理想の友達にしてあげること
今更であるが、フレイが終末教団の教祖であることは、捕らえた教団員や幹部からの情報で知られていた。
しかしながら、皇帝になることが確定している皇太子が国家転覆を企てるわけがない、ということで誰も真に受けていなかった。
全員が嘘を言っているか、騙されていると解釈していた。
フレイの座を脅かしたがっている者か、あるいは皇帝の権威を弱めようとしている者、などである。
だが結果はフレイが本当に教祖であった。
フレイが『若気の至り』を働いたことで皇帝ももしやと思い調べた結果、本当に教祖として活動をしていた。
皇帝はこの結果を受けて、皇帝の座を辞することを決めた。
自分が育てて自分が見守っていた自分の息子が裏で何をやっているのか、まったく把握していなかった。
そんな男が今後も皇帝を務めていいはずがない。
この決定に反対する者はおらず、次の皇帝はフレイヤーになる……はずであった。
彼女は実力こそフレイに劣るが、それはフレイが異常だったというだけのこと。十分だと判断され、彼女が皇帝になる流れになっていた。
だが彼女はそれを固辞。父親と同じ理由で、何があっても自分は皇帝にならないと公言した。
その上で、アテナ・ブルービアンと連名でイレギュラ・ブラッカーテを皇帝に推した。
継承権が欠片もない子爵令息であったため、難色というよりも否定的であった。
話にならないほどではない、というのは彼の異常性と有用性によるものだった。
実際に彼は、完全復活した恐怖の魔法使いを相手に、フレイヤーを差し置いて主戦力として活躍した。
こうなればむしろ、子爵令息のままにしておく方が問題である。
フレイヤーがイレギュラの嫁になるのならば、ということで結婚が許可されたのだった。
※
イレギュラが新しい帝国『ウェスパシネ帝国』の皇帝、イレギュラ・ブラッカーテ・ウェスパシネになったあと。
イレギュラとフレイヤーは、大量に眷属を生産、各地へ派遣した。
機械的かつ自動的に、24時間無補給で動き続け、再生産も可能な眷属たち。
戦闘能力を考えなければその分多く作れるということもあって、各地で大いに活躍していった。
モンスターが根絶したとはいえ、いまだに支援の手が届かない土地も多い。
そこへ参じるユニットたちへ警戒する者も多かったが、先の戦いではゴーレムが黒の泉から自分たちを守ってくれたということで、比較的スムーズに受け入れられていった。
恐怖の魔法使いと同種のアビリティの使い手が新皇帝になり、自分の眷属を支援として送り込んでくれた。
各地の民も悪い気はしない。
国号が変わったことも、一般人には大して関係ないこともあって……。
ひとまずだが、イレギュラは新皇帝として受け入れられたのである。
そんなイレギュラであったが、基本的に皇帝らしい仕事はしていない。
何分子爵家の跡取りですらなかったため、その手の教育を一切受けていないのだ。
政治に関してはド素人と言っていい。
その点に関してはフレイヤーが担っており、妻として彼を支えている。
つまり実権はフレイヤーのものであり、事実上の女帝であった。
ではイレギュラ本人は何をしているのかというと、大公から皇帝としての勉強を教わっていたり……新しい皇帝らしく、世継ぎを作るべく奮戦していたのだった。
※
帝都にて。
帝都の城の横に、巨大な影の塔がそそり立っていた。
イレギュラの第三アビリティ、拠点である。
イレギュラが離れすぎると(塔の影から出ると)解除されてしまったり、一度破壊されるとしばらく建築できなくなってしまうという弱点もあるが、生産速度上昇や最大コスト値の大幅上昇の恩恵も大きい。
その塔のふもとである城の中で、イレギュラは『皇帝』にふけっていた。
「フレイヤーの協力があれば聖剣装ができるんだから、偽装もできるかと思ったけども……できたな! ひゃっほう! ずっとやりたかったことができたぜ!」
