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共犯者との策略

「じゃあ、メアリー、夕食を作ってくれ。チコにも厨房の使い方を教えてくれ」

「はい、コーテー様分かりました」


メアリーは意図を理解したみたいで、ニッコリした。


食材はまだ十分たくさんあるし、厨房の使い方はメアリーに任せておけば大丈夫だろう。


「王妃様、勇者くん、少しお茶でもしましょうか」


王妃と勇者を客間に呼び、テーブルの上にお茶を出して見せた。


「魔法ですか」


王妃が驚いていた。

それもそのはず。

コーテーは、ポンコツ勇者で全属性適性なしと出たはずだったのだから。


「確かに、全属性魔法の適性はないようです。そもそも、適性と言うのは『精霊がどれだけ助けてくれるか』という事ですよね」

「確かに、そうですね。魔法を使う上で精霊の手助けは必須ですから」


「メアリーは火の精霊の加護があるみたいでしたが、王妃様も火ですか?」

「私は地の加護をいただいています」


「理由は追々お話しますが、俺は地水火風、そして、光と闇の加護があります」

「なんですって!そんな人間がいるはずない!」


目の前のグラスに水を注ぎ、火で温め、花を一凛挿し、目の前でその花を咲かせ、風を吹かせ、水と花を空中に巻き上げた。

花はテーブルの上に落ち、花弁は散ったが、それを再度花に戻し、つぼみの状態まで戻して見せた。


「き、奇跡です・・・」


「これは言っていいのか・・・森のダンジョンはコーテーさんに助けてもらってます」

「ばかっ!それは言わなくていいことだろ!」


時すでに遅し、アドバイスしていたことが王妃にバレてしまった。


「何てこと・・・我々は選択を間違えたんじゃ・・・」

「いや、今のままで正解です。俺は王都のために働いたりしません」


「では・・・」

「俺は、何もせずに緩い生活が続くことだけを考えています」


「え?でも、それだけの力があったら国を亡ぼすことも出来るのでは・・・」

「そんなことしても、幸せにはなれません」


王妃はきょとんとしていた。


「俺は、好きなことをして過ごせる時間がほしい。そして、横にはメアリーがいてほしい」


王妃が少し呆れた様に微笑み言った。


「そのためには魔王にもなる、と」

「そりゃあ、魔王って仕事はないですからね。なっても良いです」


メアリーは微笑んでいる。

コーテーのことをよく理解しているのだろう。


「王様基準で正義を語れば、魔王は悪でしょう。でも、王以外の基準で正義を考えたら王は悪です」

「なるほど・・・そして、既に私は共犯者と言うわけですね」


「王妃と言うより、『王妃たち』ですね。メアリーも勇者くんもチコも既に巻き込んでしまいました」

「思った以上に策士ですね。まさに魔王と言っていいでしょう」


恨みがましい目で少し睨みながら王妃はコーテーを見ながら続けた。


「最終的な終焉はどのようなものをお望みですか?」

「魔王なんて存在しない。いもしない魔王のために異世界から人間を拉致するような異常政治だ。魔王を勇者くんに倒してもらう」


「そして、その魔王と勇者様が共犯なのですから、いつでも実現できるというわけですか」

「その通りです」


「万が一、本当の魔王が誕生してしまったら?」

「俺達の生活を脅かす様だったら俺が倒します」


「その『俺たち』の中に、私やメアリーは入れてもらえるのかしら?」

「そりゃあ、メアリーは嫁だし、王妃様はそのお母さんだ。陛下もお父さんですから入っていると思ってますよ。世界なんて救えないけど、身近な人くらいは幸せにしたいと思ってます」


「それを聞いて、安心しました。喜んでその策略に乗らせていただきましょう」

「そういう意味では、ボクは既に共犯者で、その恩恵に与っていると言えますね」


勇者くんも乗っかってくれた


「とりあえず、1週間程度は城の中は混乱します。この屋敷に遣いが来る可能性は低いです。ゆっくり過ごしてください」

「「ありがとうございます」」


■メアリーとチコの料理

「なんですかー!?ここ!!かまどもなくなってるし、料理も何も出来ないじゃないですか!」


チコが大騒ぎだ。

うーん、以前一度このキッチンを見ているし、使っているはずだけど、幻術魔法で違うように覚えているのか、忘れてしまっているのか、どうなっているのか・・・そっとしておこうと思うメアリーだった。


