リスキル
フレイの暴行からおよそ一か月後。
災禍では最後に襲撃を受けた大公領では、急速に復興が行われていた。
国内最高峰の戦力を揃えていたため、襲撃の規模に比べて被害は最小限ではあった。
大公は予見していたそうだが『皆さんに教えると却って混乱が増すことが予見できました』との説明があった。
ある意味最善を尽くしてくれたのだろうが、それでも嬉しくはない。
『もしも次の襲撃があるのなら、その時は教えてくださいよ!』
『分かりました。次の襲撃は一か月半後の正午です。天気は朝は雨で昼頃には晴れ。風はほとんどない日ですね。少し蒸し暑いと思います。相応の備えはしておきますが、今回の十倍以上の規模の襲撃が来ますのでお覚悟を』
アレス……アテナは聞かれたので答えた。
聞いた者たちは一瞬ジョークかと思ったが、本気の警告だった。
聞かなきゃよかったとか思った者もいるが、よくよく考えるとそもそも聞かなくても攻めてくるのだから無駄な葛藤である。
とはいえ一か月半後、襲撃してくる日が近づくごとに不安は増していった。
聞かなきゃよかったと後悔する者が続出する。
一度怖い目を見たからこそ、それがまた訪れるという事で真剣に怖がっていた。
そして、一か月半後。
朝は雨、昼には晴れ。
風はない。
蒸し暑かった。
大公領で暮らす多くの人々が、かつての悪夢を思い出しながら空を仰いでいた。
からんからんと、正午を告げる鐘が鳴る。
人々は一様に、生唾を飲み込んだ。
「大公閣下の占いは、よく当たるぜ、ちくしょう」
上空に、数えるのもバカバカしくなるほどの数の黒の泉が出現していた。
その内のほとんどから、最上位のゴブリン、最上位のトロールが吐き出されてくる。
加えて十個ほどの黒の泉からは、グレータードラゴンがゆっくりと頭を出してきた。
もう諦めるしかない。
世界に本当の終末が来たのだ。
人々は逃げることもせず、終末の空を見上げていた。
空を、数多の閃光が走った。
グレータードラゴンを出していた黒の泉がすべて破壊される。
途中まで出てきたグレータードラゴンの頭部が切り落とされて、重力に負けて落下してくる。
完全に絶命しており、首だけで暴れるという雰囲気は全くなかった。
次いで、他の黒の泉もまた破壊されていく。
次から次へとモンスターを輩出するはずの黒の泉は、大量の閃光によって十秒ほどで破壊されつくしていた。
落下していくモンスターたちも、何事かと思って地上を見る。
その視力が、閃光の発射元を捉えた。
トロールほどのサイズの守護石像が、二本の聖剣を二連装高射砲のように構えて、閃光を発射している。
その狙いは精妙の一言。一発たりとも外さず、しかも優先順位を間違えずに射撃を続けている。
そしてその石像たちは一体ではなく複数存在していた。
その弾幕の嵐は、落下のさなかでトロールたちをせん滅。さらにゴブリンたちまで半分ほどに数を減らしていた。
落下し終えたゴブリンたちは、人里に目もくれずゴーレムたちの破壊に向かった。
この間も閃光は走り続け、ゴブリンたちを掃討していく。
だがそれでも最上位のゴブリンたちは守護石像にとりついた。
奇声を発するゴブリンたち。
二振りの聖剣を二刀流で振り回すゴーレムは、確実にゴブリンたちをしとめる。
だがそれでもとりついてしまえばゴブリンたちが有利だった。
小柄な体格とそれに見合わぬ筋力で、強化されているはずのゴーレムを水に落とした砂糖菓子のように溶かしていく。
痛みも苦しみも感じないゴーレムは最後の瞬間まで抵抗していたが、奮闘虚しく破壊され影に消えた。
大公領を守るために布陣していたゴーレムは、奮戦虚しく敗れたのだ。
残ったゴブリンたちは、雲も黒の泉もない空の下で勝鬨を上げる。
これでいい、あとは自分たちで黒の泉を作ればいい。いいや、残った自分たちだけでもこの地を蹂躙するに足る。
そう思っていたのは、何秒ほどだろうか?