(これをずっとやりたかったって……)
イレギュラの第二アビリティ武装作成のランクが極まったことで、偽装の性能も上がっていた。
現在皇帝の私室には、フレイヤーとクナオルがいる。
その二人に対して、イレギュラは偽装……自分の思う服を着せたのだ。
サスペンダー付きの半そで半ズボン。
育ちのいい少年が着るような『サイズ』の服を、ムリヤリ着ている状態であった。
クナオルはまだいいのだが、フレイヤーなどミチミチのムチムチである。
はちきれんばかりに服の布地が伸び切っている。サスペンダーの位置も胸を圧迫する位置にあり、二重に締め付けていた。
「ふあふひゃあ……服が虐待されている。服をいじめている……これが、やりたかった!」
「坊ちゃん、飛ばしてますね」
「初日、結婚した相手と囲った相手を全員相手にして地獄を見たからな。君と二人で飛ばすことにした」
「普通、二人っきりの時に使う言葉ですよ。見てください、フレイヤー様もドン引きです」
「お気になさらず。この程度、なんという事もありません。日頃からお疲れなのですから、どうぞ癒してください」
「貴方の方が忙しいはずですけどね」
「私はマスクの力もあって、疲れないから平気です」
フレイヤーは顔を半分隠しているマスクをうっとりとさする。
仲間の力を感じられて嬉しい様子だった。
(坊ちゃん、この方は人形兵士を擬人化しているのですか?)
(どうもそうらしいな。はたから見るとヤバい)
(坊ちゃんが言うと説得力がヤバいですね)
「それではこのまま一戦ということでよろしいでしょうか。明日も仕事がありますので、耐久戦は辞めた方がよろしいかと」
「そうか、それならそのはちきれんばかりのお肉をじっくり味わってから一戦を楽しむ方向で行こう。クナオルもそれでいいよね」
「なんで私に許可を取るんですか(いろんな意味で)」
「だってほら、やったあとで許してっていうよりも、やる前に許可を取った方がいいだろ?」
「なにが?」
「俺はクナオルが知らないところやクナオルがいない場所で女の子の胸や尻を揉んだりしない! 目の前でやる! 合意の上で!」
「……一応言いますけど、私は貴方以外の人とキスとかしませんからね。初日みたいにくじを引かせてチューさせたりしないでくださいよ」
「王様ゲームモドキか、アレは楽しかった……でも今回は二人だし、俺もクナオルには俺とだけキスをしてほしいし……」
ここでイレギュラはフレイヤーを見る。
お行儀よく待機している。
「それでは、いただきます!」
「どうぞ」
さすがにこれ以上待たせるのは無作法なので、イレギュラはフレイヤーに手を伸ばした。
フレイヤーは顔を赤らめながらもそれを受け入れている。
「合意……俺よりも強くて偉い人が、合意で、俺に体を許してくれる……皇帝になってよかった……クナオルからは得られない栄養素が脳内を駆け巡る……」
(離婚されないかな、コイツ)
肉の弾力よりも恥じらいや合意というシチュエーションに浸りつつ、イレギュラは閨で役目を果たすのであった。
※
もちろん夜だけではない。
昼も昼とて仕事はある。
基本的にクナオルやフレイヤーと一緒に行動しており、フレイヤーの政務や会議に同行することがメインだ。
しかしフレイヤーやイレギュラが同時に仕事をすることもある。
今回はフレイヤーの仲間と面談を行っていた。
城の個室、面談室。
豪華な部屋の中で、コー・スレックシュと話をしていたのである。
話の内容は陰湿なものであったが、イレギュラにとっても無視できない内容であった。
「どうも~~。新婚さん、仲良しですかあ?」
「ああ。いつもかわいがってもらっているよ」
「クナオルと違って毎日じゃないけどね」
(私が毎日相手をしていることを言うなよ……)
イレギュラのそばにクナオルが立ち、フレイヤーはイレギュラの隣に座っている。
クナオルは忌々しい顔をしており、コーはそれを見て笑っていた。
