城への偵察
コーテーと勇者の特訓は1日中と言うわけじゃなかった。
1日8時間も特訓していたら、次の日が大変だ。
村のはずれの広場で、黒い雲を大量に出す練習や、勇者が一刀両断にする練習。
数キロ離れたところから、「いかにも魔王を倒したように見える」ことも確認しながら練習は進められた。
多少緩いけれど、続けるとしたら、1日のうち4時間程度を続けていくのがいいだろう。
あまり先に完成させすぎて、その後練習しないと本番の時にピークが過ぎてしまっていて最高のパフォーマンスは出せない。
足りないと届かない。
この兼ね合いが難しい。
ほどほどの練習をして、本番時にピークが来るようにする必要があるのだ。
勇者は16歳なので、やると決めたら全力でやってしまう。
誰かが止めないと寝る間も惜しんで特訓してしまう可能性もある。
一方で、コーテーは28歳。
まだ若いけれど、社会人経験もあり、工程管理や納期の管理もしている。
ペース配分がちょうどいいように練習をしていた。
そして、十分な休憩も入れていた。
チコや王妃と会う時間も作り、肉体面だけではなく、精神的にもリラックスできる時間を作っていた。
その裏で、コーテーは一人の時間を作り、城の偵察に行くことにしたのだ。
『敵を知り己を知れば百戦危うからず』
いくら練習しても、自分たちだけのことでは情報が足りない。
普通は相手のことを知ることなんて難しいが、コーテーには隠密スキルがあった。
そして、過去にも成果を上げてきたので、今回も当然城に忍び込んで情報の確認と言うわけだ。
あとは、「活躍してない」と自己分析をしていた。
モンスターも倒した記憶がないし、誰かを救ったこともない。
これだけ活躍していない主人公は少ないだろう。
今度こそ活躍の場を期待している。
例によって、瞬間移動で城に着いた。
瞬間移動の時「しゅっ」とか「ブンッ」とか音がしそうだけど、完全に瞬間での移動なので、思った次の瞬間別の場所にいる感じで、全く音がしない。
万が一コミカライズされたら、漫画家さんに迷惑をかける仕様となっていた。
目をつぶって、目を開けたら違う景色が見える状態に似ている。
こういった力はコーテーの想像力から実現されているようだ。
そのため、コーテーとしては、瞬間移動はエレベーターに似ているといつも思っていた。
ドアが閉まる前の風景と、開いた時の風景が違うからだ。
移動先に誰かがいるとか、何かがあるとか、そんなことは想像の外。
だって、エレベーターなのだから。
以前、城の中をうろうろした経験から、王様のいる場所は大体わかっていた。
ただ、コーテーにとって、王と言う存在が誰かと会う時にいる謁見の間にいるとき以外は、どこでどんなことをしているのかイメージできなかったのだ。
コーテーはサラリーマン。
王様と謁見することは当然なかった。
城に着いたと同時に、光学迷彩にも似た透明の状態になった。
一人だと心細いからか、横にはテネブレがいた。
「なあ、これどういう仕組み?お互い透明なのに、俺からテネブレが見れるよ?」
「お兄ちゃんが・・・そう思った・・・から」
「やっぱり、俺のイメージなんだ・・・ちなみに、テネのそのクマのぬいぐるみも透明なの?」
「クマちゃん・・・透明」
よく漫画とかでは、臭いや音でバレるのが常だけど、実際はよほど静かでないとバレないし、臭いも分からない。
誰かが分からないようにしてくれているのかもしれないな。
『声・・・人に聞こえない』
『マジか!すごいご都合主義!』
『お兄ちゃん・・・が・・・考えると実現する』
『それが凄い!そして面白い!』
『私も・・・楽しい』
『楽しいのか?』
『楽しい・・・普段、人とあまり・・・関わらない』
『ああ、闇の精霊王だからかな?闇属性の魔法ってかなりレアだったんじゃないか?使える人がいないもんな』
『ん』
『じゃあ、普段退屈だな』
『ん・・・考えたことなかった』
『そか、今はみんないるから楽しくてよかったな』
『ん・・・お兄ちゃんが一番面白い』
『俺?俺は面白くないだろ!?力はないし、異世界人だし』
『発想が・・・面白い。あと、他の精霊王も・・・お兄ちゃんの考えを・・・実現させている・・・』
『まあ、異世界から来たし、精霊王たちは遊びで付き合ってくれているのかもなぁ』
いくつかそれらしい部屋をのぞいていると、姫を見つけた。
姫は自分の部屋らしいところでベッドに寝ていた。
まわりに侍女が2人いることから寝込んでいるみたい。
