だとは思わない。他人が『信用できない』は間違いだ。信用できるかどうかわからない、が真実だ。


「一緒に行きましょう」

 ジャンと同じくらいの年齢の女性が声を掛けてきた。


 赤い髪に薄いオレンジ色の肌。恰好は粗末な服に布の靴。武器と呼ぶにはあまりにも心細い木の杖を持っている。危険な場所に赴くなら、囮にもならないくらいに貧弱な装備だ。


「なぜ俺なんだ?」


 いきなり断りはしない。悪党島に送られてくるのは悪人に違いない。だが、悪党島で生きているのなら無能ではない。


 ジャンと同じ船に女性はいなかった。女性が昨日の便で悪党島に送られたのなら、少なくなくても初日で死ななかった状況を意味する。


 女性の顔には媚びた表情も、恐れもない。

「港での決闘を見ました。貴方の腕なら充分に役に立つと考えました」


 言葉が綺麗で顔には暗い色もない。だからこそ気になる。


 ジャンはわざと威圧する口調で尋ねた。

「あんたは全然強そうに見えない。俺に組むメリットがあるのか?」


 女性は怯えずに答える。

「私は魔法薬を持っています。また、少しですが魔術の心得があります」


 ここから先は、村の子供たちがやる度胸試しではない。何かがいて、何かが仕掛けてあると見るのが妥当。魔法薬の一本が生死をわけることもある。


 ジャンはさらに女性を試した。意地悪な言葉をジャンは女性に投げかける。

「魔術は必要ない。薬だけくれ。俺にはそれで充分だ」


「貴方が力づくで、私から魔法薬を奪うことは容易いでしょう。魔法薬にはラベルが張ってあるので、読めれば効果もわかるでしょう。でも貴方の行動は正しいんでしょうか」


 もってまわった言い方は、試したジャンに対する当てつけだ。女性は善悪の話をしてはいない。魔法薬が何かわからないなら、貼ってあるラベルが正しいとは限らない。


『魔法薬を持っていた女性は信用できない。ならなぜ、魔法薬のラベルだけは正しいと信じられるのか』

 無法者や犯罪者に怯えない表情。相手を見下さず、自分を卑下しない態度。

 

  口調は穏やかだが、駆引きに慣れている人間の反応だ。

「いいだろう、いけるとこまで一緒に行こう。俺の名はジャン。武器の扱いができる」


「私の名はマキア。共にここから生きて出ましょう」


 マキアは名乗ると、先に進もうとしたのでジャンは尋ねる。

「二人だけでいいのか? あと二人くらいいたほうが安全だろう」


 マキアは振り返って、サラリと拒否した。


「金目の物を持ち帰るのが目的だから少人数のほうがいいわ。四人なら二人の倍は稼がなければいけない。二戦なら勝てても、四戦なら不運を引けば終わるわ」


 金目の物は必要だ。人数が多ければ、分け前が減るのは事実。だからといって、仲間を増やさない選択肢が賢いとは思えない。だが、ジャンは別の思惑があるので口を慎んだ。


 マキアの目的が協力ではなく、ジャンの始末にあったとする。ならば、ここでどちらに付くかわからない人間を二人加えるよりは、マキアとジャンの二人のほうが安全である。


 誰かがジャンの命を狙っているのは事実。また、襲撃は一日に一回まで、なんてルールはない。昼飯時に襲われた以上、用心は必要だ。


 裏切らないと、信じない、は両立する。

「早く帰って寝たいから。さっさと片付けよう」


 ジャンはマキアと並んで歩き出した。

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