第五十二話 左へ
ネネさんが、ゴーレムの破壊場所へ様子を見に向かった後は、メイドらしき人物によって客室に案内された。
案内された場所は、先ほどまでいたレガードさんの家から少しだけ離れた、石造りの立派な建物だ。
ありがたいことに、一人一部屋の個室を貸してもらえることになった。
それからは、レガードさんにイースラントの村の中を案内してもらった。
隕石災害によって大きく欠けてしまったイースラントは、歩いて回っても二十分ほどで全てを回りきることが出来る小さな規模にだった。
イースラントに住んでいる住人は、環境のせいか、少し変わった人が多かった。
セリナが「なんでこんな過酷な場所に住んでいるの?」とぶっ飛んだ直球の質問を投げかけたが、大抵の村人は「空気が冷たくて気持ちが良い」「誰よりも高い場所に住んでいるという自信がある」「ここから出たくても出られないから、好きになるしかない」と笑って答えていた。
まさに共存という逞しい言葉が似合う人たちだった。
そして、村の案内を終えた僕達は、いよいよ例の宿縁具が落ちたという、ひび割れへとやって来た。
そのヒビは想像以上に大きく、氷山をパックリと割るような底が見えないほど長い隙間となっていた。
恐る恐る覗き込んでみても、ただ真っ暗で何も見えない。
「下を覗くと、吸い込まれそうで中々怖いわね……」
「流石に、ここから直接飛び降りるなんて絶対無理ですね……」
僕達はヒビの縁から少し離れて覗き込んでいたが、少しでも強い風が吹いてバランスを崩したら、そのままこの暗黒の穴に吸い込まれそうな恐ろしい感覚に囚われた。
「シエロは感じる?あのヒトが言っていた、宿縁具から漏れるっていう縁」
「そうですね……」
ネネさんが言っていた、ヒビの底から漏れ出ているという宿縁具の縁については、正直僕には全く分からなかった。
単純に距離が離れ過ぎているのか、それとも僕にそれを感じ取る感覚がまだ備わっていないのか。
「分かりません。セリナはどうですか?」
セリナは僕の腕をギュッと掴みながら、ヒビの奥をジッと覗き込んだ。
「……全然、分からないわ」
ネメティアの主候補であるセリナでさえ、何も感じることは無かった。
周りの様子を見る限り、ベンジャンさんも父も特に何も感じていないようだった。
だが、セレスティア様だけは、ただ一人、ずっとヒビの奥の深い暗闇を険しい目で睨みつけていた。
「セレスティア様、どうかしたのですか?」
「感じる」
「やはり、同じ七柱であれば、宿縁具の縁を感じ取れるのですね」
僕が納得してそう言うと、セレスティア様はヒビの奥を睨むのをやめなかった。
「確かに、底から漏れ出ている宿縁具の縁は感じる。だが、誰の縁かは遠すぎてはっきりとは分からん。……それと」
なんだか、セレスティア様の背中から不穏な空気を感じる。
嫌な予感だ。
「……何かいるな」
「何か、ですか?」
僕はもう一度ヒビの奥を覗き込むが、真っ暗な空間の底から、冷たい風がビュービューと不気味に鳴り響いている事しか分からなかった。
「僕には何も見えませんね」
「もっと深い底の話だ。私にも目では見えないが……ひどく嫌な予感がする」
「セレスティア様がそんな事を言うなんて、珍しいですね」
僕が少し驚いていると、少し離れたところからセリナが僕達を呼んでいる事に気が付いた。
「おーい!二人とも、もう戻るわよ〜!」
「はーい、今戻ります!」
僕達はその場から離れ、用意された宿へ戻ろうと背を向けた。
「シエロ」
すると、セレスティア様に低く静かな声で呼び止められた。
「はい?」
「洞窟に入ってからは、絶対に私と共に行動することを忘れるな」
「え……あ、はい」
(どういう事だろうか?元々、勝手に離れる気なんて無いが……)
セレスティア様の横顔は、いたって真剣だった。
恐らく、僕達には全く感じ取れない得体の知れない何かを、その底に感じ取っているのだ。
ここ、北の国は、常に分厚い雪雲などに覆われており、太陽が顔を出すことがない。
特に氷山の中腹に位置するこのイースラントでは、昼も夜も景色が変わることがほとんどない。
ずっと、薄暗い曇り空が続いているような感覚だ。
僕達は長旅で疲労が溜まっていたので、その日はひとまず宿で各自ゆっくりと休息を取ることにした。
