第三十一話 兄の覚悟
「この世界は、我々『魔族』の世界となる」
(どうする?吹き飛ばされたお兄様が、いつ戻ってこられるか分からない。僕一人でどうやって時間を稼ぐ……!?)
「六百年が経ち、ようやくそれが叶おうとしているのだ」
(目くらましをして、その間に逃げるか?いや、そんなことをしても逃げ切れる相手じゃない)
「最近、やっと目障りな『七柱』が死んだおかげでな」
僕はハイケルの言葉よりも、ずっとこの絶望的な状況をどう凌ぐか、そればかりを必死に考えていた。
だが――『七柱』という単語を耳にした瞬間。
スッと、冷水のようなハイケルの言葉が脳内へと入り込んだ。
「七柱、だと……!?」
「何だ、雑種の分際で知っているのか」
ハイケルは兜の奥の濁った瞳で、興味深そうに僕を見つめてきた。
「六百年前から鬱陶しい連中だった。神皇様が封印を行ったはずなのに、一人だけその封印から逃れ、我々の邪魔をし続けた存在」
ハイケルは両手を広げ、積年の悲願を噛み締めるように歓喜の声を震わせた。
「だが、そいつももう死んで居ない。これで我々は、我々にとっての理想の世界を創造できるのだ」
「この世界の魔術師たちが、そんなこと放っておくはずがないだろ!」
僕の叫びに、ハイケルはゆっくりと両手を下げ、巨大な影で僕を見下ろした。
凄まじい威圧感に気圧され、ゴクリと唾を飲み込む。
「そこらの脆弱な魔術師どもに、我々を倒せるわけがないだろう」
「その六皇神というのが……お前らの言う『あの方』なのか?」
「……随分と勘が良いが、少し訂正しよう」
ズン、とハイケルが僕から少し距離を取るように動いた。
僕は即座に杖を構え直す。
(何だ?何か強力な魔術を仕掛けてくる気か!?)
「私は六皇神が一人『剣皇神サマエル』様に仕えるハイケルだ」
(剣皇神サマエル!?お兄様とベンジャンさんが話していたあの……!)
「サマエル様は現在、器ではない汚らわしい人間の肉体に居られる」
「お前たち、人の身体に勝手に入り込んで乗っ取っておいて、汚らわしいなんて言うなよ!」
「汚らわしい上に、器でもない肉体では真の力が出せんのだ。だから我々は、それに相応しい『器』を探している。だが、器という物はそう簡単には見つからん。……ゆえに、あの餓鬼の身体を改造し、無理やり器に仕立て上げようとしているのだ」
(ルイドスを、魔族の器にするだと!?ふざけるなよ!)
「お前らの勝手な都合で、ルイドスの人生を奪うな!」
僕の激しい怒りを前にしても、ハイケルはその言葉の意味すら理解できないといった様子だった。
全身を覆う黒い泥のような鎧のせいで表情は読めないが、その沈黙から圧倒的な「他者への無関心」を感じ取れた。
「……やはり人間は理解できんな。そもそも、あの餓鬼を差し出したのは『父親』だというのに」
「は……?」
(ルイドスの父が、こいつらにルイドスを……?)
意味が分からなかった。
そう言えば、この異常な事態になっても、この場にスカラルド家当主であるルイドスの父親の姿は見当たらない。
「だが、それももう必要なくなった。私には今、お前という極上の『器の候補』に興味が湧いている所だ」
ハイケルが僕に向かって大剣を構えようとした、その瞬間――。
ヒュンッ!
無数の鋭い短剣が、ハイケルの背後から死角を突いて飛来した。
ハイケルは大剣を片手で軽く一振りしてそれを弾き落とす。
ガキィィンッ!
「スカラルドの当主――ヴィクターの親父は、この国の王に力ずくでなろうとした。その為の戦力として、魔族と手を組んだんだ。魔族だけではない、悪意を持った闇の魔術師たちとまでな」
「思ったより戻りが早かったな」
瓦礫の向こうから現れたのは、息を切らせた兄だった。
「魔族との交渉材料に、実の息子であるルイドスを差し出したんだよ」
(なっ……)
あまりの衝撃に、言葉が出なかった。
国の王になる為に、自分の子供を犠牲にする?
