正しい道を踏み外す
通り魔に遭遇する側からすれば、唐突に、理不尽に襲われて驚くだろう。
だが通り魔側からすれば、感情の決壊である。
限界ぎりぎりまでため込まれたものがあふれ出るのだ。
そちら側からすれば、それは唐突ではなく、常に心中にあったものが出ただけである。
もちろん、迷惑な話であるが。
帝都についたメラニィ派閥の面々。
その多くは、それぞれの家の屋敷へ歩いていった。
元々帝都には各領主が滞在するための屋敷がある。
もちろん普段は使用されていない別荘なのだが、今回は祭ということでほぼすべての領主がそれぞれの屋敷に集まっている。
だからこそメラニィ派閥の面々は、各々の屋敷で領主に会いに行ったのである。
彼らの顔は陽気であった。
なにせルコード公爵から勧誘されたのである。
メラニィ派閥のほとんどの者が男爵家や子爵家であるため、望外の大出世だった。
道中の活躍と大出世を報告すれば、無下に扱われないどころか恭しく崇められることは必定であろう。
当然ながら、イレギュラもクナオルと共にブラッカーテの屋敷に向かうはずだった。
しかし現子爵であるバイオグ・ブラッカーテはまだ到着していない。
イレギュラが守っていたとはいえ自領を離れていたため、ある程度落ち着くまでは残っていたのだ。
祭りが始まるギリギリまでは到着できないらしい。
ではイレギュラがどこに行ったのかというと、シルクン侯爵家の屋敷であった。
クナオルだけではなく、ベルマやそのメイドたちも同行している。
にぎやかな帝都の中を、五人はゆっくり歩いていた。
「なんでお前たちも一緒なんだよ」
(口悪いなあ!)
どこに耳があるのかもわからないのに、クナオルはとんでもないことを言っていた。
「私がマードン家に行くなどありえない。実家はさぞ私を歓待するだろうし、場合によっては縁談をご褒美として用意するかもしれない。私はそれが嫌だ。実家に帰らないことで実家に恥をかかせてやりたいし、どうせならイレギュラ殿と同行して実質的にルコード家の派閥に入ってやろうと思っている」
「そういえば、マードン家はルコード家と違う派閥でしたっけ」
「そのとおり。だからこそ私はメラニィ様の部下になったのだ」
「それはそれですごい逆張りですねえ」
「そんな私が大活躍し、正式にルコードに召し抱えられれば、さぞメンツは潰れるだろう。できるならそのまま、貴殿のもとに嫁げば万々歳だ」
「ぶっ殺すぞ?」
清楚且つ一歩引いたところを歩くクナオルだが、口調と表情は乱れ切っていた。
「なあに、道を示してもらった上に命の恩人でもある二人の恋路を邪魔する気は無い。求められたら応じる、その程度のことだ」
「こいつは欲に正直だから、餌をちらつかせるなと言ってるの! メラニィと結婚するのは必要だから仕方ないとしても、ルテリアもアンタも不必要でしょうが!」
「そうか……そこまで本気で嫌がるとはな。イレギュラ殿も本気で愛されているようで……」
「ふふふ、俺たちの愛は本物なんですよ」
「お熱いことで」
一行は談笑しつつ、シルクン屋敷に到着した。
侯爵家の屋敷ということで、やはり子爵家の屋敷とは格が違っていた。
まさに豪邸という大きさであり、帝都の中でありながら広い庭まである。
如何に貴族の子息とはいえ、足を踏み入れることなどありえない大邸宅であった。
そこに招かれたイレギュラは、応接室に通される。
おそらくこの屋敷にはいくつかのグレードの応接室があり、その中でも最上に近い部屋であろう。
部屋に置かれている物や広さから計算したというよりも、自分たちはそれぐらいの位置だと判断してのことである。
その部屋は、部屋という意味では狭かった。
調度品が多くあることもそうだが、大きな椅子が複数おかれており、それが半分以上のスペースを占めていた。
「よく来てくれた」
立って待っていたシルクン侯爵は、着席を促した。