翌朝。
相変わらず、外の景色は暗い曇り空だ。
寝て起きても景色がほとんど変わらない為、時間の感覚が狂ってしまいそうで少し変な気分になる。
時間的には朝の七時だ。
着替えてから、朝食をとるために村長の家に向かった。
食堂にはすでに僕以外のメンバーは集まっており、皆、朝食を食べたり、武器や持ち物の最終確認をしていた。
「あっ!シエロ!遅いわよ!早く朝食を食べなさい!」
「おはようございます。皆さん早いですね」
僕は空いている椅子に座り、メイドらしき人物がグラスに注いでくれた黄色い飲み物を一口飲んだ。
(おっ……美味しい)
黄色い飲み物は、恐らく何かのフルーツジュースだ。
今までに味わったことの無い感覚のものだったので、フルーツとは断言できないが、甘いのに後味がさらさらしていてとても飲みやすかった。
それに、朝食のメインは新鮮な野菜と何かの燻製肉を挟んだサンドウィッチで、温かいスープも用意されていた。
「おはよう、シエロ」
「おはようございます。お父様」
父はいつもと変わらない、少し気の抜けた笑顔だった。
「今日はいよいよ洞窟に行くっていうのに、いきなり寝坊して来ないのかと思ってヒヤヒヤしたぞ」
「お父様……もう僕は一人でちゃんと起きれるんですから、子供扱いして馬鹿にしないでくださいよ」
因みに、今回は本当に奇跡的に起きられただけだ。
長旅で溜まった疲労と、久しぶりのフカフカの温かいベッドで寝たおかげか、不思議とスッキリと目が覚めたのだ。
(危ない危ない……)
すると、奥の扉から既に外出の準備を済ませていそうなネネさんとレガードさんが現れた。
「おはようございます」
「おはよう。よく眠れたか?」
「はい、おかげさまで」
レガードさんとネネさんも椅子に座り、朝食を食べ始めた。
「ところでネネさん。昨日のゴーレム破壊の件は大丈夫でしたか?」
僕が尋ねると、ネネさんはサンドウィッチを食べる手をピタッと止めた。
「……散々だったわ。現場に行ったら、ゴーレムが不自然に何体も大量に破壊されていたの。誰の仕業かは分からなかったけれど、あの壊し方からしてただの魔獣じゃないわね」
「そうですか……」
(昨日、セレスティア様が言った『何かいる』という言葉。それに、未知の侵入者……。胸の奥の嫌な予感は、どんどん大きくなっていく)
それから、皆で腹ごしらえの朝食を食べ終えた後は、いよいよ地下洞窟への出発だ。
今回の洞窟探索には、僕達のパーティを含め、レガードさんとネネさん。それと、イースラントの冒険者が三人、参加することになった。
「では、これより地下洞窟への探索に向かう」
館のエントランスで、レガードさんが長として出発前の段取りを仕切ってくれた。
「予定通り、あのひび割れから直接飛び降りるのは、非常に危険だ。氷山の麓まで下り、そこにある正規の洞窟の入り口から中へと入る。昨夜のゴーレムの異常破損や、謎の黒い物体など、氷山周辺では不可解な現象が起きている。各員、十分に気を引き締めていこう」
レガードさんの力強い掛け声と共に、僕達は再び転移装置に乗り、氷山の麓へと向かった。
因みに、あのひび割れからの直接の侵入は、ネネさんの光獣による偵察やセレスティア様の魔術を使えば不可能ではなかった。
だが、ひび割れからの強行突入を警告し、麓の入り口から行くべきだと提案したのは、セレスティア様だった。
僕達は、氷山の麓にある洞窟の入り口まで来た。
「よし、ここからは何が起こるか分からん。俺も中へ入るのは数年ぶりだからな」
僕達は武器を構え、レガードさんに続いて中へと足を踏み入れた。
洞窟の中は、壁に古い魔導ランタンが等間隔に設置されており、視界は意外にも良好だった。
しばらくは、魔獣の影などの危険も無くただ静かに歩いていた。
「セレスティア様」
「どうした?」
「宿縁具から漏れる縁は、ここからでも感じられますか?」
地下洞窟に入っても、僕の感覚は外にいる時とあまり変わらなかった。
それは、父やセリナも同じようだった。
「感じるが、外に居る時と強さは変わらん。恐らく、ここからまだかなり離れているのだろうな」
「そうですか」
(これは、思ったよりも長い旅になりそうだ……)