ありえない。
あってはならないことだ。
そんな僕の絶望を嘲笑うように、ハイケルが不気味な笑い声を上げた。
「クックックッ……ハハハハッ!」
「何がおかしい!」
「王になったところで、いずれこの世界はすべて我々の物になるというのに……人間とは、随分と無駄なことに必死になる生き物だと思ってな」
「もういい黙ってくれ」
兄は満身創痍の身体から、限界以上の縁を練り上げる。
「貴様の魔術は非常に素晴らしいものだが、貴様のような雑種が扱ったところで、この私には傷一つ付けられんぞ」
「……それは、負ける奴がよく言うセリフだ」
兄は空中に複数の短剣を生成する。
「先ほどと同等の短剣をいくら生成したところで無意味だ」
兄は無言で短剣を一つ、ハイケルに向かって投擲した。
ハイケルはたかが短剣一つと臆することなく、ガードすら展開せずにその漆黒の鎧で直接受け止める。
だが――短剣はハイケルの身体を貫くことなく弾かれた瞬間、強烈な熱を発して大爆発を起こした。
「なっ!?」
ドガァァァァンッ!
兄は息つく暇も与えず、次々と爆発する短剣を投げ続ける。
ハイケルが次の動作に移る隙を一切与えない、神速の生成と投擲の連撃だった。
僕は兄がハイケルを足止めしている間に、自身の縁を極限まで練り上げていく。
この時、僕の縁にあの『オレンジ色の稲妻』は走っていなかった。
それでも、今練り上げている縁の精度は、上級魔術師すら圧倒するほどの高密度なものだった。
(もう一度、あの時のように……!!)
「断絶!!」
ルイドスの大魔術を断ち切った刃が、ハイケルへと放たれる。
凄まじい衝撃音と共に、中庭に猛烈な土煙が舞い上がった。
兄も短剣の投擲を止め、警戒しながら土煙の奥へと視線を送る。
「ほう?」
土煙の中から、ハイケルの底冷えするような低い声が響いた。
彼が大剣を軽く一振りすると、突風が起きて土煙が一瞬で吹き飛ぶ。
そこには、兄の連続爆発の影響で表面にわずかな傷こそついているものの、無傷で立つハイケルの姿があった。
「ただの斬撃ではないな。まるで、縁そのものを切断するような……」
その鋭い見立てに、僕は思わず息を呑んだ。
「……ッ」
「これには驚いたぞ。もし私が咄嗟にこの大剣で防がず、直接身体で受けていたら……今頃、私の縁で編み上げたこの鎧も壊れていたかもしれんな」
(え……?あのドロドロとした異常な黒い鎧って、あいつ自身の縁で出来ているのかよ!)
「素晴らしい。やはりお前は、『あの方』の器候補に相応しいぞ!」
ハイケルが歓喜の声を上げた次の瞬間、その巨体がブレて、一瞬で僕の目の前まで肉薄してきた。
(速い!?)
僕は即座に『風の一吹き』使用し、強引に後方へ飛んで距離を取る。
そのままハイケルと僕の間に、分厚い土の壁を何重にも隆起させた。
だが、ハイケルは紙の壁を破るかのように大剣で土壁を容易く粉砕しながら、一直線に僕を追い詰めてくる。
「風斬!」
牽制の斬撃を放つも――
ガァキィィンッ!
風の刃は大剣に軽く弾かれ、さらに距離を詰められた。
回避する間もなく、僕はハイケルの巨大な手に胸ぐらを掴まれ、そのまま宙へと豪快に投げ飛ばされる。
「グッ……!」
空中で身動きが取れず、そのまま建物の外壁に激突する――そう覚悟した瞬間。
ドンッ、と背中に柔らかな衝撃が走り、兄が間一髪で僕の身体を受け止めてくれた。
「大丈夫か、シエロ」
「お兄様……ありがとうございます」
(駄目だ。今の僕たちだけじゃ、あいつには勝てない……!)