イレギュラとベルマはそれに従う。
ベルマのメイドとクナオル。三人のメイドが並び立ち、話を聞いている。
「本来ならば貴殿の兄、現子爵であるバイオグ・ブラッカーテ殿と共に話をするべきなのだろうが……それを待たず、拙速に話を進める私を許してほしい」
「……そう、ですね。兄が不在の状態で話を進めるのは、兄としては不本意でしょう。兄が快く思わないことを、私は実行したくはないです」
「うむ、その通りだ」
そのような状況でイレギュラはらしからぬことに歯切れを悪くしつつも不満を漏らし、侯爵はそうあるべきだと認めていた。
こう言ってはなんだが、イレギュラ・ブラッカーテの身の振り方は自分で決めていいものではない。
特にどこかへ婿入りするとか養子に入るともなれば、家督を継いでいるものを抜きに話を進めてはならない。
この状況は礼に反しているのだ。
「だが勘違いしないでほしい。居丈高になっているわけではないのだよ。侯爵だから子爵に対して何をしてもいい、と思っているわけではない。そもそも筋も違うからね。私は……必死なのだ。立場が上なのはむしろ君たちなのだよ」
侯爵はイレギュラ、ベルマを真顔で見つめていた。
「君もわかっていると思うが、君をシルクンの養子として迎えるというのは、少し強引だ。君自身も望んでいないだろし、周囲もそれを気にするだろう。断ってもなんの問題もない。ルコード公爵も妹との縁談を諦めるぐらいで、気に病みもしないだろう。だが……シルクン家は困るのだ」
ルコード公爵家とシルクン侯爵家は非常に結びつきの強い家である。
だからこそシルクン家は、ルコード家に対して大きい『忠節』が必要になる。
ルコード家の者が大きい戦に身を投じるのならば、シルクン家の者がそばで支えなければならないのだ。
メラニィ・ルコードに対しては、パピヨ・シルクンが該当していた。にもかかわらず、彼女はゴブリンに襲われて心が折れて引退してしまった。
それどころか、武名を上げるメラニィに嫉妬して、彼女の醜聞をパーティーの場で明かしてしまったのだ。
まさに、どういう躾をしていたのだ、という話である。
メラニィが本当に大きな武勲を上げているからこそ、反比例してシルクン家の名誉は損なわれていた。
それを償うためには、ルコードに貢献するしかない。
イレギュラの出世に都合のいい受け入れ先になる、というのは償いとして大きいのだ。
「そのことを……強く、君に伝えたかった。我が家は今回の話を迷惑に感じていない。寧ろ強く希望している。そう思ってくれ」
「……ずいぶんと私を買ってくださいますね。政治的な都合だけではなく、私が今後も必要になる、モンスターがまた湧く可能性をお考えで?」
「うむ? あ、ああ。それを懸念している者もいるな。だが私はそこまで気にしていない。少なくとも確実に再来するとは思っていない。問題なのは高確率で来るものだ」
「それはなんですか?」
「政争だよ」
本当にイレギュラは驚いていた。
顔が見えない位置にいるメイド三人も分かるほど驚く気配があった。
本当に考えていなかった可能性の様である。
「せっかく終末を乗り越えたのに人間同士、それも同じ国の内部で争うわけがない、と思うかね? しかしそれは……言いたくはないが、マードンである君ならばわかるのではないかね。今回これだけ活躍した自分こそ領主に相応しいと主張する者が出るのは」
「くくく。気持ちはよくわかります。もっとも、今の私はそうではありません。家督を継げなかったことに不満はなく、ただ不愉快なだけです」
「そうか。やはり君は正しく成長しているよ。だが誰もがそうというわけではない。特に本人がそう思っていなかったとしても、周囲が勝手に動く可能性がある。不敬な話だがね、私は姫様こそが内乱の旗印になると思っているよ」
侯爵は真剣に危ぶんでおり、イレギュラはその話に聞き入っている。
