人間の時代へ
情報さえ出そろえば、未来は誰でも予測できる。
一手先を見ているか、十手先を観ているかに過ぎない。
トララト・ウルフドッグ。
先代皇帝の弟であり、アテナ・ブルービアンの兄にあたる人物である。
若き日の彼は皇帝の座をかけて、兄と政争を繰り返した。
最終的には継承権の順通りに兄が受け継いだのだが、当然彼は諦めていなかった。
次代こそは自分の子を皇帝に、と、自分の子の中でもっとも才能のあったマルデルへ教育と愛を注ぎ込んでいた。
だが皇帝には人類の理論値ともいえるフレイと、その下位互換とはいえ過分なほどの才を持つフレイヤーという子がいた。
これではマルデルに皇帝の座が巡ってくることは無い。
そのように歯がゆい思いをしていたところで、終末の災禍が訪れた。
その結果……イレギュラ・ブラッカーテという子爵家子息が皇帝になり、フレイヤーが后、アテナが摂政になった。
一年前には想像もしなかった事態であった。
本人たちがどう思っていたかはともかく、終末によってこの三人が帝国を支配することになったのである。
これに納得できるわけがない。
トララトは同志を集め、行動を開始した。
まず、論功行賞による領地の再配置を利用した。
イレギュラほどではないが、トララトや同志たちも災禍で活躍している。
領地の再配置にある程度の強権を振るうことは可能であった。
彼らが目をつけたのは、今回の災禍で格下げの憂き目をみた貴族らである。
領地の被害を抑えられず、周辺へ援軍を要請した者たちだが、決して無能だったわけではない。
税を安くする、市民への福利厚生を厚くする政策をとっていた結果、戦費が削られていただけなのだ。
天下泰平の世で才能ある武人を集めるという華美な趣味をしていなかっただけなのに、終末が本当に来てしまって損をしただけだ。
責任者なので被害の責任をとらないわけにはいかないし、決戦にもろくに戦力を出せなかったので再配置で冷遇されるのも仕方ない。
だが不満が溜まっていたし、待ち受ける未来に悲嘆していた。
テリァやコッカース、クラッセルのように納得して引退できるのは、当てがあるからでしかない。誰もがそうはいかないのだ。
そこに手を差し伸べたのがトララトたちであった。
トララトたちは発言力を消費して彼らを自分の傘下に置き、自分たちの新しい領地と合わせて帝国の西側に集中させたのである。
これによって、実質的に西側はトララトの派閥が占拠する形になった。
現政権に対立する立場の者たちが集合していたわけだが、それだけなら取り立てて文句を言うわけにはいかない。
彼らが今回の件で被害を出したことは事実であり責任をとるべきだが、才能も実績もある。天下泰平の世になるのなら、彼らは必要だ。
そのように主張されては、強硬に反対できない。じゃあお前たちが面倒見ろよ、と言われるのがオチだ。
なにより、これだけなら問題ではなかった。
イレギュラ、フレイヤー、アテナに対抗できるだけの戦力がなければ、政権を主張してもこの三人が動くだけで鎮圧されてしまう。
しかし、それすらも何とかなってしまった。
フレイヤーの仲間だった実力者たちがトララトの側につき、なによりも『三人』に対抗できる大戦力を得られたのだ。
トララトは西側の中央に新首都を建て、そこで決起集会を行ったのである。
※
帝都からすれば田舎に見える、西側の大都市。
皇帝の城からすれば小さく見える、西側最大の城。
そのパーティー会場には、多くの貴族や武人が集まっていた。
中にはイレギュラの兄、バイオグ・ブラッカーテとその精鋭も入っていた。
多くの者が国家分断を決意するほどの決意に燃えていた。
「諸君、よくぞ集まってくれた」
パーティ会場で登壇しているのは、トララト・ウルフドッグであった。
彼の背後には玉座に座るフレイ・ウルフドッグがいる。
「あえて……あえて! 政治的な事実から目を背け、赤裸々に語りたい!」