絶望的な足音を鳴らし、ハイケルが再びこちらへ近づいてくる。
「お前という器は実に興味深いが、理解できないことばかりだ」
兄が牽制の爆発短剣を投げるが、ハイケルは意にも介さず歩みを進める。
「あの土壇場で、無詠唱であれほど高精度な魔術を複数発動できる技量は褒めてやろう。……だが、なぜわざわざ『斬撃』という物理現象を魔術で行う?斬るという行為は剣技だ。剣を持ち、その腕で振るってこそ真価を発揮する。それを貴様は細い杖で行い、非効率な戦い方をする。そんなもので、この私が倒せると思っているのか?」
兄は僕の耳元に顔を寄せ、小さく囁いた。
「いいかシエロ。あいつの言う事は無視しろ。俺に作戦がある」
「作戦、ですか?」
「あいつ本体に攻撃を通すには、まずあの異常な鎧を破壊しなければならない」
(あいつ自身の縁で編み上げられたとかいう、あの訳が分からない黒い鎧か……)
「俺がなんとか時間と隙を作る。その間に、お前は先ほどの魔術を限界まで練り上げろ。それをぶつけるんだ」
「でも、お兄様……」
「いいか、シエロ。今、あいつの鎧を打ち砕き、勝てるかもしれない切り札は……お前のあの魔術だけだ。やれるな?」
兄の視線は、逃げ腰になることなく鋭くハイケルを見据えていた。
その横顔から伝わってくる強烈な覚悟に触れ、僕は迷いを捨てた。
兄を信じ、自分の出せるすべての力をハイケルにぶつけると決意する。
「……分かりました、お兄様」
「頼んだぞ」
「ですがお兄様……どうか、無茶だけはしないでください。お母様とお父様が待っていますから」
その言葉を聞いた兄は、一瞬だけ驚いたように目を見開きすぐに、どこか憑き物が落ちたような、優しく安心した微笑みを浮かべた。
「行くぞ、シエロ」
「はい、お兄様!」
兄は再び縁を練り上げ、無数の短剣や氷塊、さらには火球までをも同時に生成してみせた。
(凄い……!同時にこれほど複数の、しかも性質の違う魔術を操れるなんて!)
兄は一気にそれらの魔術をハイケルへと放つ。
僕はその隙を見逃さず、少し離れた場所で自身の縁を極限まで練り上げ始めた。
ハイケルは兄の猛攻を煩わしそうにいなしながら、着実に距離を詰めていく。
「やはり魔術のセンスは目を見張るものがあるが、所詮は雑種の力。懐に潜り込めば終わりだ」
ハイケルは兄の眼前に迫ると、巨大な大剣を上段に構え、容赦なく振り下ろした。
ガキィィンッ!
「なっ!?貴様、そこまで出来るとはな……!」
ハイケルの一撃は、兄の右腕によって完全に止められていた。
見れば、兄の右腕には分厚く強固な『鋼鉄のガントレット』が装着されている。これもまた、兄の生成魔術によるものだった。
兄は大剣を強引に弾き払うと、そのままハイケルの腹部へ重い拳を叩き込む。
鈍い音が響き、ハイケルの巨体がわずかに後退した。
だが、黒い鎧自体に傷はついていない。
「足止めはこれでもう終わりか?」
「いいや?本命は『上』だ」
兄の言葉にハイケルが上空を見上げた瞬間。
そこには、黒曜石で形成された超質量の巨大な氷塊が、彼の頭上に迫り落ちてきていた。
「貴様!いつの間に!?」
「流石のお前でも、これをまともに食らえばその忌々しい鎧も剥がれ落ちるんじゃねぇか?」
ハイケルは咄嗟に大剣の腹を上へ向け、落下してくる巨大な氷塊を受け止める。
凄まじい質量に押し潰され、ハイケルの両足がズンッ、ズンッと地面に深く沈み込んでいく。
兄は無防備になったハイケルへ、すかさず容赦のない追撃を浴びせ続けた。
絶対に傷つかなかった漆黒の鎧に、着々とダメージが積み重なっていく。
「……小賢しい真似をッ、貴様ァァァァァァッ!!」
余裕ぶっていたハイケルが、初めて激昂の声を荒げた。
「漆黒波動!」
ハイケルが大剣を振るうことなく放った黒い波状の斬撃が、頭上の巨大な氷塊を瞬時に微塵へと粉砕する。
「剣を一振りもせずに斬撃を飛ばすなんて、滅茶苦茶な野郎だ」
兄は危険を察知し、ハイケルから大きく距離を取った。
「雑種ごときに、魔術を使わされるとは思ってもみなかったぞ!」
怒り狂うハイケルが、標的を完全に兄へと絞り、再び飛び掛かろうとした――まさにその瞬間だった。
「断絶!!」
キィィンッ!