彼らしからぬ……つまり彼の死角からの情報であった。
「彼女は実に英雄的だ。英雄そのものと言っていい。本人は皇太子殿下の地位を奪おうとも思っていないだろう。だが周囲は彼女こそが皇帝に相応しいと考える。皇位継承権は皇太子殿下に次ぐのだから、おかしな主張でもない。だが内乱をしてでも皇帝になろうとすれば大問題だ。そして悪いことに……今の彼女の仲間は、武力行使への心理的ハードルが下がっている」
(その発想はなかった……確かにこのまま何事も起きなければ、そうなる可能性が高いな)
イレギュラは今でも、自分の知識通りにことが進むと考えていない。
第三部の終末教団との戦いや、第四部での恐怖の魔法使いとの決戦も、未確認であるため確信は持っていなかった。
よって、どの段階で自分の未来予測からずれても問題ない人生設計をしていた。
だがそこまでどまりであり、何事も起きなかった場合の世界情勢については考えが及んでいなかった。
「彼女を旗印に、現状維持へ反感を持つ者が決起するかもしれない。終末教団と違って正統性がある状況なのだから、勧誘に乗らなかった者も参じるかもしれない。そうなれば、今回の災禍で強くなった者同士の凄惨な戦いになる……備えは必要なのだ」
人間が求めるモノは有限だ。
だからこそ功労者にしか報酬は渡せない。
より働いた者がより多くの報酬を受け取る。
だが報酬が有限だからこそ、誰もが満足するほどの報酬を得られるわけではない。
これが社会の歪みである。
ベルマのように不満を抱きつつも、仕方ないことだと受け入れるしかない。
そして受け入れられない者とは戦うしかないのだ。
「はっきり言おう。君の立場は強い。引く手数多だ。なにせ君の仲間は一人も死んでいない。再現不能な幸運ではなく再現可能な戦術によってね。大昔の兵法書にも書かれていたことが、今回のことで実証された。勝つ将よりも兵を死なせない将だ」
「メラニィ様を悪く言うようですが、私の仲間は同格と戦えば負けますよ?」
「その同格とて希少なのが現状だ。ルコード公爵も英雄になった妹というカードを君に切ったことが証明だよ。それに……乱暴な言い方になるが、姫様と同じ学校の同期である君たちを、姫様の派閥に入れたくないのだ」
ーーーイレギュラの仲間たちは、話を聞いていても不自然だとは思っていなかった。
しかるべき人物にしかるべき対応がされているだけのことだった。
この後イレギュラ本人が、あるいはイレギュラの進路に口を挟めるバイオグがどのような判断をするのかはわからない。
だが確実に言えることは、彼が栄光の道を進み始めていること。
いや……彼が最初からそういう道を歩いていたという事。
大事なのは失敗しないこと。
下振れを起こしても最悪の事態が起きないようにしてきたこと。
それが評価された結果、現在の位置に至った。
ここから何か、彼が道を踏み外すようなことなど……。
「ふむ、ずいぶんと楽しそうな話をしているね」
話に熱中している者たちは気づかなかった。
この屋敷がにわかに騒がしくなっていたことに。
この部屋に招かれざる客、そして排除できない高貴なるお人が現れたことに。
「……」
この屋敷の主である侯爵が養子について話をしている部屋へ、ノックもせずに人が入ってきた。
それまで誰も止めなかったのか、と思うよりも先に、その人物が誰なのかを理解したことで硬直する。
フレイヤーと同じ紋章を胸につけ、髪や瞳の色も同じ。
凛とした雰囲気の男子。
ウッティリーマ帝国の皇太子、帝位継承権第一位、フレイ・ウルフドッグ。
その武勇はフレイヤーの上位互換であり、正規軍を率いてはフレイヤー以上の戦果を挙げた、文句なしの次期皇帝であった。
「皇太子殿下!?」
侯爵が絶叫したことにより、イレギュラもベルマも慌てて立ち上がった。クナオルたち三人のメイドも礼をして顔を伏せる。
(なんで、なんでここで終末教団の教祖が来るんだよ!)