目を血走らせた彼は、現実と運命に立ち向かうべく拳を握りしめていた。
「私は、新皇帝イレギュラ・ブラッカーテと姪であるフレイヤー・ウルフドッグ、そして妹のアテナ・ブルービアンを高く評価していた。彼らならば復活した恐怖の魔法使いに対抗できると信じていた。だからこそ自分の戦力だけではなく娘も託したのだ。彼らはその期待に応えた。被害を極限まで抑えつつ、幾度となく復活してきた恐怖の魔法使いを完全に討伐してくれた。それはいい!」
イレギュラ、フレイヤー、アテナ。
この三人がそろったからこそ、恐怖の魔法使いは討伐できた。
あの体制の軍よりもうまくやれる者などいなかった。
世界の命運を託すに足りた。
だが危機が去った後もその体制が維持されることを、この場の誰も望んでいない。
「はっきり言うがな! なんで子爵家の子息なんぞが新皇帝になるんだ! 確かに我がウルフドッグが皇帝である根拠は、恐怖の魔法使いを封じた初代皇帝の血を継いでいることではある! だから、恐怖の魔法使いを討つ総大将になったイレギュラが皇帝!? ありえない! だが奴は! 恐怖の魔法使いを討ったフレイヤーを妻とし、新しい帝国の皇帝になった! 政治的実績のあるアテナが摂政になっている! これでは政治的に切り崩せない!」
イレギュラとフレイヤーとアテナ。
この三人は実質セットで皇帝になっている。
それぞれ良くも悪くも『帝国の実権を握ったらやりたいこと』がなく、戦災復興という具体的な政治的目標があることもあって、互いに争うこともない。
武力面でも政治面でも正統性でも隙が無かった。
「この後はお察しだ。イレギュラがアテナやフレイヤーと子を成して、その子孫だけが皇帝の権利を得る! ウルフドッグの血は残るだろうし、創造系アビリティや英雄系アビリティも継承されていくだろう! そうなれば、あの二人の子孫以外のウルフドッグは皇帝の座を狙えなくなる! 我らは旧皇帝の一族に成り下がってしまう! 公爵家の中にも皇帝の血を継ぐものがいるが、その権威も薄れる!」
皇帝になれる可能性がまったくない一族と、皇帝の一族。
その差は途方もなく大きい。
「私はこの状況に甘んじる気は無い! このまま諦めては、孫子に言い訳ができぬ! だから立ったのだ! この……フレイ・ウルフドッグを皇帝に据えてでもな!」
フレイ・ウルフドッグが教祖であったことは、トララトも確かめたことだ。
だが民衆に対しては言い訳ができる。
アテナとフレイヤーはフレイを落とすため、若気の至りに乗じて罪を擦り付けたと。
権力者たちが全力で言い張れば、民衆はそれを信じるしかない。
「貴殿らも知っているだろうが、このフレイはもともと強かった。そのうえでイレギュラの人形兵や傀儡聖剣をも取り込んでいる! フレイヤーが仲間を強化しようとすれば、このフレイも強化してしまうのだ! 歴代の初代皇帝が恐怖の魔法使いを独裁聖剣で対抗したのと同じ構図となるわけだ!」
フレイヤーとイレギュラが仲間を率いれば、恐怖の魔法使い相手にも確実に勝つことができる。
これに対抗するだけの戦力がないのなら、トララトは諦めるしかなかっただろう。
だがフレイがいた。彼と自分の精鋭がいれば、相性もあってイレギュラたちに対抗できる。
「このフレイが皇帝ならば、我が血も候補であり続ける……これには、戦争する価値がある!」
この場に集まった者たちは、例外なく『このエンディング』に文句があった。
終末を乗り越えて始まる新しい時代を受け入れていない。
その筆頭でもあるフレイは、トララトに命じられる形で登壇した。
彼の顔に、以前のような退屈さからくる苛立ちはない。
むしろ穏やかで、満足感すら覚えているようだった。
「諸君。聞いてほしい」
イレギュラに割かれた四肢はそのままに。
四つの手、四つの脚として機能している。