母親と勇者がいなくなったんだ。
ショックなのか、責任を感じているのか・・・
こればっかりは話を聞かないと分からないけど、透明になっている手前、次回に見送りにしよう。
この姫はマリアだけど、本当のマリアはメアリーだ。
このマリアは偽物と自分で知っているのか、知らないのか・・・
どちらにしても、コーテーとしてはメアリーに完全に肩入れしてしまっているので、姫に対してあまり興味がなかった。
寝込んで、少しやせているのを見たら、心配しているのだろうけど、それ以上何も感じなかった。
こっそり部屋を離れた。
娘の部屋があるくらいなので、王の部屋も近いはずと近くの部屋をいくつかあったところで王を見つけた。
こちらは寝室ではなく、言うならば会議室みたいなところらしい。
黒いローブの男と王様が話している。
王がかなり興奮して時々怒鳴ったりしていたので、外からでも場所が分かった。
こっそり入り込んで話を聞くことにした。
「王妃がどこにいるのかがなぜ占えないっ!?」
王様が叫んでいる。
「陛下、恐れ入ります。方角までは分かるのですが、具体的な場所までは・・・」
「こうしている間にも、魔王から拷問を受けているかもしれないのだぞ!」
ああ、家で娘とまったりしています、とは口に出すことは出来ないコーテー。
確かに、身内がさらわれたら心配だろう。
『ダン!』
王様は机に両こぶしを叩き付けた。
「(王様荒れているな。そう言えば、少しやつれたかな。王様も良い人かな)」
『あの人・・・言っている事・・・本心』
テネも人が言っていることが本当かどうか分かるんだな。
「私は魔王の出現も預言しました。そのために、勇者の召喚も進言いたしました。」
「確かにな」
「魔王は殺せます。私の予言はそのように言っています」
「しかし、当の魔王の居所が分からないのでは、どうしようもないではないか」
「もう一度王妃様の場所を占ってみます」
「うむ、急げ」
占い師と言う黒いローブの男は部屋を移動していった。
王様からはこれ以上情報が出なさそうと思ったコーテーは、占い師の方に付いて行った。
占い師は、広い部屋に移動した。
なんだかあやしげなものがたくさん置かれていることから、ここは占い師の仕事場なのかな。
占い師の男は、床に魔法陣っぽい円形の図と文字を書いていた。
ただ、独り言が多いやつなのだろう。
ずっとしゃべっている。
「陛下もむちゃをいいなさる」
「魔王の予言が当たったからいいものの、外れたら命が危なかった・・・」
どうも自分の占いが外れることに危機感を持っているようである。
そもそも『占い』と『予言』と言うのは、似ているものなのだろうか。
占いは外れることもあるだろうけど、予言と言うと当たる気がする。
「王妃様の場所・・・」
小一時間何かしているのを眺めているコーテーとテネブレ。
『あいつの占いって当たるのか?』
『知らない・・・いくらか・・・精霊が・・・動いている』
『へー、一応何らかの効果はあるんだ・・・』
『当たるかどうか・・・別』
『辛辣!でも、確かにな』
完全に退屈をしているコーテーとテネブレ。
校長先生の話に飽きた高校生の様に私語が増えた。
ちなみに、これらの音は他に聞こえないようになっている。
しばらく経っても占いの結果は出ない。
「(魔王の出現や勇者召喚のことを占ったらしいから、まったく外すわけじゃないみたいだけど・・・)」
「(でも、よく考えたら、こいつが魔王の出現とか言うから勇者が召喚され、それに俺が巻き込まれたんじゃ・・・)」
段々腹が立ってきたコーテーは悪だくみを思いついた。
『なあ、テネ、こんなことできる?』
『ん、できる』
占い師の目の前に黒い霧のような物が浮かび、やがて文字になった。
『1週間後城の南から王妃と勇者と魔王が現れる』
一定時間したらその文字は霧散した。
「お、おお!予言!新しい形の予言だ!」
占い師の男が興奮していた。
『陛下にお伝えしなければ!!』
占い師の男は走って行ってしまった。
「これで、王妃は1週間後に帰ってくることを伝えられた。王妃も勇者くんもチコも長くいたいみたいだけど、1週間後に帰ることが決まってしまった。」
「ん」
「帰るか」
「・・・うん」
「どうした、何か気になるか?」
「・・・なにも。ただ・・・」
「ただ・・・どうした?」
「だっこ」
「は?」
「だっこ・・・して・・・帰る」
「甘えたい盛りか!」
コーテーは、テネブレを抱っこして帰ることになった。