イレギュラは内心で絶叫していた。
物理的な意味では殺せないこともなかった、終末教団の教祖。
この国の皇太子でありながらこの国の終末を願った張本人。
三部のボス。
彼の知識においてはそうなっている人物が、なぜここにきたのか。
イレギュラは混乱していた。
(このお人が俺の知識通りに終末教団の教祖だったとしても、知識と違ってただの皇太子だったとしても、シルクン侯爵にノンアポで来るわけがねえ! なんで来るんだよ、マジで! 勝手に主人公と戦って負けて死ぬか、終末教団の勧誘が上手く行かないことで諦めてくれよ!)
「こ、皇太子殿下……申し訳ありませぬ。お迎えに伺うべきだったというのに……」
「気にすることはない。私が無許可でこの屋敷に上がり込んできただけだ。怒鳴られても文句が言えるものではない」
「そんなことをするはずもありませぬ。どうぞ、お席に……」
「いや、結構。私はそこの傑物と話をしたかっただけなのでね」
フレイ・ウルフドッグはイレギュラに近づいた。
まさか勧誘するつもりなのか?
そこまでイレギュラの名前が売れたのか?
様々な憶測が、部屋にいる者たちの脳内で響いていた。
「君がイレギュラ・ブラッカーテだね。妹の同期で、出世頭と聞いているよ」
「恐縮です」
「子爵家令息から公爵家の部隊を任せられるほどの出世を遂げるとは……君の才覚がうかがえるね」
「いえ、ただ幸運であっただけです。天運や仲間に恵まれました」
「その点も含めて君の実力だろう」
話をしているうちに、イレギュラを含めた全員が『一つの疑問』にたどり着く。
なぜ、今、ここでイレギュラに話をしているのか。
侯爵家に来る理由があって遭遇したのならわかる。
いきなり侯爵家に上がり込んで、そこに来ているイレギュラと話をするなど不自然の極みだ。
「……実は私も忙しくてね。この後も予定が控えている。本当はこの短い余暇を使って、妹やその仲間に会おうと思っていたんだ」
疑問を感じ取ったのか、フレイはとても嫌そうな顔をした。
凛とした顔が崩れるほどの不快感だった。
「だが、妹とその仲間は、大公閣下の屋敷にいるのだよ。会おうと思って行ってみれば重要な話があるそうでね。私でも会えなかったんだ」
ーーーこれは仮の話だが。
今ここにいるフレイが本当に終末教団の教祖であったとしても、大公であるアレス・ブルービアンをして排除できない。
皇太子を大公が糾弾するとなれば、他意が疑われてしまうからだ。
だがそれでも彼の方が現時点のフレイよりも偉い。
事前に門番へ皇太子が来ても通すなと命じておけば、フレイヤーたちと合わせないようにすることができるのだ。
「まったく、大公閣下にも困ったものだよ。重要な話を私に聞かせたくないのか、それとも私と妹や仲間を合わせたくないのか……生まれながらに三つのアビリティを極めている予言者だけあって、いろいろとおせっかいだ」
皇太子が大公について愚痴を言っているというハイレベルな状況に、合いの手を入れることもできなかった。
「おそらく大公閣下は、私にこう伝えたいのだろう……余計なことをせずに『正しくあれ』とね。私には妹とふざけ合う自由もないらしい」
彼は深くため息をついた。
「人は私のことを羨むだろうが、そんなにいいものではないのだよ。最高の才能と最高の地位、約束された将来というのもね」
年齢相応の少年、青年の愚痴が始まった。
しかし誰も困っていなかった。
むしろそのまま、ずっと、独り言を吐き出して帰ってほしい。
それが一番平和な展開であった。
「私は滞りなく皇帝になり、政務をこなし、政略結婚し、子を成して、引き継いで、老いていくのだろう。組まれた予定の通りに一日、一か月、一年、一生が過ぎるのだろうねえ」
そこまで変な愚痴ではなかった。
彼の立場や状況からすれば、陥ってもおかしくないジレンマであろう。
