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第七話:帰砦 

 困ったなぁ、ガーシュ様に何て話そう……



 城を後にしたメグナツの気は重かった。心に鉛を背負わされた気分である。帰りもまた馬車で送迎してもらえることになり、今その車内で揺られていた。空ろな面持ちで窓から景色を眺めながら、彼は唄を口ずさんだ。




  こっちの馬はよく走る馬だ



  あっちのぶたはよく肥えたぶただ



  そっちのにわとりはよくたまごを産むにわとりだ



  あした売られていくのはどいつだ



  家畜はみんなひやひやしてた



  売られた馬はバサシ



  売られたぶたはハム



  売られたにわとりはチキンソテー



  あした売られていくのはどいつだ?



  正解は



  あくる朝



  売られてったのはぼくだった





 感情を乗せず、やる気のない声で唄うメグナツ。誰も会話しようとしない車内で、その詩はシュールすぎた。



 行きと逆になった景色を目で辿りながら、彼は思考する。



 一応ミカエリスのニンジンの報酬はもらったし、シロロダイヤの件の旅費も多めにもらった。これをじいちゃんとかあちゃんととうちゃんとにいちゃんの家族で山分けして、外国にでも逃げちゃおうか。これだけあれば、切り詰めて生活すれば何年かは暮らしていけそうだし。



 想像しながらぼーっと虚空を仰ぐメグナツ。だったが



「だめだろうなぁ……」



 と、すぐに彼は肩を落とし、深く嘆息した。



 やっぱり真面目に探すしかないかぁ。



 最初の期限はふた月。万が一入手できなかった場合は、また別件を任せると言われた。美に貪欲なあの王妃のことだ。契約期間の五年間、メグナツを散々こき使うに違いない。自由騎士なんて嘘もいい所だ。絶対服従させられて、これじゃあ奴隷騎士じゃないか――っ!? 感情が表に出て、顔をくしゃくしゃにし、さらに前歯をイーっとむき出しにして悔しがるメグナツ。隣りに座っていた騎士は、それを奇妙な生き物を見るような目で見ていた。






 ガルニブーケ砦に到着したのは三日後の午後であった。礼を言って馬車を離れたメグナツは、城門に向かって歩き出す。その足取りは重々しかった。自分を送迎してきた馬車が遠ざかって行く。その音を背にメグナツは、また感情の入っていない声で歌いながら、大きく手を振って歩いて行った。壊れた発条仕掛けの人形のように。




 門を潜ると複数のばらついた足音が聞こえてきた(攻めて来る敵もいないので見張りはいたりいなかったり)。話し声もする。奥に回廊を渡る少年たちの姿が見えた。メグナツと同年輩の弟子たちである。彼らはそれぞれ剣と盾を持っていた。いったいどこへ行こうというのか? 声を弾ませて、なんだか楽しそうである。



「ねぇ!」



 気になったメグナツは、すかさず駆け寄った。振り向いた少年が目を丸め、軽い驚きの表情を浮かべる。



「メグナツ!?」



 一人が立ち止まると、他の少年たちも立ち止まり顔を向けた。



「どこ行くの?」とメグナツ。彼は好奇心旺盛に、大粒アーモンド型の瞳を輝かせた。



「これから馬上槍試合の練習をやるんだ」



 活きいきした瞳で少年は言った。



「馬上、槍試合?」



 目を丸くしてきょとんとするメグナツに、少年は説明した。なんでも十日後に村主催の馬上槍試合が開催されるらしい。彼らを含め、この砦にいるガーシュの弟子はほとんどが、その大会に参加するのだという。



「そうなんだぁ……」



 うわぁぁ、自分だけ置いてかれてる? そんな焦慮を覚えてしまうメグナツであった。





 メグナツが砦に帰参したことを報告しにガーシュの部屋を訪ねると、彼は不在であった。仕方なくそこを後にしたメグナツであったが、通りかかった弟子の一人が、近くの平原で弟子たちの練習を見ていると教えてくれた。



 メグナツがそこへ来てみると、雑用を終えた弟子たちが自首練習を行っていた。見物人もいた。時々その怒号や歓声や雄叫びが虚空に弾ける。練習用には先の丸くなった槍を使用するが、それでも馬上の人が槍を振るう姿には迫力があった。