空から「おかわり」が降ってきた。
先ほど自分たちが多大な犠牲を支払って倒したはずのゴーレムが、同じ数だけ落下してきた。
ゴブリンたちは、何が起きたのかわからないまま、二振りの聖剣による掃射を浴びる。
今度は絶叫も悲鳴もなかった。
晴れやかな空の下で自分が死ぬのかと、諦めて笑うしかなかった。
※
帝国の各地で、大量の黒の泉が発生していた。
それらは最上位のモンスターを大量に吐き出そうとする。
だが地上に配置されたゴーレムの掃射が、精妙且つ疲れ知らずに掃討し続ける。
本来なら、一つ潰すだけでも苦労する黒の泉。
それが大量に出現する。
そのうえ補充も早い。
だがそれよりも早くゴーレムが掃討する。
大帝国の領土全てを脅かす恐怖の魔法使いの力。
それに抗するは、大帝国の領土全てをカバーする新皇帝の力であった。
※
人類最後の砦、英雄校。
現在その校舎は土台ごと持ちあがっている上に、その校舎全体が巨大な建築物の影に隠れていた。
影を落とすのはイレギュラの塔。
校舎を持ち上げているのは、グレータードラゴンに比肩する巨大なゴーレムであった。
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最上位守護石像 エンパイア・ゴーレム
コスト なし
同時召喚制限 一体
特殊能力 眷属の自動生産
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そしてその黒い塔よりもさらに上空には、巨大な複数のプロペラによって飛行している、超巨大な飛行物体が君臨していた。
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最上位無人飛行機 中枢ドローン
コスト なし
同時召喚制限 一体
特殊能力 ユニットのワープ
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エンパイア・ゴーレムは各地に派遣されているゴーレムが破壊されると、それを速やかに再生産する。
その再生産されたゴーレムは、中枢ドローンの効果により、各地に配備されている『レベル3無人飛行機 末端ドローン』を介して戦場へ再補充されていく。
イレギュラが今までどうしてもできなかった、ユニットの自動生産と遠距離への戦力再配置。
その両方を叶えるのがこの二種であった。
もはやイレギュラは、塔の屋上に座っているだけでいい。
時折末端ドローンを介して、各地の情報を集めるだけでよかった。
「レベル3のドローンは今まで使い道がわからなかったんだが、最上位ドローンの子機だったわけだ。そりゃわからんわけだ」
「素晴らしい御力です」
「そういうフレイヤーも大したもんさ」
「これも、新皇帝陛下の御力でしょう。私は大したことなどしていません」
彼のすぐそばには、最高戦力であるフレイヤーも控えていた。
お手製のマスクを身に着けている彼女は、すでに転生し、聖剣の力を使っている。
ーーー彼女は必要に応じて高慢にふるまっていただけで、本来は献身的な性格をしていた。
本当は仲間の傷を治してあげたいし、仲間の強化もしたかった。
しかし如何にオーラが万能とはいえ有限である。
結局自分だけを強化回復して戦い、速攻で倒すのが、味方の被害を抑える最適解であった。
そんな彼女にとって、機械的かつ自動的に人を癒せるマスクたちは本当に憧れだった。
自分だって、疲れなければ、もっとたくさんの人を救えるのに。傷ついている人を自分で治せて、弱い人を強くできるのに。
その彼女が、傀儡聖剣ディスソーヴァティごとトイ・ジェネラルを取り込んだことは必然であった。
トイ・ジェネラルは全眷属の強化を担っていた。彼女はそれを引き継いでおり、各地のドローンやゴーレムの強化をしている。
それがトイ・ジェネラルから引き継いだ効果であるが、彼女が獲得した勇光聖剣ユナイテッドの効果はそれを更に拡張するものであった。
勇光聖剣ユナイテッドは、彼女が仲間だと認識している人間を眷属として扱うことができる。
トイ・ジェネラル由来の強化を受けられるようになるだけではない。
相応のコスト値を要するが、人間に傀儡聖剣を持たせることも可能になるのだ。
その数に制限は一切存在せず、また彼女はユニットの強みである無尽の体力を欲していたため、彼女の転生そのものがスタミナの消費を一切カットしている。
「フレイヤーの性格がなきゃ、こうも他人を強化できる仕様にならねえよ。そのおかげでバグ技みたいに、俺自身も強化されている。その分最大コスト値も倍増だ。これが無かったらさすがにカバー範囲が限定されていたぜ」
「マスクを取り込んでいるんです。これぐらいしなければ、顔向けできませんよ」
現在すべてのユニットおよびキャラクターは、三重の強化を受けている。
トイ・ジェネラル由来のユニット用強化。
傀儡聖剣ディスソーヴァティのユニット用強化。
フレイヤーのオーラ譲渡による強化。
イレギュラ自身すらも強化の対象となっており、本人の最大コスト値も大幅に上昇。
フレイに持っていかれた半分のコスト値を補って余りあるものだった。
「ごほん……陛下、各地の様子はいかがですか?」
「モンスターのせん滅が間に合ってるどころか、もうだいたい落ち着いたな。ほら、再生産もしなくなってきただろ? 黒の泉の再出現も止まった感じだ」
「では残っているのは……」
「あそこ一つだな」
エンパイア・ゴーレムの上に建つ塔の、更に屋上に立つ二人。
同じ視線の高さの先に、黒の泉が一つ浮いている。
そこからは今も、トロールやゴブリンが出続けている。
その落下先では、仲間たちが大いに奮戦しているのだ。
「ヤバそうなら末端ドローンで回収して、ここに連れてくる。本当はユニットしかワープさせられないんだが、お前の力で人間もユニット扱いできるからな」
「ありがたいことですが、これすらも大公閣下のお考え通りなのでしょうか?」
「むしろそうじゃないと困るだろ」
イレギュラは自分が使うことを想定していなかった傀儡聖剣ディスソーヴァティを人形の手で掴んで遊びつつ、隣に控えているフレイヤーに尋ねた。
「……ところで、俺が言えた義理じゃないんだが。トイ・ジェネラルと完全に一体化して、寝る必要もなくなった体になって、イヤじゃないのか?」
「マスクは仲間でした。時々いなくなってしまう彼と一体化して離れなくなったというのは、ちょっと嬉しいんです。でもみんなには内緒ですよ? 自分でもちょっとおかしいと思ってるので」
「結構おかしいと思うぞ」
仮面をつけているフレイヤーはちょっと恥じらっていた。
本気で嬉しそうなので、本気で引くイレギュラであった。
独裁聖剣 グラディウス
恐怖の魔法使いの第二アビリティランク4
効果 恐怖の魔法使い自身が装備する。モンスターが増えれば増えるほど強くなる剣。
傀儡聖剣 ディスソーヴァティ
イレギュラ・ブラッカーテの第二アビリティランク4
効果 ユニットに装備 全能力強化
軍司聖剣 ロックエイジ
フレイ・ウルフドッグの簒奪武装
効果 固定値の単純な武装
勇光聖剣 ユナイテッド
フレイヤー・ウルフドッグの簒奪武装
効果 味方だと判断した人間を眷属として扱う。ユニット専用の強化を人間にも適応できる。本来は不可能な、イレギュラ自身への強化も可能になる。