異形の彼は、明らかに第四アビリティに到達していた。
「以前の私は、たわいもない日常に飽き飽きしていた。明日も明後日も、親から引き継いだ仕事を子供に教えるだけの日々が待っていることにうんざりしていた。だが失ったからこそわかる。あの日々は間違いなく幸福だったと」
皇帝という名の武人、祭り上げられているだけで前線で戦うこと以外求められていない。
政治的実権から切り離された哀れな皇帝は、それでも皇帝というだけで満足していた。
「私の心は君たちと同じだ。終末以前、昨日までの生活を守りたいだけだ。あちら側の者たちのように、よりよい未来を求めるような、そんな欲張りではない。生まれたときから過ごしていた時間を、これからも自分や子供に与えたいだけなのだ。こんな私であるが、同志である皆には盛り立ててほしい……以上だ」
若さを越えて真の皇帝になったフレイに、決起集会に集まった者たちは感銘を受けて喝采を上げるのだった。
※
一方そのころ。
皇帝の城(半壊)では。
メラニィ派閥がイレギュラの前に集められ、この状態も当然予見していたアテナから説明を受けていた。
「恐怖の魔法使いが復活するとあっては戦争している場合じゃない。手を組んで脅威を排除しよう。排除し終わったので戦争しよう。素晴らしい、兄は理性的でした」
人類が滅びてないからヨシをするアテナに、誰もがドン引きしている。
「ふざけないでください! それじゃあ私もまた戦争するってことですよね!?」
真っ先に絶叫したのは、イレギュラと結婚したメラニィであった。
「ただでさえ声と息が赤くなっているのに、第四アビリティに目覚めたら、こんなふうに異形化するんですよね!? 私も最後の戦いで頑張った分、きっかけがあれば第四アビリティに到達しちゃうんですよね!」
「ええ、その通りです。貴方は物凄く嫌でしょう。だからこそ『それでも戦わねば』と覚悟を決めたときに第四アビリティに到達するのです」
「いや~~~!」
頭を抱えて絶叫するメラニィ。
「イレギュラが皇帝になった時はどうかと思ったけど、よく考えたらあとは変な服を着てニコニコしているだけで愛されて幸せよねって思ってたのに! 人生上がったと思ったのに! ハッピーエンドに突入したと思ったのに!」
親に言われた相手と愛のない結婚をして、子供を産んで、そのまま何も成し遂げず老いて死んでいくことを心から願っていた女傑は嘆いていた。
彼女の場合は『親の言う相手と結婚』までの一年間がベリーハードな英雄譚だったので、これにはさすがに同情である。
「すまない、メラニィ。全部ボクが悪いんだ。あの剣を守れなかったこともそうだが、仲間たちが全員裏切ったのもボクの責任だ……選択の結果だ!」
「姫様、泣かないでください……罪悪感が凄いんで……」
体育すわりになって泣いている異形のフレイヤーに、メラニィは逆に謝ってしまった。だが訂正はできない。
彼女が責任を感じるのもわかる。
この状況を作ったのは、何から何まで彼女の選択や行動の結果なのだから。
恐怖の魔法使いが復活する云々はどうにもならなかったし、独裁聖剣グラディウスを奪われたのもある程度仕方ない。
だが仲間が全員裏切ったのは仲間たちの判断である。全員裏切ってきたのは、彼女の責任と言えなくもない。
「如何にフレイが反省して周囲の言う事を聞くようになったとしても、姫様の仲間が裏切っていなければ戦力は足りなかった。つまり姫様が仲間に裏切られなければ、この戦争は起きなかっただろう。本人たちもそれがわかっていて裏切るとは……どれだけ最悪だったんだ?」
ベルマは状況を把握したうえで『フレイヤーがイレギュラと結婚した』という理由で裏切ってきた彼女の仲間の気が知れなかった。
「私はメラニィ様がイレギュラ殿と結婚しても、何とも思わなかったぞ。何なら嫁ぐ予定もあるし。みんなはどうだ?」
「ぜんぜん」
「むしろ普通だろ? 本人も了承しているならなおさらだ」