「くくく、お熱いことで。コレをウチの当主様が聞いたらどんな顔をすることやら!」
「興味自体無いんじゃないか? 君だって顔を見に来たわけじゃないんだろう」
「ああ。ぶっちゃけ、チャンスがあればイレギュラ陛下を殺せって言われてるよ」
義父であるスレックシュ侯爵から殺すよう命令されていると聞いても、誰も反応はなかった。
コーから殺意を感じられないこともそうだが、これはもうある種仕方のないことだからである。
「オイラの当主様だけじゃなくて、マルデルの親父さんも『なんで俺を差し置いて子爵家の小僧っ子を皇帝にするんだ』ってお怒りだそうだぜ? まあそりゃそうだって話だけどな。やっぱり姫様が皇帝になった方がよかったんじゃねえの?」
「その場合はもっと悪くなっていたよ。それこそ表から裏から手を伸ばして『念のために殺す』をするさ。家督も継いでいないんだから、そうしても不思議じゃない」
イレギュラも以前から懸念していたが、便利で強いとくれば『念のために殺そう』と思っても不思議ではない。
イレギュラの現在のレベルが200で、第四アビリティの最終安全装置がアンロックされてもおかしくないのだから、なおさらであろう。
「だけどそれは不可能だ。ボクやクナオルさんがイレギュラ陛下を守っているから、表からも裏からも手を出させないさ」
「違いねえ。お二人に守られているイレギュラ陛下を殺せるのはオイラたちみたいな、あの最終決戦に参加した仲間ぐらいなもんだ」
応接室のテーブルにはケーキが置かれている。
小さめのフォークで食べるものであり、コーはそれを手に取った。
やや無作法なことに、それをイレギュラの方に向ける。
「あの戦いは、陛下がいなきゃ勝てなかった。その陛下を殺そうって思う奴はいねえよ。……おっとっとっと。陛下を無視して申し訳ねえな。反イレギュラ派への二重スパイをやっているオイラに聞きたいこととか、探ってほしいこととかあるかい?」
「そういうのは大公閣下に聞けばわかるし、俺も『千里眼』で少しはわかるからねえ。それよりも、少しは俺のことを良く宣伝してほしいなあ」
「懐柔しろって? 養子に無茶言いなさるねえ。反イレギュラ派の中からも女の子を引っ張りたいのかね。聞けば英雄校の同級生も閨に入れているとか?」
「いやそれは……」
確かに女の子は好きだし、沢山抱え込んでいるけども、それはそれとしてキャパシティをオーバーしているから、もう増やす気は無いぞ。
そう返事をしようとしたときであった。
コーの持っていたフォークが青く光り、超高速で射出される。
イレギュラの眉間へ向かって直進し、穿たんとした。
かあん。
超高速で動いたフレイヤーの手が、そのフォークを掴んで握りつぶしている。
「うへえ、まさか防がれちまうなんてびっくりだ。大公閣下から聞いていたのかい?」
「君も聞いていたはずだ。大公閣下は人類の存亡以外は管轄外。むしろ恐怖の魔法使いを倒すまで待ってくれた分、配慮するはずだ」
何が何だかわからない。
イレギュラは眼前で止まっているフォークに目を奪われていた。
数秒後、クナオルは事件を理解する。
自分が守るべきだったと恥じながら、超身体強化の瞬発力をもってコーへ襲い掛かる。
「オイラは姫様の旦那さんに攻撃するような男じゃねえ。姫様と敵対するわけだからな。だからよ、実際にそれをするってのは人生観の破壊だよな?」
コーの体が青く光り輝く。
コーの頭上に青く輝く三角形の環が生まれる。
直後彼の体は消えて、部屋の隅に瞬間移動していた。
「それにオイラたちは最終決戦に参加していた。あの戦いでとんでもなくたくさんのモンスターを殺したよな? あの時のフレイや皇帝陛下みたいに、一気にアビリティが開放されて当然だよなあ?」
青い錠前が彼の背後に現れ、急速に回転し開錠されていく。
~~~
移動系第三アビリティ『瞬間移動』
ランク0→4
共通第四アビリティ『■■■業』
