お酒を飲もう
食堂ではなく、リビングにみんな集まった。
それぞれ風呂に入って、少しさっぱりしている。
風呂では、シャンプーとコンディショナーを見て、メアリーの髪の艶の秘密はこれかと、使い方などを根掘り葉掘り聞いていた。
その後、化粧水やクリームについてもかなり長い間レクチャーがあったみたいだった。
後でそれぞれの年齢に合ったものを準備しておこうとコーテーは心に決めた。
王妃には、チーズ盛り合わせやオードブル的な少し上品なつまみと、ちょっといいワインを準備した。
チコとメアリーは、ポテチや乾き物を少々と、この世界では成人なので、カクテル的な飲みやすいお酒を準備。
勇者くんは治外法権だろうけど、日本では未成年なのでジャンクフードとコーラを出してあげた。
一番喜んだのは勇者くん、この世界ではジャンクフードが存在しない。
ずっとプレッシャーの下、緊張などもあって、気が抜けなかったみたいだ。
慣れ親しんだジャンクフードとコーラがあってかなり感激していた。
王妃は、お酒は潤滑油位にメアリーとの会話を楽しんでいた。
同じ城にいながらずっとゆっくり話せなかったのだ。
1週間くらいは『軟禁生活』なのだ、楽しんだ方が勝ちと言える。
一番大変だったのはチコ。
彼女は城の侍女だ。
王妃と席を同じくすることなどこれまで一度もない。
一緒に酒を飲むなんてことは絶対にありえないのだ。
最初は王妃のお酒の準備などをしていたが、コーテーがストレージからなんでも出してしまうので、仕事がない。
いつものように立って、待機していようと思ったら、メアリーに呼ばれてソファに座る。
しかも、いつの間にか、メアリーは王妃の娘という事になっている。
なっているというか、チコがこの場で知っただけなのだが。
メアリーは同僚の使用人で、王妃様の娘様という事はお姫様で・・・と色々考えているうちに、メアリーに勧められるままに飲んだ酒が回ってきて、地に足が付かないとっ散らかった状態になっていた。
「メアリー、あなたはこのお屋敷でもう一人の勇者様・・・魔王様と暮らしていてしあわせなの?」
「はい、王妃さ・・・お母様、コーテー様は本当に良くしてくださいます」
その笑顔にメアリーの言葉に嘘がないことを王妃は感じ取った。
「メアリーもいつの間にかお酒が飲める年齢になったのですね」
「はい、メアリーはもう、とっくに成人です」
王妃とメアリーがお酒を飲む。
「立場上、一緒に食事をすることも出来なかったし、お酒を飲むこともありませんでした。魔王様に感謝しないといけませんね」
「・・・はい・・・きょーてーしゃまは、すびゃらしいかたです・・・」
「メアリー・・・?」
メアリーがすっくと立ちあがった。
「きょーてーしゃま!チコ!いまチコを見ましたね!チコまで嫁にしようとおきゃんがえれるか!?」
少し離れたところのソファで一人お酒を楽しんでいたコーテーの膝にメアリーがずっかと座った。
そして、お姫様抱っこのようなポーズで、首に抱き着き頬をすりすりと摺り寄せてきた。
「つまはわたくしれす!つまはわらくしにしてくらさい」
まだ飲み始めたばかりなのに、もう出来上がっているようだった・・・
コーテーは、王妃が見ている中、メアリーの頭をなで続ける地獄を経験した。
寝てしまったメアリーをベッドに寝かしつけて、コーテーはリビングに戻ってきた。
「懐いているのですね」
王妃は少し羨ましそうに尋ねた。
「どうかな、確かに、最初は一言も口をきいてくれなかったし、慣れてきたかな」
「メアリーは、すごく人見知りです」
横からチコが参加した。
「人見知り・・・」
王妃がつぶやいた。
人見知りの要素もあるのだろうけど、隠しても隠れないほどの傷と痣があったから内向的になっていたかも、と心の中で分析していた。
「でも、今はそれほどでもないかな。村でも積極的に村人と交流している」
「え?チコが!?考えられない」
「魔王様は、色々な意味でメアリーを変えてしまったのですね。恐ろしい人です」
良い意味ととっていいのか、悪い意味ととっていいのか少し判断に困った。
「いま村では収穫時期なんですよ。明日みんなで畑に見に行きましょう」
「いいですね。普段なかなか領民の日常を見ることができません」
「あ、そうだ。本当の意味で、『お忍び』で行ってみませんか?」
「どういうことですか?」
「『王妃様』としてではなく、『メアリーのお母さん』として村に行くんです」
「面白そうですね。魔王様は面白いことを考えられる」
「メアリーと一緒にいても全然変じゃないし、日ごろのメアリーも見ることができる。しかも、何一つ嘘をついていない」
「騎兵団の戦略師になっていただきたいくらいだわ」
「あ、残念。俺、魔王ですから」
「そういう意味では、魔王って何なんでしょうね。」
チコが不思議そうに言った。
「そうだなぁ。王様と違うグループの集団かな」
「私の考える魔王とは違います」
「チコが考える魔王ってどんなやつ?」
「悪いことばかりして、世界を滅亡させようとしてて・・・」
「『悪いこと』が誰にとってかってことだな。意味もなく、人間に嫌がらせをする集団がいるとしたら、それは単なる迷惑な集団だな。それに、世界を滅亡させたら魔王も生きていけないだろ」
「そうですね。でも、魔族は人間を滅ぼします」
「人間が全種族の頂点だとしたら、人間は他のどんな生物も殺していいっていう考えは単なる思い上がりにならないか?」
「人間はしゃべれますから」
「魔族だってしゃべるんじゃないか?モンスターだって、言葉かどうかは分からないけど、意思疎通ははかってるだろ」