「姫様がどっかのだれかと恋愛関係だったとか、そういうこともなかったんでしょ? それなのに怒って裏切るってなに? もう気持ち悪くて仕方ないんだけど」
「さすがにイレギュラに対して失礼すぎるだろ……本人がムリヤリ求婚したわけじゃないんだぞ?」
メラニィ派閥の若き精鋭たち(全員レベル50、第四アビリティ到達条件満たし済み)は、大人たちがイレギュラ皇帝を認めないことは受け入れていた。
それぞれが元々英雄校の出身であり、家督を継げなかった者たちである。
家督、この場合は帝位を他所から来た奴に奪われるとか、領地を配置換えされて取られるとか、そういう苦しみはわかる。
だがフレイヤーの結婚を拒否する気持ちがわからない。
前者はこの世界の常識に反さないが、後者は思いっきり反しているからだ。
「ね~大公閣下、説明してよ。同じベッドで同じコスしたヨシミでさ」
「同じく男性用水着を着て、並行や交差、お互いの手ブラをした、もはや姉妹と言って差し支えないレオナさんからの質問です。もちろんお答えしましょう」
(やっぱりイレギュラが悪いような気がしてきた……)
「彼らにも最初はそれぞれに戦う理由がありましたが、フレイヤーの部下になり同志たちと過ごしているうちに『フレイヤーのために戦おう』という気持ちが強くなっていきました。それが裏目に出た結果です」
世の物語には、反目していた仲間がだんだん主人公にほだされていく、という展開がある。
自分の戦う目的よりも、主人公の目的を優先するようになっていく。
対立していた組織が、心から一つにまとまっていくようになる。
それだけ中核となった主人公が、不幸な私生活を送っていればどうなるか。
「好きでもない相手と結婚して特殊な趣味に付き合うことや、自分は本命ではなく欲をぶつけられる相手でしかない、というのも普通なら我慢すべきことです。それが国益につながるのならなおさらです。ですが今の彼らは『納得できないことに異を唱えるのが英雄的行動』だと認識してしまっている。そのうえで彼らのもともとの主が反乱を促せば、乗っても不思議ではありません」
トララトをはじめとする大人は、フレイヤーの仲間の戦力がこちらに着くことが必要だった。断られていたら諦めるしかなかっただろう。
一方でフレイヤーの仲間たちは大義を求めていた。
自分たちの元々の主から従えと言われれば仕方ない、個人的な感情だけで裏切ったわけではない、と言い訳ができる。
なるべくしてなっただけだ。
「こうなるとわかってはいた。わかっていたから、何度も忠告をした。それは彼らに届いていた……届いてなお、彼らはボクから離れた。ボク本人よりも、ボクとみんなで作った『ボクが主人公の物語』という虚像を尊重したんだ……!」
「しいて言えば、伝え方も英雄的すぎましたね。逆効果だったかもしれません」
大公の言葉を受けて、フレイヤーは泣いてしまう。
アメルが寄り添うが、何も言えなかった。
(ボクもこの人の仲間になっていたら、あっちに裏切ったんだろうか……そうだったらイヤだなぁ)
ここに物語がつづられた本があったとしよう。
みんなのために一生懸命戦った英雄が、エンディングではいきなり現れた男の下で娼婦のように媚びている。
なんだこれはと怒るだろうし、書き直してやると二次創作に手を染めたり、作者へ苦情を言うかもしれない。
それが現実の問題に発展している。悲劇であった。
「ボクは……こんなことを望んでいなかったのに……」
フレイヤーにとって、家族とは気安いものではなかった。
だからこそ仲間に親愛を求めた。
向上心が旺盛であったり、気高く聡明であったり、そういう素晴らしい仲間と対等な関係を築きたかった。
出会いはあった、友情を育てていった。だが破綻した。
それに対してメラニィ派閥はどうだ。
皇帝とその親衛隊、正室や側室という関係になっても友人関係は良好だった。