しばらく警戒しながら歩いていると、先頭にいるレガードさんがピタリと立ち止まった。
「どうしたの?」
セリナがレガードさんに問う。
レガードさんの目の前には、通路を塞ぐように大きな鉄格子の柵があった。
「この柵までは、村の結界を張っている為安全なのだが……この先からは、何が起こるか分からない」
「なるほど。だから、ここまで魔獣の一体も現れなかったのね」
「ここからは、この地下の何処にあるか分からない宿縁具を本格的に探すことになる。少しでも異変を感じたら、すぐに言うように」
レガードさんが重い音を立てて柵を開け、僕達はその奥へと進んだ。
柵の奥。
結界が張られていないと言われただけで、なんだか妙に洞窟内が不気味なほど静かに感じる。
それに、暗闇の奥からずっと何かに見られているんじゃないか。
自然と、背筋が粟立つようなそんな気持ちになる。
ネネさんが自身の魔術で生み出した光の小鳥を先行させ、道中の安全を確認しながら慎重に進んでいる。
「この先に、分かれ道があるわ」
ネネさんの言葉に、僕達は一度立ち止まった。
「どっちの道から、宿縁具を感じる?」
レガードさんの問いに、ネネさんは眉間にしわを寄せて首を振った。
「ん〜……正直、分からないわ。右に居ても左に居ても、縁の感じ方が同じで……」
ネネさんも、先ほどのセレスティア様と似たような事を言っている。
宿縁具は、まだ相当深い奥にあるのだろう。
とりあえず、僕達はネネさんの言う分かれ道の前までやってきた。
道は、左右の二方向に分かれて存在していた。
「どちらに行きますか……」
「正直、縁を強く感じる方に行きたいのだけど……確証がない以上、これは二手に分かれる必要があるわね」
(確かに、早く見つけるなら二手に分かれた方が良いと思うが……)
その時だった。
突然、鼻を突くような異様な縁を強烈に感じた。
まるで、母が作っている料理の匂いが、一瞬にして家の中にフワッと広まる様な感覚だ。
「な、何でしょうかこれは?」
「急に何よこれ!?」
「物凄い濃度の縁だな……」
父もセリナも、突然空間を満たした異様な縁の気配に怯えているようだった。
「セレスティア様!」
僕は直ぐにセレスティア様を尋ねた。
「これは、私が外からずっと感じていた縁だ」
「と言いますと……探している宿縁具ですか?」
すると、先頭に居たネネさんが、飛ばしていた小鳥の視界から何かを見つけたようだった。
「あるわ……この左の道の先に、この異様な縁を放つ何かが」
「あったのか!?宿縁具が!」
レガードさんが身を乗り出して聞いた。
「それが……」
だが、ネネさんの様子が少しおかしかった。
「奥の方に、何かとても大きな空間があるように見えたの。それで、小鳥をそこに向かわせたら……突然、私の魔術がブツンと途切れたわ」
「途切れただと!?」
「えぇ。距離制限かと思ったけど、違うみたい」
(魔術が切れたか……この濃すぎる縁の気配が関係しているのだろうか)
「とにかく、このまま左の道に行きましょう。何があるか確かめる必要があるわ」
ネネさんの指示の元、僕達は二手に別れている左の道へと進んだ。
しばらく歩いていると、前方の暗闇から少し青白い光が漏れ出しているのが見えた。
警戒しながらそのままその光へ向かって進むと……。
「ま、まじか……」
光の先はなんと、とてつもなく巨大な空洞だった。
円錐のような形で、上に向かうにつれて狭くなっている。
まるで、外の氷山の形状がそのまま内側で空洞になっているような、途方もないスケールの空間だ。
「ま、まじかよ……まさか、氷山の下にこんな空間が広がっていたなんて……どうして、今まで誰も知らなかったのだ……」
レガードさんは、この圧倒的な空間を見上げて震えていた。
しかし、確かに驚くほどデカいが、僕は少し違和感も覚える。
「おい、あそこに何かあるぞ!」
すると、護衛として同行していたイースラントの冒険者一人が、中央の氷柱に何かを見つけて駆け寄った。
そこに、もう一人の冒険者も合流した。
「おいおい、なんだこれは……」
「高級感のある、古い小箱?」
二人の傍には、分厚い氷に覆われた、神々しい装飾が施された古い小箱が安置されていた。
(あれは……宿縁具か!)