ただ、瞬間移動なので、意味があったのかは秘密だ。
「あ、コーテー様、お帰りなさいませ」
家に帰るときは、エントランスに出るようにしている。
帰ろうと思ったら、メアリーが迎えに来てくれるから部屋直は避けている。
とりあえず、メアリーの頭をなでておいた。
「あの・・・恥ずかしいです。コーテー様」
「良いじゃないか。誰も見てないよ」
すぐそばに、王妃とチコ、それに精霊王たち6人が立ってた。
「(何で広い屋敷でみんなここにそろっているの~!?)」
心のツッコミは誰にも聞こえないのであった。
■押すなよ押すなよ
「すべての条件はそろった。」
夕食の時だった。
コーテーがみんなの前で宣言した。
「何がそろったのですか?」
横のメアリーが尋ねた。
「いよいよ明日、みんな帰ってもらいます」
「「「ええ!?」」」
王妃、勇者、チコがそろって驚いた。
ちょっと抗議めいた『ええ!?』だった。
「勇者くんとの魔王討伐練習は完璧だ」
「え!?ちょ、ちょっと待ってください!まだ自信が・・・」
討伐の練習相手が魔王なので、練習でうまくいけば本番でもうまくいくだろう。
「王妃様とメアリーとの交流もたっぷり時間が取れた。既に、王妃様が時間を持て余しつつある」
「い、いえ!メアリーと同じ屋敷内で話さない時間も関係を深めるといいますか・・・」
「チコは作れるメニューが20を超えて、試食でややぽっちゃりしてきた」
「何てこと言うんですか!まだ、スイーツ関係のレパートリーが少なくて・・・」
三者三様にまだだと訴えるが、完全に今の生活から離れたくないだけだ。
そりゃあ、三食昼寝付き。
チコに至っては、六食か七食食べているような気がする。
「明日みんな帰ってもらって、魔王を討伐してもらいます!」
「「「・・・はい」」」
「あの・・・また落ち着いたら、いつでもいらしてください。美味しいものをたくさん作ってお待ちしていますので」
「城には明日みんなが帰るとそれとなく伝えています」
「「「いつの間に!?」」」
「予言者に予言させておきました」
「あの預言者でしたら、これまで予言をほぼ全部当てています」
「すごい人だ」
「だから、召喚の儀をとりおこなうことになりました」
「その凄い預言者が魔王を殺すと言っていたので倒されてきます」
「ちょっと待ってください、コーテー様!万が一本当に何かあったら!?」
「メアリー、大丈夫だよ。勇者くんの剣はレベル18以上の人には効かないし、倒される練習はなんどもやったから」
「それでも・・・心配です」
「(これだけ事前打ち合わせしたら、フラグのぶっといのがズンと立っていないだろうか・・・)」
■予定していた予定外
「絶対付いて行きます―!」
「いやいや、練習と違うし、危ないから」
「そんな危ないところにコーテー様おひとり行かせるわけにはいきません!」
「いや、危なくないように練習してきたし・・・」
一晩明けて、朝でかけるようになって、メアリーが駄々をこね始めた。
「しかも、メアリーが付いてきたら色々バレバレじゃん」
「あああーーー!なんで私は!思ったように顔が変えられないのでしょう!?顔を変えればわたくしとは分からないのにー!」
「人は、そういう風には出来てないんだよ・・・」
時々ポンコツなメアリーは、とてもかわいいと思うコーテーだった。
「それにしても、人間の預言者とはいえ、魔王様を殺せるって予言したのが気になりますね」
「勇者様もそう思いますか、私もなんだか気になって・・・」
勇者と王妃も気にしているようだ。
今の生活を続けるために、こんな心理戦を仕掛けてはこないだろう。
気にせず行くこととなった。
「じゃあ、瞬間移動しますけど、忘れ物はないですね?」
もはや、里帰りから自宅に帰るようなノリになっている。
「「「はい」」」
全員が屋敷前の荷馬車に乗って、その後荷馬車ごと一瞬で姿を消した。
ちなみに、メアリーはお留守番だ。
一行は城から1~2キロの辺りに出現した。
城は十分に見える。城壁までは草原が広がっていて視界は良い。
ただ、城からしてみれば望遠鏡や双眼鏡がない世の中で2キロ先の人間を識別するのはほぼ不可能。
しかも、荷馬車に乗っているので、いよいよ分からないだろう。
荷馬車は少し早いスピードで城に向かい始めた。
しばらくすると城から騎兵隊がぞろぞろと出てくるのが見えた。
事前にコーテーが預言者を通して王妃たちの帰りを伝えていたのが効いたのだろう。