「そう言われればそうですね」
「人間は必ず他の種族を殺して食べているわけだから、他の種族を基準に考えたら、十分『悪』だろ」
「・・・そうですね」
「俺達の世界では『貴族』って制度がなくなってる」
「そうなんですか!」
「それは興味深いです。どんな世の中ですか?」
王妃も参加してきた。
「金持ちと貧乏はやっぱりいる。でも、戦争は70年以上やってない」
「それは素晴らしい」
「貴族は平民を殺しても罪に問われないという事はない。一応ね」
「え?貴族と平民が同じなのですか?」
「そう、チコはいつから侍女やってるの?」
「物心ついた時からです」
「だとしたら、理解は難しいかもしれないけど、俺から言わせたら貴族が平民を殺していいって言うのは、人間が動物を殺していいって言うのに似てる」
「どういうことですか?」
「逆に考えてみたら?訳もなく貴族に殺されていいなんて平民の立場からしたら嫌だろ」
「まあ、そうですけど・・・貴族の方ならば・・・」
「貴族なら、自分の親や兄弟を殺しても腹が立たないって?」
「それは・・・やっぱり腹が立ちます」
「だろ?それと同じで、動物からしたら、人間だからって殺していいっていう考えは、やっぱり横暴だろ」
「でも、動物は、そこまで頭がよくないですよ」
「じゃあ、貴族は頭が良くて、選ばれた人間だから、他の人間を殺してもいい?」
「それは・・・」
「俺が魔王だとしたら、やっぱり、俺の身近な人は大事にしたい。生きていくために必要だったら、動物は殺して食べるよ。」
「まあ、そうなるでしょうね」
「『人間』が攻めてきて自分の大切な人に危機が及ぶなら、当然排除する」
「・・・じゃあ、『正義』とか『悪』とかって・・・」
「2つの集団がいたとして、両方が正義で悪だろうなぁ。一方から見たら、自分たちは正義で、相手は悪だろう。」
「でも、逆から見たら逆の方が正義で敵は悪・・・」
「そうなるだろうな。ちなみに、いまんとこ、『魔王軍』は俺とメアリーだけだな」
「メアリーはコーテー様が全力で守る、と」
「そういうこと」
「あ、私もこのお屋敷にいるわけですし、『魔王軍』になりませんか?」
「そうやって簡単に乗り換えないように、国にはそれぞれ『宗教』があるんだよ」
「え?」
「王都ではどんな宗教があるか分からないけど、神様がいるだろ?」
「はい、四大精霊様を神として崇めています」
「え?四大精霊が神なんだ・・・。ま、まあ、いいや。王様は人間だから、いつか死ぬだろ。そしたらカリスマ性が高い王様が死んだら、国がバラバラになるかもしれない」
「そうですね」
「そこで出てくるのは神様で、神様は死なないんだよ。ずっと人の心を縛る」
「え?神様ってそんなかんじですか?」
「俺達の国では、一応神様はいるけど、それほど重視されてないな」
「ええ!?神様がいらっしゃらなくてどうやって生活していけるんですか!?」
「えーっと、全くいないわけじゃないし、信じてないわけじゃない。国によっては神様が1人の所もあるけど、俺が住んでいた国では神様は無数にいた」
「え!?神様がそんなに!?」
「主だった神様は808いて、それ以外に大きな木とか、岩とかも神様だった。身近なところだと100年以上使った道具も神様になったし」
「そんなにたくさんいたら困らないですか?」
「うーん、そうかな。誰も見てなくても悪いことをする人間は少ないし、物だって大事にするかな」
「コーテー様の国が理解できません・・・」
「酒も入って、ちょっと変な方向に進んでしまったけど、『貴族も平民も動物も同じ』なんて考えの人間がいたら、王都からしたら困るわけだ」
「確かにそうですねぇ」
「よって、俺は魔王と言っても、あながち間違いではないのかもしれない」
「ははー、確かに」
「だからと言って、王妃様やチコを傷つけたりしないし、メアリーは何より大事だ。魔王だけど、メアリーを大事にする気持ちは伝わったでしょうか?」
コーテーは王妃に視線を送った。
「まさに魔王様・・・私も漠然と『魔王』と言えば、悪いものだと思っていましたが、そんな考えがあるなんて・・・」
「俺からしたら、この世界の方がより自然に近いはず。弱肉強食っていうか、生き物として強い方が偉い世界。人と龍なら龍の方が強いから偉い」
「・・・」
「ただ、そうなると、王様は国の誰よりも強くないといけなくなる。そんなことはあり得ない。」
「陛下と騎士団を同列で考えること自体ありませんでした・・・」
「かもな。そこが宗教だったり、人間社会だったり、ってことだな。そして、宗教にも縛られないで、人間社会のルールにも縛られない俺は『魔王』ってこと」
「なるほど、魔王は強いとは限らないのですね」
「そうだな。弱くても魔王だな。」
「その魔王様は、メアリーとどうやって仲良くなったのですか?」
王妃が痛いところを突いてきた。
「メアリーはどこか疎外感があったのかもな。俺は訳の分からない国に連れてこられて、その上、無視だったから、足りない部分があったのかな、心的に。何となくマッチしたのかもしれない」
「今日は、魔王様がメアリーを本当に大事にしていることが分かりました。それだけでも大きな収穫です」
「それはどうも」
「メアリーが持っていた、『シャンプー』や『化粧品』についても収穫でした、あれらについても後日しっかり教えていただきますよ!?」
「時間はたっぷりあります。ゆっくり楽しんでください。」
この日は、王妃と侍女と異世界人と言う変な組み合わせでお酒を飲んで夜が更けた。