箱の柄や色はセレスティア様の宿縁具とは違うように見えたが、その箱そのものが放つ威圧感は、宿縁具と言わずにはいられなかった。
(しかし、時間が経過して自然と凍り付いたのか?いや……それにしては、あまりにも綺麗に凍りすぎている……)
「よし!俺がハンマーでこの氷を叩き割るぞ!」
イースラントの冒険者の一人が、自分の得物である巨大なハンマーを振り上げ、氷に叩きつけた。
ガァァァァァンッ!!
「ちょっと!中の宿縁具が壊れないように手加減してお願いよ!」
セリナがヒヤヒヤしてそう叫ぶが、ハンマーを弾き返された二人の様子は違った。
「う、嘘だろ……」
「まじか……。中身ごと壊してしまうかと思ったが……外の氷に、傷一つ付いていないぞ」
屈強な冒険者が本気で叩きつけたというのに、小箱を覆っている氷はヒビ一つつかなかったのだ。
「す、すまん。俺の力では壊れなかった……」
「全く!仕方ないわね!あんた達、危ないから離れていなさい!」
セリナはそう言うと、腰の小斧を魔術で巨大な戦斧へと変形させた。
「セリナ、気を付けてください。あの氷は、なんだか普通じゃない気がします」
「大丈夫よ!私は強くなったんだから!」
そう言ってセリナが重心を低く構え、氷に向けて踏み出そうとした時だった。
「待て!」
セレスティア様が突然、血相を変えてセリナを横から強く抑え込んだ。
その瞬間。
凍った小箱の傍に立っていた冒険者二人の背後で、突然、空間を覆っていた透明のカーテンがゆったりと剥がれる様に、景色がめくれた。
バシュゥゥゥンッ……ドグシャァァァァァンッ!!
