王妃様を村に案内しよう
「そんなことできませんーーー!」
朝一番の声はチコだ。
「うちでは、みんな一緒の食卓でご飯を食べることになっているんだよ」
「私のような侍女が王妃様と同じテーブルにつくなど恐れ多くて!」
「ここは王宮じゃない。魔王城だ。魔王の城のルールに従え」
「チコ、魔王様もこういわれているし、テーブルに座りなさい」
「え!?で、でも・・」
「ほら、もう抵抗しているのはお前だけだぞ!?お前が王妃様の食事の邪魔をしているぞ!?」
「え?ええ!?それはいけません!」
しぶしぶ、チコも席に着いた。
朝食はメアリーとコーテーで準備した朝食だ。
メニューは、パンを手づかみだったら王妃が食べなれないだろうから、フレンチトーストにして、ナイフとフォークで食べることにした。
ついでに、コーンスープも付けた。
「コーテー様と一緒に作りました」
「まあ!魔王様は料理もなさるの!美味しいわ!」
「魔王は、やりたいことはどんなことでもやる」
「メアリーと言う侍女がいるのに、料理を作られるなんて・・・」
「メアリーは婚約者だ。料理も楽しみの一つとして作ることもある」
「そう、その『婚約者』です。メアリーとはいつ結婚されるのですか?」
「う・・それは・・・」
「さすがの魔王様も婚約者のお母様には勝てませんね」
ついにチコにもいじられるようになってしまった。
食事をしたら、それぞれ『普通の服』に着替えて、畑に出かけることにした。
王妃も『ちょっといい服』くらいの普通の範囲に入る服を準備して、着てもらっている。
「コーテー様、畑までは歩いて行きましょうか」
「そうだな、そんなに距離はないしね」
メアリーとしては、瞬間移動ではなく、歩いて行こうと言う意味だったが、コーテー以外には『乗り物ではなく徒歩で行こう』と言う意味に聞こえただろう。
メアリーは、恐る恐る王妃の手をつなぎ、にっこりと笑顔を向けた。
王妃もこれまでに失われた時間を取り戻すように、娘との時間を楽しんだ。
普段は跳ねるみたいにして歩いて、コーテーの後ろをついて歩いてくるメアリーは『わんこ』的キャラクターだが、実の母と一緒の時は『借りてきた猫』だった。
ただ、それが建前的なキャラクターという事は、王妃も酒を飲んだメアリーを見た分、理解していた。
ただ、なんでもない、一緒に手をつないで歩くと言う普通のことは王妃として育ってきた彼女には夢のような時間だった。
「魔王様、今日は何しにいくんですか?」
勇者がコーテーに質問した。
「ついに、勇者くんまで『魔王様』と呼ぶようになったのか・・・」
「だって、王妃様もチコさんも『魔王様』って呼び名に変わってたし、そもそも僕ら両方とも『勇者』と呼ばれたらややこしくてしょうがないですしね」
「きみが勇者で、俺が魔王なら、被らなくていいけど、いつかきみには『魔王』を倒してもらわないといけないんだから、せめて『魔王』にしておいてよ。国一番のツワモノである勇者が『魔王様』って・・・」
「え!?僕、魔王様を倒すんですか?」
「みんなの前で、大々的に倒してもらわないと、城の人たちとか、王様とか、なっとくしないでしょ?」
「えー!?勝てないですよー、どうかんがえても」
「大丈夫、大丈夫、派手にやられるから。」
「何か僕、気が重くなってきました・・・」
「まあ、その話はまた今度で。今日はいもを掘ってもらうから」
「は?いもですか?」
「そう、畑で村の人たちと一緒に芋ほりだよ」
「え?いもって土の中に生えてるものですか?」
「生えてるって・・・生るんだよ」
「あ、そうか。僕、もしかしたらいも掘り初めてかも」
「村人総出で収穫してる。今日、勇者くんが掘ったいもは、メアリー達に料理してもらって、夕飯にしよう」
「え?!自分で掘ったやつを自分で食べるんですか!?それヤバくないですか!?」
「うん、ヤバい、ヤバい」
「え?僕が城で修行している間、魔王様ってあんなきれいなメアリーさんとそんな楽しい生活してたんですか!?うらやましいです!」
「いや、まあ、それなりに色々あったんだよ?」
「うわー、いいなぁ」
「その分、今日は芋ほり頑張ってたのしんで」
「はい!ありがとうございます」
コーテーと勇者、王妃とメアリー、そして最後にチコが付いてくると言う脈絡のない、共通点のあまりない5人は畑にむかって進んだ。
畑に着くとすぐに村人から声をかけられた。
「おはようございます!メアリー様!」
「おはようございます!」