「すごい……」



 その中で一際動きが良い一騎を発見して、メグナツは目を奪われた。片手で巧みに馬を操り、擦れ違い様に繰り出した槍が的確に相手の胴を突く。あれ、誰だろう? ちっちゃく見えるけど……



 気になって仕方なくなったメグナツは、呆けたように口を半開きにして、丸めた指を顎にちょこんと当てながらそれを見物していた。



「気になるか」



「えっ?」



 背後からの声に驚いて振り向くと



「ガーシュ様?」



 後ろに師ガーシュがいた。



「あ、さっき帰参したことを報告しに部屋まで行ったんですが……」



 慌てて説明するメグナツを「おお、よく戻ったな」と軽く受け流すガーシュ。その視線は前方の人馬に向けられ、思惑ありげにぎらついていた。



「あの小さい奴、なかなかやるだろ?」



 ある一騎を指差して彼は言った。それはまさにメグナツが今注目していた一騎のことであった。メグナツは「は、はぁ」とぎこちない相槌を打つ。



「誰か分かるか?」



「誰なんですか?」



 メグナツは問いに問いで返し、窺うように師の顔を覗いた。するとガーシュはしたり顔で言った。



「あれは、“リュフト”だ」



「……」



 リュフト――その名がメグナツを凍てつかせた。好奇心に湧き立つ心の高揚が、焦りに取って代わる。あれがリュフトだって? いつの間にあんなに巧くッ!? てか、もとの実力を知らないけど……



 メグナツが思考に耽っていると、そこへ誰かが快速で馬を飛ばして駆け寄ってきた。メグナツたちのいる数歩手前で手綱を引いて急停止する。全身銀色の鎧姿だ。



「どうでしたか?」



 その人物は、馬上で兜を脱いだ。活きいきと輝く茶色い瞳と無邪気な笑顔が弾ける。



「っ!」



 瞠目するメグナツのアーモンドアイ。鞍上の主は“リュフト”であった。笑った口から皓歯が零れ、汗に濡れた髪が太陽光を浴びて、爽やかな光の粒子を撒き散らす。王子様かッ!?――とメグナツは敵意を込めた眼で、鞍上の少年の顔を見据えた。リュフトのほうは、それには気付かず――というか視界に入っても無視。ガーシュに褒められ満面の笑みを浮かべ、「そうですね」「ああですね」と素直にアドバイスを聞いていた。



 なんだこいつ! 



 メグナツはムッとした。この前と全然態度が違う。ぼくの前ではあんなに無愛想でツンっ! としてたくせに、ガーシュ様の前ではニコニコニコニコ笑顔を振りまいて、かわいこぶって、ムっカつくぅ〜〜〜〜〜〜うううッ! 心の中で1000回以上地団駄を踏むメグナツであった。するとリュフトの目がちらり。メグナツを尻目に、声なくして冷たい嘲笑。勝った――視線がそう物語っていた。







 他の弟子たちが晩餐の支度に取り掛かる頃、メグナツはガーシュの部屋にいた。ガーシュに呼ばれて、王妃に謁見した時のことを報告することになったのだ。



 給仕にはあのリュフト。彼が茶器や皿に盛った果物を運んで来た。給仕をしながらガーシュの見えない位置に来ると、すかさずそこからメグナツに、突き刺さる視線の槍。メグナツは視線の盾で防御する。



 ここに呼ばれた時、メグナツは逆転勝ちッ! と内心でピースしていた。馬上槍試合で見事な技を披露して、リュフトが馬で駆け寄ってきた後である。師に好評をもらい、ご機嫌だった彼を



「メグナツ、俺の部屋に来い。ゆっくり話を聞かせてくれ」



 ガーシュの言ったその一言が彼を凍り付かせた。メグナツはもちろん満面の笑みである。



 しかしちょっと嫉妬。ガーシュ様は、なんでリュフト(こいつ)を給仕に選んだんだろう。



 すると桃をフォークに指してガーシュが言った。



「リュフト、“あれ”を磨いといてくれ」



「分かりました」とリュフト。



 意思疎通。



 なにこれ。長年連れ添った夫婦みたい。詳細を言わなくても通じる、みたいな。嫉妬に顔を歪めていると視線を感じ、メグナツはそちらに顔を向けた。そこにはリュフトが。次に笑ったのは彼であった。彼が部屋を辞してからも、その攻撃は続いていた。