第一安全装置アンロック
レベル上限解放 50→100
~~~
すでに覚悟を終えてここに来たのだろう。
コーは能動的に覚醒を終えると、部屋そのものに青い力を注ぎ込む。
第二アビリティ念動の発動。
本来なら不可能なことだが、部屋を構築する建材がムリヤリ移動させられ、床や壁がバラバラになりながらイレギュラたちに襲い掛かる。
「それはボクも同じだ……あの時ボクは、恐怖の魔法使いを殺した。その上……仲間を殺そうとするなんて、人生観の破壊に他ならない!」
フレイヤーが白く光り輝き、白い錠前が出現する。
コー以上に急速に回転し、夥しい音と共に開錠が行われた。
~~~
共通第四アビリティ『人間■業』
第一、第二、第三安全装置アンロック
レベル上限解放 50→200
~~~
フレイヤーの顔が完全に人形の面に覆われ、全身の関節が球体関節に置き換わる。
平和なはずの帝国の城にて、イレギュラと同等の境地へ一気に登りあがる。
その余波だけで、コーの放った念動の弾丸はかき消されていた。
「ひゅ~~……凄いねえ」
床や壁がなくなり、梁だけが残った部屋の中。
その向こう側では使用人たちや兵がパニックを起こし、大騒ぎをしている。
もちろんイレギュラも何が何だか、全くわかっていなかった。
そんなイレギュラをしっかり抱きしめながら、クナオルも鋭くにらみつけている。
「コー……君がイレギュラ陛下を殺す『合理的な理由』はさっき話した通りだろう。スレックシュ侯爵が君へ依頼したことは真実だろうし、叔父上……マルデルの御父上が関わっていることも事実だろう。だがそのうえで聞かせてくれ、なぜ実行に移した? 今の君たちがその気になれば、当主に我慢を強いるぐらいは可能なはずだ。そうせずに、本当に暗殺しようとした理由はなんだ?」
「こんだけ迅速に反応しておいて、オイラの気持ちがわからねえわけじゃねえでしょ」
「どの理由を口にするのかが知りたい。意味がわかるだろう?」
「暗殺失敗した仲間にそれを言わせようってのか? 罪な姫様だこと」
コーの眼が据わった。
どこまでも真剣に、バカバカしいことを口にする。
「本当に大変失礼な話ですけどねえ……姫様の結婚相手が、イレギュラ陛下だってのが気に入らねえ。ぶっ殺したくなるほど気に入らねえ。そう思っていた時に当主様から暗殺を持ちかけられたから乗っかった。それだけだ」
は? イレギュラはもとより、クナオルですら怒りを忘れて、大きな口を開けて、びっくりしていた。
「満足ですかい、姫様」
「ここは、欺瞞でも、虚飾でも、もう少しマシな理由を口にしてほしかったよ……コー!」
フレイヤーは自分の仲間たちが……それこそ、幼少期から世話をしてくれていたメイドたちまでもが、自分の結婚に納得いっていないことを知っていた。
それこそ反乱を企ててしまうほどに。
だとしても、企てるにとどめてほしかった。
実行するなんて信じたくなかったし、実行したからにはもう殺すしかない。
警戒してはいたが、失望の極みだった。
「君はもっと大人だと思っていた」
「姫様の影響でしょうねえ。オイラたちは姫様が好きだった。ある程度の犠牲は仕方ないって諦めるところを、本気で気に病む姫様が好きだった。もう無理だって諦めていても、諦めるなって叫べる姫様が好きだった。強くて正しくて、仲間想いの姫様が好きだった。民を見捨てる領主を本気で憎む姫様が好きだった。みんなが好きだった」
コーの眼は、相変わらず据わっていた。
彼はフレイヤーが好きだった。
本心で好きで、だから裏切ったのだ。
「オイラは……オイラたちは、アンタにずっと英雄でいてほしかった! 愛のない政略結婚をして、股を開いてなんて欲しくなかった! そんなことをさせる男なんて死んじまえばいい、国なんて滅びちまえばいい!」