バゴォォォォンッ!!
僕が時間をかけて練り上げた、縁を断ち切る刃が、ハイケルの身体へと直撃した。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
(どうだ……!?極限まで集中して縁を練り上げたせいで、身体への負担が尋常じゃない……)
爆発の砂煙が晴れると、そこには立ち尽くすハイケルの姿があった。
だが、その左肩から右腰にかけて僕の斬撃が深く命中し、そこを起点として分厚い黒の鎧が激しくひび割れを起こしていたのだ。
(クソッ!!あれだけ時間をかけて、お兄様が決死の隙を作ってくれたのに、まだ真っ二つにできないのか!)
しかし、ハイケル自身の驚愕は僕以上のものだった。
ハイケルを覆っているこの黒い鎧は、圧倒的な物理の力か、あるいはハイケル自身を凌駕するほど『縁の練度と純度』が高くなければ決して破壊されない。
今回は後者だ。
目の前の子供の縁の質が、魔族である自分の縁に限りなく近い精度と言う事実を突きつけられたのだ。
「まさかだ……まさか、こんな餓鬼の魔術に、この私の鎧が砕かれるなど……!」
ハイケルの全身から、先ほどまでとは比べ物にならないほど禍々しい縁が噴き出し始める。
「決めたぞ。お前をあの方の『器』として生かしておくのは取り止めだ。この屈辱の代償として……この私が、本気でお前を殺してやる」
本気を出したハイケルは、今までとは比べ物にならない圧倒的な速度で僕に襲い掛かってきた。
その動きは、すでに僕の目では追いきれない。
「シエロ!!」
兄が僕の身体を担ぎ上げ、ハイケルの攻撃をかわすように一気に距離を取る。
僕たちのいた場所を、大剣から放たれた斬撃が次々と抉り取っていく。
兄は必死に回避を続け、崩れた建物の陰へと滑り込んだ。
「ハァッ、ハァッ……大丈夫か、シエロ」
「すみません、お兄様」
「ここも直ぐにバレる。急いで体勢を整えよう」
兄の表情は、すでに次の策を練るために鋭くなっていた。
「……しかしお兄様。あいつに勝てるビジョンが見えません。さっきの『断絶』は、僕の今の全力を出し切ったものでした……」
(僕の全力でも、あの鎧を完全に破壊して致命傷を与えるには至らなかったんだ)
「シエロ」
兄が、真っ直ぐに僕の目を見据えた。
「何でしょう、お兄様」
「お母様とお父様は、既に安全な場所に避難しているんだな?」
「は、はい」
「それで、シエロは俺を探しにここまで来たんだろ?」
兄は、僕がこの危険な場所へ来た理由に気が付いていた。
マーガレット家の襲撃状況を僕が何も知らなかったことから、僕の目的が「スカラルド家との争い」ではなく、「兄の捜索」だと見抜いたのだろう。
「はい!僕は、お兄様を助けに……!」
「俺は、友達を助けにここに来た」
「お兄様……」
「お前が俺をお母様達の元へ連れて帰る。そして俺は、友達を助ける。この二つを同時に達成するには、ここで絶対にあいつを止めなければならない」
兄の強い言葉に、胸が痺れるほど熱くなった。
どんな時でも、兄は僕の前で決して弱音を吐いたり、弱い自分を見せたりしなかった。僕は昔からずっと、そんな強く優しい兄を心から尊敬していた。
「お兄様。もう一度……もう一度だけ、時間を稼いでいただけますでしょうか?」
僕の決意を聞き、兄は僕の頭にポンと優しく手を置いた。
「任せろ。……これが終わったら、共に家に帰ろう」
「はい!」
バゴォォォォンッ!!
