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第十七話 触れあい

 自分でも馬鹿なことをしようとしているとジャンは理解している。ここで自分が殺されてもリリーは助かる。入口に近いのでリリーなら独りでも生きて帰れる。


 バルサが早まる前にジャンが動いた。片手を挙げてからバテレンに尋ねる。

「リリーの父親で、ジャンといいます。発言してもよろしいでしょうか」


 予期しない場所からの言葉にバテレンが興味を示した。

「発言を許可します」


「バルサを殺すのを止めていただけないでしょうか?」

 ルドルフの敵意がジャンにも向けられた。ここで怯んではバルサを助けられない。


ジャンはしっかりとバテレンを見据えた。バテレンが棘のある言い方をする。

「何の権利があって、貴方は私に命令するのです」


 下手なことを口にすれば終わりだ。ジャンは慎重に言葉を紡いだ。

「私の言葉は命令ではなく、お願いです。また、バテレン様に対して私は何の権利も持っておりません」


「至極当然です」とバテレンが頷く。ジャンは言葉を続ける。


「止める理由は二つあります。一つ目は、私にはリリーのお父さんとしての義務があるからです。目の前で無残に人が殺されるのを見せるのは教育上、良くない」


 何を主張しているんだと、口にしたジャンですら思うが、バテレンの反応は悪くない。

「教育上の配慮ですか。親には子供に良い教育を受けさせる義務がある。立派な親心です。もう一つの理由はなんですか?」


「バルサはリリーに手を出そうとした犯罪者の一味です。子供に手を出されて親として黙ってはいられません。親の威厳を示すためにも、バルサには私の手で罰を与えたい」


 バテレンはふむふむと頷く。

「二つ目も子供を持つ親としてなら、当然の主張ですね。つまり、バルサを自分の手で始末したいが、ここで殺すと子供の教育上によくない。いいでしょう、ではバルサの始末を貴方に委ねましょう」


 バテレンは自分で出した結論に納得したのか、前を向いて歩き出した。

「上手くやりやがったな」とルドルフはジャンを軽く称える。


 ルドルフが槍を拾ってバテレンの後を従いていく。


 バテレンとルドルフが消えるとバルサがどさりと腰を下ろした。安全が確保されている場所ではないが、ジャンも腰下ろした。おもわず、ジャンの口から本音が出る。


「死ぬかと思った」


 バルサがジャンをギロリと睨む。

「それで罰ってなんだ? 素っ裸になって股でも開けってか?」


「心で思っても、子供の前でそういうことを言うなよ。命が助かって少しでも有難いと感謝しているならなおさらだ。家族関係が壊れるだろう」


 ジャンの言葉にバルサが不思議がる。

「子供って本当だったのか?」


 ガシッとリリーがジャンの腕を掴む。

「お父さんは、リリーのものだからね。あげないんだから」


 リリーの言葉にバルサは面食らった。

 ジャンにはバルサと戦う意思はなかった。バルサにも戦意は見られない。


「どうであれ、俺はリリーのお父さんなんだよ」


 死んだ三人と違い、バルサには良識が残っていた。バルサは詫びた。

「父親の前で娘に手を出すとは仲間が悪いことをした」


 常識人のバルサと死んだ三人とでは人間としての格が釣り合わない。

「本当に仲間だったのか?」


 バルサが死んだ仲間に沈んだ顔を向ける。

「口が悪く、手癖が悪く、頭も悪い。正直、馬が合わないと思ったが、仲間では、あった」


 仲間が死んで悲しいの顔ではない。別れて清々する顔でもない。死んだ方はどう思っているかわからない。短い付き合いだが、仲間意識をバルサは持っていた。


 バルサに興味が沸いたので尋ねた。

「どうして、あんな馬鹿な口をバテレンにきいた?」


 ふんとバルサが鼻を鳴らして軽い口調で話す。

「それは報酬がもらえる質問か?」


 ジャンが黙ると、プッとバルサが笑った。

「冗談だよ。結婚詐欺と強盗殺人の容疑で私は悪人島に送られた」


 いたって普通の成り行きだった。ジャンはバルサの心境に興味があった

「後悔しているのか?」


「ここに送られたのは相応の罰だよ。後悔はしている。どうせ罰っせられるんだったら、自分に嘘を吐くべきではなかった。相手が誰でも自分を曲げずに振舞って処分されるべきだった」


 後悔したからといって、人は簡単には変わらない。変われたのなら、後悔した人間にある種の強さが宿った時だ。傭兵団にも筋や道に拘る人間はいた。そのほとんどは死んだが、眩しさに似た美しさがあった。


 バルサには傭兵団で見た人間の尊さが備わっている。


 バルサの持つ心にジャンは美を見出した。

「俺たちと組まないか?」


 ジャンの口から自然と勧誘の言葉が出た。


 苦笑いでバルサはそっとリリーを指差した。

「止めておくよ、娘さんはパパを盗られたくないようだ」


 リリーの顔を見ると明らかに不機嫌だった。

「参ったな」とジャンは諦めた。


 少なくてもミランダの家にいる間はリリーの機嫌を取らなくてはならない。


 サバサバとした口調でバルサは提案した。

「迷惑料しては少ないが、こいつらの持ち物で使える物を分けよう」


 バルサの提案に驚きはしない。死体は『仲間だった』つまり、今は単なる死体だ。バルサもジャンも悪党島で生きていく必要がある。ならば、有難く分けるのみだ。躊躇っても無意味である。別の誰かが持って行くだけ。


 ジャンもバルサも死ねば同じだ。であるなら、使える品の分配は必然。バルサとジャンが腰を上げると、リリーも分別を開始する。


 リリーのほうがジャンやバルサより手際が良かった。さすがは島の子供だ。褒めてばかりはいられない。早く慣れないと、死が追ってくる。

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