「……そうか、気持ちはわかる。確かに誰かが決めた道をずっと歩くと思ったら、イライラするだろう。他人がそうしているところを見るだけでも気分が悪いだろう。まして仲間がそういう不自由な道を、さほど幸せそうでもないのに歩いていたら、力づくでも止めたくなるだろう」
ーーーいつか、ヒナオトが言った。
親が言う相手と結婚して、その世話をして、子供を産んで育てて。
言われるがままに生きて、老いぼれて、ベッドの上でこう思う。
これでよかったのか? と。
「じゃあ、どう生きてどう死んでほしいんだ、君たちは!」
老いて病に倒れるまで生きられる、それは十分幸福な部類だ。
具体的にどうなりたいのかわかっていないのに、それを口にするのはただ生理的な感情に支配されているだけだ。
それはコーの方がわかっているはずだったのに。
彼は過ちを犯した。おそらくは、他の仲間たちも。
「ボクがあの戦いで死んでいればよかったのか!? 一生独身を貫いたらよかったのか!? 愛する夫と結ばれていればよかったのか!? 悲劇的に病気で死ねばよかったのか!? 具体的に要望も口にできないくせに、ボクの選択に口を挟むな!」
他人が決めたことに反発するのは、ただの生理現象でしかない。
その感情そのものは否定しないが、それが原因で世界へ呪いを撒くなど許されない。
これならまだ、皇帝になりたいという欲を抱えた大人の方が。まだ未来を観ている。
「少なくとも、今のアンタは英雄的じゃなかった! オイラたちはアンタに英雄的行動をしてほしかった! だからオイラたちは……英雄的に行動をさせてもらう!」
自分が友達に望んでいる通りに、友達には振る舞わねばならぬ。
その言葉通りに、彼らは『レールの上を進むフレイヤー』を力づくで止めようとしている。
自分たちが同じ立場なら、彼女はそうしてくれるだろうと信じて。
フレイヤーからすれば迷惑の極みだった。
「暗殺することのどこが英雄的なんだ! ただ感情的なだけだ! それこそ恐怖の魔法使いが言ったように、戦争を忘れて平和の価値を忘れただけだ! 君が仕掛けた以上は内戦になる! 始まってしまったらもう止められないんだぞ! それが君たちの選択か!」
「ああ、そうだ。大公閣下はこの状況を予知していたうえで、オイラたちにあの選択を迫ったんだろうよ」
先日、イレギュラは愚痴った。
シルクン侯爵の屋敷で養子縁組の話をしていたら皇太子が殴りかかってきて、気づいたら皇帝になっていた、と。
大公が皇太子を誘導した結果ではあるが、彼女がやったのはフレイヤーとその仲間を全員保護しただけである。
断じて、イレギュラを挑発したら楽しいよ、と言ったわけではない。
皇太子はフレイヤーと仲間を殴れなかったから、代わりにイレギュラを挑発しようとしたが……それは運命ではない。彼の選択の結果だ。
だからこそ、フレイヤーもイレギュラも大公を呪っていない。
同じように……。
コーや他の仲間が『イレギュラと愛の無い結婚をしているのが気に入らない』という理由で『内戦のきっかけになると知って暗殺する』という選択をするのは……。
本人たちの問題に他ならない。
「どうだい、姫様。今更だけどよお……あの時、オイラたちを全員殺しておけばよかったと思うかい?」
「ああ。こうなったから、そう思うよ! 人生がやり直せるのなら、そうするよ! 手遅れだけどね……!」
「そうかい。それはみんなに伝えておくさ。オイラたちの皇帝陛下にもな」
コーは瞬間移動によって、一瞬で消えた。
イレギュラはそれを探そうとするが、直後上空一帯が攻撃魔法によって焼き払われ、ドローンの多くが焼失する。
「マルデルも来ていたか……ふぅ」
なんとか、言葉を尽くしてきたつもりだった。
踏みとどまってくれると期待していた。
だがそれでも、彼らは止まらなかったのだ。
※
人類の滅亡は回避された。
イレギュラの命や身分も守られた。
だがこの大陸は六千年ぶりに戦争状態へ突入する。
アテナをして極力避けたいと思っていた、最悪の時代が始まろうとしていた。