「ッ!?……」



 目を剥いて固まるメグナツ。手にしたティーカップが小さく震え出す。



「どうした、メグナツ。毒でも入ってたか?」



 まるで緊張感のない様子でガーシュは言った。



「……ぁ……ぁ」



 メグナツは嗚咽のような声を漏らすと



 べ〜〜――っ! と思いっきり舌を出した。



「し、しょっ……ぱい」



「しょっぱい?」



 ガーシュが顎に手を当てて、メグナツの飲んだ後の卓上をじっと観察する。カップとソーサー。そしてメグナツ用に出された白い陶器製のシュガーポット。ガーシュはおもむろに手を伸ばすと、メグナツのシュガーポットの中から角砂糖を一つ取り出した。それの匂いをくんくんと嗅いでから、小さくかじって……ニヤリ。



「これは塩だな」とどこか愉快げに言った。



「塩っ!?」



 メグナツの眉間に皺が寄る。眉を下げ、困惑と憤りが混ざった表情をする。と、ガーシュが手に取った塩味の角砂糖(?)を眺めながら言った。



「“あいつ”もかわいい悪戯をするなぁ」



 メグナツは反駁に目を剥いた顔で師を見据えた。



「いいんですか、こんなことさせて!? 性質が悪いですよ。角砂糖と見せかけて塩出すなんてッ!」



 語気を荒げて精一杯の抗議をするが、ガーシュはますます笑いを零し、楽しそう。



「かわいいじゃないか」



「かわいい? どこが? こんなの陰険なだけじゃないですか!」



「だからかわいいんじゃないか」



「……」



 意味不明。



 愛くるしいメグナツの顔が、極悪人のように剣呑な表情に変わる。が、それを意に介さない陽気なガーシュ。



「だって想像してみろよ? あいつが厨房で、一人こそこそとこれを作ってる姿。……ぷぷぷ、かわいすぎるだろ?」



「……」



 メグナツはしらけた。冷ややかに師を見詰める。彼の愛くるしい大粒アーモンドアイが、スライスアーモンドアイになる。



 ガーシュ様の“かわいい”の基準が分かりません。



 するとガーシュが小皿にあったクッキーを摘んだ。



「これでも食べて機嫌を直せ」とメグナツの口の中に放り込む。ふいのことにメグナツは、少し照れて頬を赤らめる。そのままおとなしく、小動物のようにもしゃもしゃと咀嚼した。ガーシュもクッキーを口に運ぶ。



「あいつが取っ付き難い性格だとは聞いている。だがまぁ、良いライバルだとでも思って仲良くしてやってくれ」



「はぁ」



 食べながら気のない返事をするメグナツ。



「それより王妃とどんな話をしたのか、聞かせてくれるか」



「あ、はい!」



 促されてメグナツは、いそいそと口に残っていたクッキーを飲み下した。



 メグナツは王妃に謁見した時のことを報告した。聞きながらガーシュは時々頷き、懐かしむような眼をした。



「王妃専属の部下か……懐かしい響きだな」



 髭のない顎を撫でながらそう呟く。



「ガーシュ様も昔されてたんですよね? 王妃様がそうおっしゃってました」



「……」



 ガーシュは含むような笑みを浮かべた。「過去の話だ」と言葉を濁す。しかしそう受け流されると、余計気になってしまうメグナツであった。



「で、依頼のほうはもうされたのか?」



「はい」



 メグナツは、シロロダイヤという鉱物を使った装身具を作るため、現地で材料を仕入れ、それを装身具にして持って帰ってくるように頼まれたことを告げた。ガーシュは「あの王妃なら言いそうだ」と独語するように苦笑した。



「で、そのシロロダイヤとかいうのが採れる場所はどこなんだ」



「あ、地図をもらいましたッ!」



 メグナツは、懐中から地図を取りだした。それを広げ「ここです」と場所を指で押さえてガーシュに渡す。



「イスターオか、聞いたことがない地名だな」



 顎に手を当てて呟くガーシュ。世界中を渡り歩いてきたという師でも、知らない町があるのか? メグナツはふしぎそうに師を見詰めた。するとしばしその地図に見入ってから、ガーシュが言った。