美点も汚点も認め合って、悪口や軽口も言い合える。
普通の友人であり続けている。
自分たちは互いに美しいところだけを求めすぎていたのか。
それもまた、運命ではなく選択の結果なのかもしれない。
「坊ちゃん。こうなったのが貴方の責任だとは全く思いませんが、皇帝として今後どうなさるおつもりで?」
「兄貴のこともある。できれば戦争なんかしたくない。だが……」
イレギュラは石の手と木偶の手でクナオルを抱きしめた。
「君とこれから生まれてくる子供、それからここにいる仲間。俺を信じてくれた大人の人たちに応える義務がある……戦争するなら、迎え撃つさ。たとえ相手がこっちの手の内をすべて理解していて、攻略法がわかっていてもね」
「大公閣下からすれば、そうなるとわかっていても恐怖の魔法使いを倒したかったのでしょうね。はあ……」
イレギュラは今までと違い、必勝の自信はなかった。
だが断固たる意志は感じられた。
それは皇帝というよりも一人の男のそれであった。
メラニィ派閥の者たちも、それを見て仕方ないと覚悟する。
今の自分たちは家族を支える側だ。
嫌だろうが何だろうが、奮い立たなければならない。
※
かくて大陸は、西側を実効支配するウッティリーマ帝国と、他の大部分を支配するウェスパシネ帝国に分裂する。
双方共に正当な政府であると主張しつつも積極的な衝突は避けていたが、それでも緊張状態は続き、幾度となく戦争が起きていた。
イレギュラ・ブラッカーテ・ウェスパシネとフレイ・ウルフドッグが戦場で相まみえることもあったが、決着はつかず、統一もなされなかった。
戦乱は長く続き、完全なる統一を果たすまでは実に二千年の時を要することになる。
時は少し遡る。
ブラッカーテ領にて。
現公爵、バイオグ・ブラッカーテは精鋭を連れて領地を発とうとしていた。
それを父であるガスタ、母であるヴァイマスは必死で止めようとしている。
「馬鹿な真似は辞めなさい! 貴方は公爵になったのですよ!? なぜあえてあちらにつくのですか! あんな馬鹿な男を皇帝と崇める気ですか!? 私だってイレギュラは嫌いですが、皇太子のくせに国家転覆をもくろんだ男よりはマシです!」
「まったくその通りだ! 何が気に入らないのだ、何が!」
「父上、母上。私にもプライドがあるのです。今まで私は奴に対抗心を燃やし、それを糧に成長してきました。それによって伯爵の座まで得た。それはいいのです。奴は侯爵の養子となり、公爵令嬢と結婚する段取りになっていましたが、そこまでは祝福できました。なにせ奴の出世は、私が伯爵になることが前提でしたからね。ですが、奴が皇帝になって、私が公爵にしてもらう、というのは受け入れられない」
バイオグは、ガスタを見下していなかった。
「父上。貴方はイレギュラをよく教育しました。貴方にはイレギュラからの恩恵を受ける権利がある。ですが私にそれはない、なので甘んじて受け入れることはできません。それが私の選択です」
「そんな……私は、家のことを想って、お前のことも想って……」
「それは伝わっています。コレはあくまでも、私の意地にすぎません。おさらばです、父上」
去り行くバイオグは、父がイレギュラを連れ帰った時のことを思い出していた。
『この子供を授かった。私の子として育てる』
『嘘か誠か、この子は世界を救う力とそれを扱う知恵を持っているらしい』
『信じてみることにしたのだ』
(私は伯爵になれると聞いて、心から喜びました。私は立身出世の喜びを知ってしまった。貴方が用意したイレギュラから施しのような出世など……受け入れるわけにはいかぬのです!)
この後、彼はくしくも袂を分かったヒナオトと合流し、ともに戦うことになる。
その道の先には、イレギュラと彼に心酔するブラッカーテ領の武人たちが立ちふさがることになる。
だがそれでも彼らは笑っていたという。