「えっと・・・、コーテー様が魔法具を準備してくださって・・・使い方は覚えてもらうとして、今日はわたくしのサポートをお願いします」

「そういうことなんですか、何だか、私の知る台所と全く違うので、取り乱してしまいました・・・」


「わたくしも同じです。ようやく慣れてきたくらいですので、一緒に覚えていきましょう」

「そうなの、それにしても・・・」


チコは、額の汗をぬぐうようなしぐさをしながら言った。


「全く見たこともない厨房機器だけを使って料理しろだなんて、あなたのご主人様は酷なことをなさるのね」

「全てが簡単に使えるようになっていてね!全てはわたくしの事を思ってそうしてくださったの!」


「私たちが食べたこともないメニューを作れだなんて、メアリー追い詰められていない?」

「すごくおいしいメニューなの!」


「こんな広いお屋敷を一人で全部屋面倒を見させるなんて、メアリーをつぶすきかしら!?」

「掃除は簡単になる魔道具を作ってくださって、空いた時間はわたくしと一緒に散歩に行ってくださるの!」


「それから・・・」

「コーテー様はわたくしのことをすごく大切にしてくれていて、愛してくださっています!なんでわからないのーっ!!」


両手をバタバタさせながら必死に反論するメアリーのことをニコニコしながらチコは見ていた。


「冗談ですよ。メアリー愛されているのね。安心したわ。」

「もー!チコはそうやって、いつもわたくしのことをからかって!!」


「ご主人様が、本当の旦那様になるんですって!?」

「え、いや、それは・・その・・・」


もじもじして髪を触るメアリー。


「いいなぁ、勇者様なんでしょう?お屋敷はあるし、お城からお給金も出るし、安泰よね~」

「もー、やめてよー」


メアリーが照れて、その辺りの物を片っ端からねじねじさせて、使い物にならなくしてしまった。


「・・・」やりすぎたかなと少し反省するチコだった。



「あ!いけない!早く料理に取りかからないと!」

「で、今日は何のメニューにするの?」


「そうねぇ、早く出来るようにグリル物を考えていたのですが、なぜかねじねじになったパスタが大量にあるので、グラタンにしましょうか」

「(グリルってなにー!?そのねじねじは、さっきメアリーがねじねじにしちゃったやつ!グラタンってなにー!?どこからツッコんだらいいのーー!!)」


チコは、同じ使用人として少し遅れを取っているのではと感じた。


「とりあえず、パスタを茹でます。お湯を沸かすのですが、今日は急ぐので瞬間湯沸かし器のお湯を使います」

「(瞬間湯沸かし器ー!?なぜ水が出ているの!?汲みに行かなくていいの!?いえ、水と思ったらお湯ー!?)」


「寸胴にお湯を溜めたら、コンロのつまみをひねると、火が点くの」


『ボッ』と言う音共に、寸胴の下からコンロが加熱する。


「(なにこれ!?魔法!?魔法なの!?いま、メアリーってば詠唱なしに火をつけた!?)」


「これでも、沸騰するのにはちょっと時間がかかるから・・・よっと」


メアリーが人差し指で合図をすると、さっきまで湯気が出る程度のお湯がいきなり沸騰した。

サラ(火の精霊王)と仲良くなることで、メアリーの魔法も強化されていて、お湯を沸かすのにも便利だと数日前に気づいたのだった。


「(どうゆうこと!?どうゆうこと!?ようゆうこと!?)」


台所にいるのに、いま目の前で何が起きているのか理解が追い付かないチコは、同じ使用人としてだいぶ遅れを取っているのではと感じた。


「グラタンだから、お野菜・・・ほうれん草と、鮭にしようかな、それぞれをカット、と」


材料を冷蔵庫から取り出し、物の数分でほうれん草と鮭の切り身をカットした。


「(ちょっと待って!?箱から新鮮な野菜と生のお魚が出てきたわよ!?厨房にお野菜や生のお魚を置くなんてすぐにダメになってしまうんじゃないの!?)」


「ホワイトソースは、缶詰を使わせていただきましょうかね」


つまみを引くだけで開くタイプの缶詰なので、開ければ終わりだ。

メアリーは、既に、カットしたほうれん草と鮭の切り身を炒めている。

そこにホワイトソースを投入した。


「(なに!?なんなのあれ!?お野菜とお魚は分かる。鍋に直接入れなかった!?あんな調理法は習ったことがない!その後に入れた白いのはミルク!?なに!?何ができるの!?)」


グラタン皿に野菜と鮭を絡めて味を調えたホワイトソースを入れ、表面にチーズを散らしていくメアリー。

その後、オーブンで表面に焦げ目をつけて完成だ。

今日は急ぎなので、大皿料理として、提供時に取り分けることとした。


パンはバケットをカットして、トースターで焼いて終わり。

サラダは新鮮な生野菜とドレッシング、スープはインスタントだからお湯を注ぐだけ。


「かんせーい!さあ、チコ、食堂に運ぶのを手伝って!」


チコは、同じ使用人として完全に遅れを取っているのではと感じた。

見ているだけと言われたけれど、見ていても何も分からなかった。

スープに至っては、粉にお湯を注いだだけにしか見えなかった。

でも、確実にスープの匂いがする。

ちょっともう、考えても追いつかないな、と膝から崩れ地面で絶望に暮れていた。


「チコ!そんなとこで寝てないで運ぶの手伝ってってば!」

「はーいー」


口からエクトプラズムでも出ているかのような、返事がチコの口から出た。


たった30分で、5人分の食事を1人で準備してしまったメアリーの料理は、その後、王妃が大絶賛。

勇者くんは、「懐かしい!おいしい!」と。

チコは、余りにも常識はずれな作り方に、このことを言っていいのか分からなくなっているが、料理はおいしくて手が止まらないという、チコ自身も理解できない状況に陥った。


ちなみに、この日は王妃がいるので、王妃、勇者くん、コーテー、の3人が先に食事をして、チコとメアリーは給仕に徹した。

ふたりは、その後食事をとり、王妃にストレスがかからないようにした。


ただ、娘との会話の時間他のために、その後おつまみを準備して、みんなでお酒を楽しむことにした。


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