ハイケルが僕達の存在に気が付き、隠れていた建物の壁ごと粉砕してきた。
「作戦会議は済んだか?」
瓦礫が舞う中、兄が僕を庇うようにハイケルの前へと躍り出た。
「その鎧、修復にずいぶんと時間がかかっているようだな?もう直っているかと思ったが……俺の弟の魔術が、そんなに強かったか?」
ハイケルの鎧は高密度な縁で構成されている為、修復にはかなりの時間と縁を消費する。
その隙を突き、兄が言葉でハイケルの意識を惹きつけている間に、僕は再び縁を極限まで練り上げ始めた。
「時間稼ぎのつもりか?だが、もうあの餓鬼に好き勝手にはさせんぞ!」
「漆黒波動!」
ハイケルが放った黒い斬撃が、兄ではなく、後方の僕に向かって飛んでくる。
兄が即座に防壁を展開し、必死にそれを止めにかかった。
だが、ハイケルはその隙を見逃さなかった。
兄が斬撃の対応に追われたほんの一瞬の隙を突き、その巨体が僕の目の前へと一瞬で肉薄したのだ。
「死ね」
逃げ場のないゼロ距離。
ハイケルの巨大な大剣が、僕の首を刎ね飛ばすべく迫り来る。
「シエロ!!!」
兄の悲痛な叫びが聞こえ、僕は即座に縁の練りを中断して回避しようとした。
(駄目だ、速すぎる……間に合わない!!)
僕が死を覚悟した、その時だった――。
ガァンッ!!
甲高い金属音と共にハイケルの大剣が弾かれ、僕の身体はふわりと宙に浮いて、ハイケルから大きく遠ざけられた。
そして、後頭部が柔らかな何かに当たり、優しく抱きとめられる。
「大丈夫かい、坊や。遅くなって悪かったわね」
僕がそのまま後ろを見上げると、そこには長いピンク色の髪と、圧倒的な包容力――フィオナさんが立っていた。
「フィ……フィオナさん!?」
助けてくれた彼女の右腕には、酷くえぐれたような大きな怪我があった。
そして僕たちの前には、大剣を弾き飛ばしたグイルさんが立ちはだかっていた。
グイルさんもまた、全身が血に染まり、ボロボロの状態だった。
「フィオナさん、その腕の傷……」
「ああ、これ?ちょっと小賢しくて気持ち悪い男がいたのよ。もう大丈夫だから気にしないで」
いつものように微笑むフィオナさんの横で、グイルさんが兄と並んでハイケルを睨みつけた。
「あなたは……?シエロの友達ですか?」
「友達とかじゃねぇよ。今は、目的が同じだから共闘してるだけだ」
「そうですか。シエロの事、助けていただき感謝します」
兄は短く礼を言うと、ハイケルの方へと鋭く意識を戻した。
「……次から次へと、目障りな雑種が湧いてくるな」
ハイケルは怒り狂うように、その身体から禍々しい縁を黒いオーラのように噴き出させた。
「な、なんなのよあいつは……!」
「フィオナさん、説明は後でします。とにかく今は、僕があいつに攻撃を仕掛けるまで……僕を守っていただきたいんです!」
「坊やを?そりゃあ守るけど、何か勝算があるのね?」
「はい。あいつの黒い鎧を僕の最大火力で破壊しないと、あいつ本体にはダメージが通らないんです」
僕の簡潔な説明に、フィオナさんは即座に状況を理解した表情を見せた。
「……分かったわ」
フィオナさんはそう言うと、痛む右腕を庇いながら前へと歩み出た。
「グイル!そういう事だから、死ぬ気で坊やの壁になるわよ!それと、そこのお兄さんもね!」
「お助けいただき、ありがとうございます」
「言われなくても、やってやるに決まってんだろ!」
こうして僕は、三人の頼もしい背中に守られながら、再びの縁の練りを再開させた。
「まずは貴様ら雑種どもから、塵に変えてやる」
ハイケルは巨大な大剣を構え、その凶悪な殺意を三人の魔術師たちへと向けた――。