冒険者二人の姿が、突然目の前からフッと消えた。
いや、気が付いた時には、彼らははるか後方の氷の壁に叩きつけられ、跡形もない無惨な肉塊となって押し潰されていた。
その場にいたほとんどが、一瞬の間に何が起きたか理解できていなかった。
そして直後、物凄いプレッシャーを放つ何かの存在を、身体全身の細胞で感じ取った。
それは、あのハイケルや森で出会った魔族とは次元が違う、全く別の恐ろしい何かだ。
「おいおいおいおいおい……ッ!なんなんだあれは!」
父の酷く怯えた声。
空間の偽装が剥がれ、僕達の目の前に現れたのは、赤色と青色が禍々しく混じり合った様な分厚い鱗に、氷を裂く鋭い爪、そして背中からは巨大な翼が生えている巨獣。
そして何より、ドラゴンの様な凶悪な顔つきの首が三つ、横並びに生えていた。
「か、顔が三つ……何よあれ」
セリナの言う通り、顔が三つある魔獣であれば、犬型のケルベロスだと頭が理解できるのだが。
どう見ても、目の前にいるのは顔が三つある巨大なドラゴンなのだ。
「クソがぁッ!良くも村の者を!!」
レガードさんは、村の住人が一瞬で無惨に殺された怒りで我を忘れ、武器を構えた。
「俺の後ろへ下がれ!!」
ベンジャンさんは、彼を制止するように異常に強い声で怒鳴った。
「俺は村の長だ!住人がやられて黙っていられるか!」
「こいつはただの魔獣じゃないって、その肌で分かるだろ!理解したなら、下がってくれ!」
ベンジャンさんの気迫のある叫びに、レガードさんはギリッと歯を食いしばりながらも、攻撃する姿勢を止めて後ろへ下がった。
「――九天に轟く雷鳴よ、我が掌に集い、一筋の閃光となれ」
凄まじい速度で詠唱を唱えると、ベンジャンさんの手には、周囲の空気を焼き焦がすほどの高密度の雷が生成されていく。
「臨界・界雷、貫け。天帝の轟雷!」
勢いよく放たれたベンジャンさんの詠唱魔術は、真ん中のドラゴンの顔面に完璧に直撃した。
その威力は、どんな上位魔獣であろうと一撃で跡形もなく消し飛ばしてしまう程の絶対的なものだった。
舞い上がる氷の煙の中、ビリビリと紫電の残滓が音を立てる。
しかし......煙が晴れたそこにいたドラゴンは、何一つ傷を負うこともなく、悠然とその場に佇んでいた。
「なんだと……!?」
「あのベンジャンさんの本気の魔術が、全く効いていない!?」
すると、セレスティア様が無言のまま、小さな火の玉をドラゴンに向けて投げた。
その火の玉は、ドラゴンの鱗に当たった瞬間、まるでスポンジが水を吸うように吸収されて消えてなくなった。
「……やはりな」
セレスティア様は、最悪の予想が確信に変わったようだった。
「こいつは、終焉種の一体、冥竜ケルベインだ」
「終焉種って……世界の災害の元となるっていう、あの伝説の魔獣か……!」
終焉種とは、この世界における大災害のモデル、あるいは元凶とされる魔獣の事。
自然現象として洪水や地震などがあるが、それらを呼び起こしたとして語り継がれる存在が、その対象となる。
そして、冥竜ケルベインは……。
「来るぞ!」
セレスティア様の鋭い声と共に、僕達は一斉に戦闘態勢をとる。
ケルベインが巨大な翼を大きく広げた。
その勢いのまま、暴風を巻き起こすように翼を振るう。
すると、僕達に向かって局地的な猛吹雪が襲い掛かってきた。
ただの風ではない。吹雪の中には、小さくて鋭利な氷粒が無数に混ざり、刃のように空間を切り裂いている。
「炎斬!」
僕が咄嗟に放った炎斬は、吹雪の圧倒的な冷気に完全にかき消され、そのまま死の吹雪が僕達を飲み込もうとする。
(なっ……!)
「紫電斬!」
間一髪、前に出たセレスティア様の放った強力な斬撃が、吹雪を打ち消し、僕達を守ってくれた。
「セレスティア様!?」
そう、冥竜ケルベインが司るのは寒冷地吹雪。
触れるもの全てを凍土に変えてしまう、自然災害のモデルそのものだ。
更に……。
「こいつには、魔術は一切効かない。打てば打つほど、こいつの鱗に吸収され、奴の力を強くするだけだ」
(ま、魔術が効かない!?だから、あのベンジャンさんの大魔術を受けても無傷だったのか……!)
「そして……あの宿縁具の縁を餌にして漏らし、我々をここへ呼びつけたのも、こいつの仕業だ」
「こいつが、わざと宿縁具を使って私たちをここに誘き寄せたって言うの!?」
「理由は知らんが……この私に、随分と下等で下手な真似をしてくれるじゃないか」
突然現れた、絶望の象徴たる終焉種、冥竜ケルベイン。
魔術を無効化する最悪の敵を前に、僕達はただ、その圧倒的な存在感に圧倒されていた。