皇帝を継ぐ者限定とかではなく、一定以上の安定した家業を継ぐ者なら、誰にでも起きうることだ。
「そして私はベッドの上でこう考えて死ぬのだ。これでよかったのか? とね」
ベルマは少し苦笑した。
兄も同じことを考えているのかもな、と。
「だからこそ、君のように人生を切り開いたものが妬ましくてしかたないのだよ」
皇太子はイレギュラを心底から羨ましがっていた。
「君は自分の人生に計画を立て、それを成功させて身を立てた。私と違って充実した人生だ、きっと私のように悔やんで死ぬことはないだろうね」
侯爵も同意する。
若き才人が乱世の波を乗りこなして出世する。
男子としてはこの上ない栄誉であろう。
「妬ましいので、こういうことをする」
フレイはごく自然な足取りで歩き始めた。
侍女たちの方へ歩いていく。
もちろんメイドたちはフレイに対して道を開けた。
何を考えているのかはわからないが、おそらく進行方向に何かがあるのだろう。
自分たちに用事があるなどとは思いもしなかった。
彼はクナオルの前に立った。
背が高い彼は見下ろし、クナオルは顔を伏せている。
ぱん、という音がした。
全員、何が起きたのかわからなかった。
フレイがクナオルの頬を叩いたのである。
それは全員が見えていたのだが、脳がそれを理解できなかった。
叩いたフレイ自身、別の理由で少し驚いている。
「……そうか、君は身体強化持ちなのだね」
フレイは拳を握りしめて、クナオルの顔を殴った。
大きく吹き飛び、床にクナオルは倒れた。
「クナオル!?」
今度こそ、何が起きたのか理解する。
イレギュラはクナオルに近づいた。
「すまない、私的な試みが上手く行かなくてね。むしゃくしゃしていたから、当たり散らしたかったんだ。本当は妹やその仲間にぶつけるつもりだったが、やり場がなくてね。妥協で君にぶつけに来た。君自身を殴るよりも、君の愛する人を殴った方が、すっきりすると思ったんだ」
フレイは悪びれるそぶりもなく自分の事情を説明している。
やはり、理解できない理屈だった。
「まったくイヤになるよ。天はよほど私に正しく生きろと言いたいらしい。間違った道に行かないように、徹底して通せんぼをし続けてくる。うんざりする。逆張りの一つもしたくなるのさ」
「クナオル……クナオル!」
イレギュラは皇太子の言葉も聞かずに呼びかけるが、クナオルは返事もない。
「とはいえ、私が不当に暴力を振るったことは事実。シルクン侯爵、君も証人になるだろう?」
「は……は?」
フレイは、とてもうれしそうに詫びを提案した。
「そこで私から賠償をさせてもらおう。君からの決闘を受けてあげようじゃないか」
やはり、何を言っているのかわからない。
「本来なら、君から決闘を申し出されても受けることはできない。だが今回は全面的に私が悪いので、決闘を受けよう。思う存分、私を痛めつけてくれたまえ」
フレイはすっきりした顔で去っていった。
部屋に残っていたベルマは、メイドと共にイレギュラとクナオルの下へ向かおうとして……。
「思う存分、痛めつけてくれ、か……」
イレギュラの足元の鼓動を見て止まった。
ベルマの第三アビリティが覚醒する時に、彼女の爪は同じように変質と復帰を繰り返していた。
イレギュラも同様に、第三アビリティの開放が始まろうとしている。
しかし、影が動く覚醒など聞いたことがなかった。
彼のアビリティが自称通り千里眼なら、目が紫の光球になるだけのはずだ。
「お前を、八つ裂きにしてやる」
「時間切れです」
クナオルが殴られた時、大公はそういった。
「私がなぜ、今になって、この場に皆さんを集めて、全てを説明したと思いますか? 時間稼ぎですよ」
イレギュラの影が鼓動を始めたとき、大公はそういった。
「ああ……どうか、この道筋を、お許しください」
八つ裂き宣言をしたとき、大公はそう祈った。




