庭いじりをしているだけで分かる日本との違い
食事の準備や、掃除など身の回りのことをすべてやってくれるメアリーが15歳。
一方、食っちゃ寝のコーテーは28歳。
さすがに彼も罪悪感を感じていたが、メアリーは城からの仕事を言われてやっているだけ。
これをやめさせると彼女の仕事を取ることになってしまうので、手伝うことも許されなかった。
しかも、メアリー自身、自分の仕事に誇りを持って取り組んでいたので、仕える相手からの手伝いと言うのは「あなたは能力が不足していますよ」と言う意味になってしまい、誇らしいことではなかった。
むしろ「何も不便がない」のがメアリーの目指すべきところであった。
そんな話をメアリーから聞いて、家事などの手伝いもできないコーテーは、『レクレーションとして』メアリーと共に花壇を作ることにしたのだ。
煉瓦はこの世界にもあったので、それで花壇を作ることにした。
ただ、残念なのがスコップだった。
木製なのだ。
これでは掘るのも大変だとコーテーは思った。
しかし、現代の日本と違って金属はそれほど発達していないようだ。
そう言われれば、食事の時ナイフはあってもフォークやスプーンはなかった。
地球で考えればヨーロッパ辺りの12世紀くらいの文化レベルだったのだ。
ちなみに、日本は12世紀と言えば平安時代とか鎌倉時代なので、フォークもスプーンもない。
お箸は、あったと思うのだけど、コーテーが転移した世界とはその程度だった。
「おーい、メアリー!スコップないの?スコップ!」
「スコップってこれですか?」
元々、日本語のコーテーと、現地語のメアリー、どうして通訳もなしに言葉が通じているのかは、『異世界ものってそう言うものだから』としか説明ができないのだが、何らかの翻訳機能が働いているのだろう。
コーテーにとっての『スコップ』は、東日本で言うところの『スコップ』、西日本で言うところの『しゃべる』で大型の物を指している。
ところが、メアリーが持っている棒のような物は、日本で言うならば「堀棒」など既に日常では使わない物を指すのだが、『スコップ』に当たる言葉がない。
『大きなスプーン』の『スプーン』すら通じないのであろう。
そのため、同じ『スコップ』と言っても、コーテーとメアリーでどれを指すのかあいまいになっているのだ。
2人はそんなこととは露知らず、『これ?』『これ?』を繰り返す2人。
まあ、2人がいいならいいけどね。
道具の名前騒動はとりあえず解決して、作業に入ったのだが、これからは一人の世界。
もくもくと耕し、黙々とレンガを並べ、枠を作っていく。
花壇の広さや、レンガをどう並べるかなど、基本的な事さえ打ち合わせが終わったら、2人は黙々と作業を進めていた。
多分、2人とも一人の作業が大好きな2人なのだろう。
もくもくと作業を進めていた。
メアリーにとってはいつもの作業。
城でも、時々庭の手入れを手伝っていた。
作業手順や道具に関しても慣れたもので、作業を着々と進めていた。
一方、コーテーは、慣れない道具、慣れない作業に苦戦していた。
「スコップってこれ!?棒と板の中間みたいなものじゃん。
むしろカヌーのオールって感じ」などと思いつつ作業を進めていたが腰が痛い。
慣れない作業と、効率の悪い道具で全く作業が進んでいなかった。
立ち上がって地面を見ると、スコップがささっている。
もちろん、コーテーが見慣れたあのスコップだ。
「あるじゃん!」と思って、さっそくスコップに持ち替えて、ザクザク作業を進めていく。
土は元々軟らかいみたいで、難なくスコップが入っていく。
『ザクザクザクザク』
慣れた道具さえあれば、簡単な作業だった。
ある程度、土地を耕したら、次は肥料。
「肥料肥料~」と鼻歌を歌いながら、すぐそこにあった肥料の袋を開け、土に混ぜていく。
土はOKなので、あとは枠を作るだけだと、すぐそこにあったシャベル(小さい方ね)に持ち替えて、レンガを置き、土で固定していく。
ふと見ると、メアリーがぼーぜんと立ち尽くしている。
「あれ?どうしたの?まさかのサボり!?」などと思いつつ声をかける。
「メアリーどうしたの?」
「コーテー様、それって何ですか?」
「どれ?」と聞きつつ、コーテーは周囲をきょろきょろした。
「全部です」
「え?」
メアリーは近づいてきて、シャベル、スコップを手に取ったり、掘ったりして試していた。
「すごいすごい!簡単に耕せる!」
なんだか、メアリーのテンションが上がっている。
「え?どういうこと?貸してくれたんじゃないの?」
コーテーにしてみれば、目の前にあった道具を使っただけなので、言っている意味が分からない。
「これは、このお屋敷の道具ではありません。わたくし初めてみました!」
「え?そうなの?目の前にあったから、てっきりメアリーが準備してくれたのかと・・・」
「あと、これはなんですか?」メアリーが肥料の袋を指さす。
「なにって、肥料?」
「肥料って何ですか!?土に土を混ぜているのですか?特別な土ですか?」
メアリーはかなり興奮気味だった。
肥料が珍しいことはコーテーにも分かったが、これも目の前にあったものだ。
コーテーは、メアリーが準備してくれているものだと思っていた。
「肥料は、土に栄養を与えて、植物が育ちやすくするものだよ」
「そうなんですか!」
メアリーの目がキラキラしている。
彼女は新しい物とかが好きなのだろうということが分かった。
その一方で、この屋敷に元々あった物に対してもこれだけ興味を持つのは不思議だと思った。
コーテーの中では、メアリーも自分に合わせて移住したので、屋敷の備品について知らないだけだろうと解釈してしまった。
「タネは何を植える?」
コーテーは気軽にタネの入った紙の袋をトランプのカードのように扇形にしてもち、メアリーに選ばせるように持った。
ばら、ゆり、なでしこ、ラベンダー、イタリアンパセリ、クレソン、カモミール、ローズマリー、たくさんあった。
「え?コーテー様、これどうしたんですか?故郷から持ち込まれたのですか?」
「え?メアリーが準備してくれたんじゃないの!?」
「第一、これらの花はほとんど見たことがありません。」
「え?そうなの?じゃあ、何でここにあるんだろう?」
「なんででしょう?」
『Q&A』とは、質問と回答だが、二人の会話は『Q&Q』二人とも頭の上に『?マーク』が浮かんでいる状態だ。
でも、あるからいいかと、とにかく植えていった。
普通なら、花壇を作るだけでも数日かかると思われていたが、土が軟らかかったからか、コーテーがサクサク作業を進め、半日ほどで畳2畳ほどの花壇が完成していた。
途中メアリーが昼食の準備で抜け、昼食をとった後に花壇に十分な水をあげて、種まきをした。
田舎だからか、屋敷内に時計がないので時間は分からないが、多分15時には作業を終えて道具を片付けていた。
「早く芽を出すといいですね」
「そうだね。花が咲くといいなぁ」
ほんわかした雰囲気で庭仕事を終えた2人だった。