「じゃあ、勇者くん、そろそろ始めようか。練習通りで」
「はい」
急いで逃げてきた設定なので、人用の馬車ではなく、荷物用の荷馬車となっている。
馬車が城の城壁に近づくころには、城から数キロ離れたところに黒い雲が立ち込め始めた。
ここからは勇者のターンだ。
「王妃様ヲオ願イシマスー!ボクハ追イカケテキタ魔王ヲ倒シマス!(棒読み)」
「おひとりで大丈夫ですか!?」
王妃を任された騎士団の一人が尋ねた。
「少し大きな魔法を使います。離れていてください!」
「分かりました!!ご武運を!!」
こうして、勇者は一人城から離れ、魔王に向かった。
勇者は城から十分離れたら、目の前の黒い霧の前で止まった。
勇者の後ろには、大きな火柱が燃えあがった。
そのあと、水の集中砲火。
さらに、竜巻を起こし、地面からは三角錐の大きなとげを出現させた。
これに城では大騒ぎとなった。
「勇者様が精霊の加護を受け戦われているぞ!」
「すごい威力だ!」
「しかも、地水火風全属性だぞ!」
「あの威力だと、精霊どころか精霊王様達の加護かもしれない!」
「奇跡だ!奇跡が起きている!」
良い具合に騎士団をはじめ、城の人間たちが勇者を『正義』として認識している。
しかも、王都の宗教の神である四大精霊を引き連れて戦っているのである。
勇者が神剣「アスカロン」をふるい、目の前の霧と共に魔王を真二つに切り裂く。
神の化身とも言える状態となった勇者をどうにかしようと思う人間はいないのだ。
むしろ、王も勇者に傅く。
そうでなければ、王が王でいられないようにお膳立てしたのだった。
城を脅かす魔王の黒い霧は霧散していく。
霧はなくなると、魔王の死体も残らず消えた。
「やったぞ!勇者様が魔王を討ったぞ!」
「やった!!さすが勇者様!!」
勇者に駆け寄る騎士団たち。
みんな勇者の功績をほめたたえ、城に誘導していく。
その頃、王と姫は王妃との再会を果たしていた。
コーテーの占い操作により、不確かな情報ながら王妃が帰ってくる希望が湧き、姫も持ち直し、王の目にも光が戻っていた。
そして、実際に予言通りに帰ってきたのだ。
安堵と喜びが一緒に押し寄せ、しかも、問題視していた魔王討伐の知らせまで届いた。
正に歓喜状態だった。
一方、屋敷ではメアリーがそわそわして落ち着かない。
「あああああー!どうしましょう、どうしましょう!」
誰もいない屋敷で一人うろうろしている。
「もしかして、占い師の占いが当たって・・・」
エントランスの大きな花瓶を動かしたり、戸棚の引き出しを開けたり、全く支離滅裂な行動をしてしまっている。
そんなところに主人はいるわけがない。
歓喜で湧く城では、静かにひとりほくそ笑む男がいた。
ローブの占い師の男だ。
またもや占いを言い当てたのだ。
しかも、今回は、魔王を倒せることと、王妃が戻ってくることの2つも同時に当てている。
それ相応の褒美を期待しているのかもしれない。
その男の後ろに静かにコーテーが立った。
「動くな」
声を変えて男に語り掛ける。
片手の肘では男の首をホールドし、もう片手では後ろからナイフを突きつけている。
ただ事ではない雰囲気を察して、占い師の男は身動きを止めた。
「今後、魔王について占うな」
「そ、それは陛下に依頼されたらっ・・・」
「ずっと見ているぞ。命が惜しかったら占うな」
「わかった!いや、わかりました!もう、占いません!」
その言葉を聞くと、魔王であるコーテーはすっと姿を消した。
背中に冷たい汗をかき、膝から崩れ落ちる占い師だけが残った。
コーテーが屋敷のエントランスに戻った。
「コーテー様!」
それを見るなり、エミリーが駆け寄り首に抱き着いた。
「ぐずっぐずっ・・・よかった・・・戻ってこられてよかった・・・」
「な、泣いてるの?!ご、ごめん」
「大丈夫ってわかってるんです。わかってるけど・・・」
「ごめん、ごめん、ごめん。先に殺っとかないといけないことが分かって、小さな予定変更だったから・・・」
今度は、コーテーが気を付けの状態に両腕ごと抱きしめるようにして、ぎゅーっとしながら「ぎゅー」って言った。
口で言った。
「大丈夫だから。予定通り、みんな帰したから」
「はい」
胸に顔をうずめているので、メアリーの顔はコーテーから見えない。
よほど不安だったのだろう。
「また二人だね」
「はい」
「また平和になったから、のんびり暮らそうね」
「はい」
また屋敷には2人だけのゆっくりとした時間が流れるのだった。




