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第十八話 日常会話

 痩せた男が着ていた鎧は残ったが、ジャンとはサイズが合わなかった。小太りの男と背の高い男の鎧の残骸を調べる。両方のパーツと組み合わせれば、使えそうだった。


 三つの鎧をベースに一つの鎧を作る。できるかもしれないので、鎧は貰った。


 中古の剣は痩せた男の剣がジャンの剣より質が良さそうなのでこれは貰う。残りは男たちが持っていた、小物の分配となる。薬や日用品ならわかるが、不明な物が三つあった。雑貨にも見えるし、玩具にも見える。


「時間が掛かりそうだ、外に出よう。あまり中で、ああだ、こうだ、と時間を使うのは良くない」


 ジャンの提案にバルサも乗った。

「ここは入口に近すぎる。次に来るやつが好戦的だった場合は危険だ」


 迷宮の外に出ると眩しい日差しを感じた。明るい場所で小物を調べる。だが、価値があるのか、ないのか、やはりよくわからない。死んだ男たちのリーダーであるバルサに尋ねる。


「これはなんだ? どれくらいの価値がある?」


 真面目な顔でバルサも答えた。

「迷宮の箱の中から出てきたけど、よくわからない。箱から他にも多く何かが出てきた。痩せた男が、値打ち物はこれだけだと判断していた」


 バルサのパーティには目利き担当がいたのなら、残っている三つには価値があると見ていい。では三つの中で一番価値があるのはどれか?


 単純に考えれば、目利き担当が持っていた品が一番高い。痩せた男がどれを持っていたかをバルサは教えない。当然の対応だ。バルサは友好的であるが、仲間ではない。


 鎧と剣を渡した上に、高額品を渡す義理まではない。かといって、どれも価値がわからない状態で、店に持ち込んではいけない。確実に足元を見られる。


 ジャンはバルサに頼った。

「どこか適切な価格で買い取ってくれる宛てはあるか?」


 バルサがフンと鼻で笑う。

「そんな奇特な奴がこの島にいたら会ってみたいね。小太りの男がいただろう? 本当かどうか知らないが、交渉には自信があると強気だったから奴に任せる気だった」


 戦闘力重視でバルサは仲間を選んでいなかった。バルサは生き残った後をきちんと考えている。ここまでリリーは口を出していない。顔からしてご機嫌斜めだった。


 子供に媚びるのに抵抗を持っていては悪党島では死ぬ。ジャンは下手に出てリリーに尋ねた。

「お父さんは困っているんだ。助けてくれないかリリー。頼むよ」


 丁寧に頼むとリリーは渋々の態度で教えてくれた。

「高いのは、これとこれ、これはあまり高くない。ラウラの店なら買ってくれる。価格は三つで銀貨五十枚くらいだよ」


 リリーの言葉をきいてバルサがムスッとする。

「銀貨五十枚って足元を見過ぎじゃないのか?」


 不機嫌なリリーをさらに不機嫌にはさせないでほしい。

「バルサはこの島で品物を売った経験はあるのか?」


 バルサはジャンにきつい視線を送る。

「売買はないが、物々交換で仲間と自分の装備を入手した」


 ジャンが武器を抜く。バルサは反射的に武器に手をかけた。だが、ジャンに敵意がないとすぐにわかったので、バルサは武器から手を放す。ジャンは剣を見せた。


「俺は二度、島の店を利用した。最初の店で剣を売った。このクラスの剣の売値が二本で銀貨三枚だった」


 武具の知識があるバルサは驚いた。

「これが二本で銀貨三枚だと! 完全に騙されている。よく取引に応じたな」


「俺も最初は買い叩かれていると腹が立った。だが、売った先はリリーと個人的に付き合いがある店だ」


 バルサが押し黙った。付き合いのある店なら条件が悪いことはあっても、非常識な買い叩きはない。定期的に品物を売りに来るお得意様は重要だ。


 苦い顔のバルサにジャンは教える。

「次に露店でサンドイッチを三つに、ドリンク二杯を買った。価格は銀貨二十枚だった。この街の物価は大陸とは違う」


 ジャンが遭遇していた取引がおかしければバルサは笑ってジャンを馬鹿にするはず。バルサの表情は厳しい。


「私たちには制限がある。探索者として一人前と認められるまでは、飯は組合が用意してくれる。武器もくれる。代わりに私たちには制限が付く。試練の迷宮から持ち帰った品は全て組合で物々交換だ」


 ジャンはミランダの搾取対象だが、バルサは組合の家畜だ。餌はもらえるが、金は持てない。バルサを引き受けた組合は『試練の迷宮』からと表現している。なら、自由になる金が欲しければ、試練の迷宮ではなく、狂信の迷宮に行かねばならない。


 組合の罠だ。全部没収では誤魔化そうとする人間が必ず出る。あえて狂信の迷宮を対象外として抜け道を作った。ホイホイと狂信の迷宮に出た奴を殺す。意地の悪いわからせ方だ。


 悪意にしっかり嵌められたバルサをジャンは皮肉る。

「馬鹿らしくなって、一人前になる前に狂信の迷宮に来た。だが、結果として馬鹿を見たのか。他の見習いに対する見せしめだな」


 ジャンの言葉にバルサがムッとした。ジャンは掌でバルサを制して宥める。

「気持ちはわかるよ。俺も無一文だ。家は小遣い制ですらない。財布は娘が管理して、中身はお母さんの元に行く」


 バルサとジャンではスタートが違った。収益を吸い上げる者が違うだけで、たいして待遇は違わない。バルサの表情が和らぐ、お互いに状況を理解した。


 ジャンはバルサに方針を尋ねる。

「どうする? リリーに換金させて銀貨に替えるか? それとも自分で売ってみるか?」


「私の取分はどうなる? 娘さんは手数料を抜くのか」


 バルサの顔に諦めがある。手数料の額が高いなら交渉するが、低いなら飲むつもりだ。

「手数料はいらないの」とリリーはムスッとした顔で答える。


 ラウラの店に行くと、ラウラは前の同じように小窓から外を確認する。


 今回はバルサがいたので、質問してくる。

「そっちの女はリリーのお母さんではないね。誰だい?」


「知らない人」とリリーがブスッと答える。


 当然の如く、ラウラはバルサの入店を拒否する。

「なら店には入れられないね」


 取引の現場を見ないと、本当はいくらで換金されたのかバルサにはわからない。


 バルサが拒否するかと思ったが、違った。バルサは肩を竦めた。

「外で待つよ。さっきまで冷たい場所にいたんだ。外で温まっていく」


 汗を流しながら、熱い中で温まるはない。さすがにバルサだけ外で待たせるのは悪い。

「俺も外で待つか。リリー、換金を頼むよ」


 リリーはさらにムスッとしたが、リリーでなければ換金できない。

渋々とラウラの店に入った。

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