「で、いつここを発つ予定なんだ?」



 メグナツはちょこんと小首を傾げ



「まだ決めてません」



 決めかねている様子で言い、



「でも、近いうちに」と付け足す。



「そうか。まぁ、旅の疲れもあるだろうしな。二、三日体を休めてから出立すればいいだろう。フットコルツなら、船で二日もあれば行ける」



 地図上の、目的地付近にある地名を指差してガーシュが言った。



「そうなんですか!?」



 想像していたほど遠くはないようだ。歓喜するメグナツに「うん」とガーシュは首肯したが



「天候に左右されなければの話だが」と付け足す。



「ちょっと、脅かさないでくださいよ~!?」



 メグナツの脳裏に不吉な光景が浮かんだ。彼の乗った船が航海の途中、嵐に見舞われ――ぶくぶくぶく……



「!?~~ッ」



 水の中に沈んでいく自分の姿が目に浮かび青ざめるメグナツ。やっぱり断ればよかった~と後悔せずにはいられなかった。しかしあんな状況で断れるわけないじゃん! 王妃の顔を思い出し、今度は深く嘆息するメグナツであった。



「不安か?」



「は、はぁ……」



 メグナツが力無い返事をすると、ガーシュは卓上に置いてあった呼び鈴を鳴らして、召使いを呼んだ。その男に耳打ちする。男が部屋を辞するとガーシュは、快心の笑みをメグナツに向けた。



「心配するな、メグナツ。俺が良い方法を考えてやったから」



「本当ですか!?」



 メグナツが瞳を輝かせると、ガーシュは笑顔で頷いた。



「ありがとうございます~!?」



 やっぱりガーシュ様は頼れるお方だな、とこの時改めて実感したメグナツであった。とそこへノックの音がした。ガーシュが入室を促すと扉が開く。



「ッ!?……」



 途端、メグナツは先刻の衝撃――しょっぱい角砂糖事件(?)の時のような表情になった。何故……



「お呼びでしょうか、ガーシュ様」



 そう言ったのはリュフトであった。



 ガーシュ様、こいつを呼んだ理由って……違いますよね?



 妙な胸騒ぎがして顔が引き攣るメグナツであったが、ガーシュは相変わらずニコニコ。リュフトに空いている席に着くよう促した。



 リュフトが座るとガーシュは酒杯を傾け、葡萄酒の残りをぐいっと飲み干した。そしてメグナツの顔をちらりと窺ってから、リュフトに視線を戻す。



「お前に話したいことがある」



「はい」



 相変わらず歯切れのいい返事だったが、緊張の色が滲み出るリュフトの表情であった。ガーシュが続ける。



「メグナツが王妃専属の部下になった」



 それを聞いたリュフトの目の動きが停止した。ガーシュが続ける。



「昔、俺が王妃の専属で雇われてたって話をしただろ? それを今度はメグナツがやることになったんだ」



 そこまで言われて、ようやく状況を把握したリュフトの表情が曇った。



 ガーシュ様と同じことをメグナツ(あいつ)が任されただと? なんであいつが――――!?



 凛冽した眉目が嫉妬に歪む。



「と言っても、“契約期間中”だけの話だが」



 緊張感を孕まない、あっけらかんとした口調でガーシュは言った。



「契約期間?」



 リュフトが問い、頷くガーシュ。メグナツは、そういうこと~、と内心でVサインでリュフトを見やった。リュフトは、ふん! とそっぽを向いた。が、すぐに前を向いて言った。



「それなら彼が、“ここに居る必要はなくなった”」



「!?」



「新しい主君を護るために、その側に住居を移さなくては」



「……っ~」



 狼狽えるメグナツを、リュフトの言葉がさらに追い詰める。



「そうだな……“専属の部下”ともなれば、与えられた家にでも?」



 厭みったらしい半疑問形で、メグナツを尻目に言うリュフト。そこに悪質な微笑があった。



 ムっかつくぅぅぅっっ! 1000回以上地団太を踏んで、悔しさに身悶えするメグナツ。彼の目には、リュフトのその背後に、悪魔の黒い尻尾があるように見えるのであった。



「そんなの与えられてないよ~~っ!」



 顔をくしゃくしゃにし、真っ赤になって反論するメグナツ。するとようやくガーシュが助け船を出す。



「メグナツは一時的に王妃の部下になるだけだ。そう無理に追い出そうとするな、リュフト。それにメグナツはなにも、主君を替えたわけじゃない。勘違いしているようだから言うが、俺はお前たちを騎士に育成するただの師匠であって、主君ではない。なぜかたいそうに、様付けで呼ばれてはいるけどな」