「おーい!女神さまが来られたぞ!」
「あ、おはようございます!」
王妃が少し戸惑っている。
「あ、メアリーって村が飢饉のときに食糧援助をしたり、炊き出しをしたりしていたんで『イススの女神』って呼ばれてるんです」
「まあ!メアリーが女神」
「メアリー様おはよう!」
「おはよう!メアリー様!」
相変わらず、子供たちからも人気だ。
「まあ、まあ、まあ、子供たちからも」
「実際かなり大変だったんですが、献身的に村を救いました。村人からの信頼も厚いです」
ここでコーテーが一歩出て村人に言った。
「今日は女神さまのお母様も来ている!見学させてもらうよ!」
「もちろん結構です!何にもありませんが!」
「あと、それ以外は人手だ!しっかり働くよ!」
「そいつはありがたいです!今日は、ここから、この辺りまで進めます」
畑では、イモの蔓が伸び、葉が生い茂っている。
素人目に見てもいい育成具合だ。
村人は、老若男女数十人が来ている。
恐らくそれ以外は、狩りに行ったり、家のことをしているのだろう。
「魔王様、これどうやって掘ったらいいんですか!?」
「道具も何もいらないよ、手で掘っていくんだよ。じゃあ、線引いといてあげるから、ここからここまで掘って行って、いもが出たら、あの籠に入れて行って」
「はい」
コーテーは2~3個いもを掘って実演して見せた。
地面の中から食べ物が出てくると言うことに、何だか異常な興奮を覚えた勇者は、この日一番いもを掘り出した。
チコも普段は畑仕事などはやらないのだろう、戸惑いながらも見様見真似で芋ほりをしていた。
驚いたのは、王妃で、最初は見ているだけだったのだが、段々メアリーに近づいてきて、ついには自分もいもを掘り始めた。
結局、2時間ほど作業をみんなでやることになった。
「休憩しましょうー!」
「きゅうけー!」
誰かの合図で、休憩することになった。
ずーっと仕事しっぱなしだと効率も悪くなってくるし、何より続かない。
村にとって、畑仕事は今日だけではなく、毎日のことなのだ。
適度に働き、適度に休む。
気は抜けないけど、手は適度に抜くべきなのだ。
「女神さま、お茶、ここに置きますね」
「ありがとうございます」
村人が気を利かしてくれて、お茶を準備してくれた。
「私がお注ぎします・・・あ」
チコが、チャンスとばかりにお茶を注ぐ係りを申し出たが、全員手が泥だらけだ。
「ルミニス、頼む!」
『はーい』
一瞬で全員の手だけではなく、全身がきれいになった。
「え?これは魔法ですか!?」
王妃が驚いている。
「こんな魔法もあるなんて」
チコがお茶を配ってくれている。
王妃にお茶を出した後は、村人にも注いで回っている。
村人の関心は王妃みたいで、ドンドン人が集まってくる。
「女神さまのお母さんですか、女神さまには本当に助けてもらいました!」
「ありがたいことです!」
これ食べて、これ食べて、と漬物のような物だったり、お菓子のような物だったりを次々王妃に出していった。
目の前にたくさんになった『お供え物』をみて、王妃は甚く感激していた。
「魔王様」
「どうしたんですか?」
「私はいつもいろいろな村や街から献上品をもらっています。でも、これらは本当にうれしいですね!」
「そりゃあ、メアリーのお母さんですから、みんなには無条件に大事にされますよ」
「そうですか、あの子しっかりお役に立てているのですね」
「彼女がいるから、俺がゆっくりできてます」
「そんなことを言って。魔王様が表で動いたら身体を壊すまで頑張ってしまうんじゃないですか?」
「そういうところがあるかもしれません。そういう意味でもメアリーには助けられてます」
「挙句、女神にされるのならば、親としては嬉しい限りですが」
「ははは」
「それにしても、いもがこんな風にとれるなんて、私は今まで知りませんでした」
「俺達の世界でもそんなもんです。勇者くんなんていもが地面の下に育つことをしらなかったくらいですから」
「そうなのですか」と少し寂しそうにする王妃。
「あとで、メアリーと一緒に料理に挑戦してみませんか?メアリーの仕事ぶりも見れますよ」
「まあ!それは素晴らしい。ぜひ、挑戦させていただきますわ」
この日は午前中畑仕事をして終了だった。
村人の一部は他のまだ芽が小さい野菜の草取りをしたりし、作業があったが王妃や勇者くんが1日畑仕事が続く訳がない。
みんなで掘ったさつまいもをたくさん持って帰ることにした。
帰りは大変なので、瞬間移動で。