 そう言ってガーシュは、髭のない顎を手持ち無沙汰のように擦った。



 しかし納得がいかないのか、内心で舌打ちしたのが窺える、悔しそうなリュフトの表情であった。



 「それでなんだが」



 ガーシュが表情をいくらか引き締めてそう切り出すと、弟子たちは彼に注目した。



「さっそくその仕事でメグナツは、遠出しなくてはならないことになった」



「……」



「……」



 黙って聞き入るリュフトと、軽い胸騒ぎがするメグナツ。



  ガーシュはメグナツに視線を定めて言葉を継いだ。



「見知らぬ地を一人で旅するのは、とても危険だ。どんな敵に遭遇するか分からない。それに敵は魔物だけではないぞ。盗賊だっている。相手が人間なら武器を持っているはずだ。そしたらお前は、対等に闘えるか? しかも複数だったらどうする。自分で自分の身を護れる自信があるか? お前には魔法の手引きを渡したが、咄嗟に現れた敵の前でパラパラ頁なんか捲っていたら、探しているうちに殺られてしまうぞ」



「暗記すればいいんじゃ……」



 メグナツが控えめに言うと、ガーシュは小馬鹿にしたように軽笑した。ムっとしたメグナツが師を睨む。



 笑みを残したままガーシュが言った。



「丸暗記か。それもありかもな。だが、長々とした呪文をぶつぶつと唱えている途中で攻撃されたら終わりだ」



 そんなこと言ったら魔法使いが活躍できなくなってしまう。



「てか、そうなんですか?」との問いにガーシュは、何も答えずに目笑した。



「咄嗟の時に有効なのは、やはり剣だ。それ一本あれば瞬時に攻撃することも、防御することも可能だ」



「でも、突き刺してこようとしたら……」



 小さく問い質したメグナツに向かってガーシュは



「そういう時はこうだ」と卓上に置いてあったナイフ(メグナツと自分の)を手に取って、横に向けたナイフをもう一本のナイフでは弾き飛ばして見せた。



「簡単だろ?」とガーシュ。



「……」



 メグナツは、それをなんとなくしらけた眼で見ていた。実際それをやるのは簡単ではない、とでも言いたげに。



「だが」と節を付けてガーシュは切り出した。



「お前はまだ、剣を習い始めたばかりで経験不足だ。実際に襲われたら、こんな風に回避することはできないだろう。それでは自分で自分の身を護ることなどできない」



 リュフトが「うんうん」と同意して頷く。



「……っ!」



 メグナツは不貞腐れて唇をへの字に曲げた。



「つまり今のお前には、護ってくれる人間が必要だということだ。分かるな?」



「……」



 嫌な予感、嫌な予感、嫌な……………………予感~~んッッッ!




「リュフトを連れて行け」




 的中! 的中! 的中!



 メグナツの思考が狂乱のスパーク。赤黄青色花火の狂い咲き。“ガーシュ様”は予想を裏切らなかった。



「これは命令だ」



「命……令……って」




 そんなぁ~~~~ッ!?



 なんで、よりによってリュフトなんだ!?




 メグナツは本気で泣きたくなった。



「やです、やですよ! リュフト(そいつ)とだけは~~~~!」と半泣きで師に懇願する。普段は大声で反論したりしないリュフトも、この時ばかりは声を張り上げ「おれのほうこそお断りだ!」とメグナツに向かって言い放った。するとガーシュは、何か企てるようにニヤリとした。



「ただし、一度だけチャンスをやろう」



「チャンス……ですか?」



 メグナツが問い、リュフトは眼差しで問いかける。その疑問にガーシュは、含み笑いを蔵した目で頷いた。

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