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お茶会の続き

コーテーはめまいがしたのを感じた。


『今のは・・・王妃の記憶か?』

『そうだよ、お兄ちゃん。一応必要そうなところだけ端折ったけど、10年分くらいの感情とか、考えとか、体験をお兄ちゃんの頭に送ったからちょっと辛かったかも』


『ああ、そっちは、大丈夫だ。』


そっちは、と言うのは頭の話。

王妃の記憶を読んだのは大変な苦痛だった。


借金のかたに王に嫁いだこと。

城内に居場所がなく、孤独だったこと。

娘を失った絶望。

取り返したけれど、もう元には戻せない罪悪感。

人の複雑な感情が流れ込んできたのだ。


王妃の行動が正しいかと言えば分からない。

ただ、人は正しいか、正しくないかだけでは動かないのは分かる。


ただ、会いたかったのか、メアリーに。

それで、自分の娘だと明かしたけれど、これからどうしたいのか分からないでいる・・・そんなところか。


「コーテー様、大丈夫ですか?」

「ああ、ありがとう、大丈夫だ」


コーテーは王妃に話し始めた。


「王妃、あなたのことは少しわかった。少しは記憶を見せてもらった。」

「記憶を・・・?」


「メアリーはあなたの娘かもしれないが、今は俺の婚約者だ。」

「メアリーは、本当に私の・・・」


「この城にマリアとしてのメアリーの居場所はない。」


王妃の発言を遮るようにコーテーが言った一言で、王妃には伝わった。


「まさか本当に記憶を・・・?」

「ああ、悪いけど。メアリーの居場所は城の中にはない。あの時のあなたの様に」


「!!」


「メアリーは責任もって俺が幸せにする。好きな時に屋敷に会いに来たらいい」

「あなたには何ができるの?大事な娘を任せるのだもの、それなりの人でないと」


そこで、メアリーが立ち上がって言い始めた。


「王妃様、いえ、お母さま。コーテー様は私の傷を治してくれました!体の傷だけじゃなくて、心の傷も!すごく良くしてくださっています!」


確かに、目の前のメアリーには傷一つない。

そして、その笑顔は以前の物とは違う。

あの屋敷に出してから、メアリーは変わった。

その変化は良いものだと分かる。


メアリーが幸せに暮らせるのならば、娘に会えなくなることくらい耐えられる。

でも、王国の力は大きい。

いくら勇者様でも一人で対抗できるとは思えない。


ここでコーテーが森で討伐したモンスターをストレージから取り出し始めた。

城の庭なので広大だ。

トロールクラスを30体出したあたりで王妃が折れた。


「あなたの強さは分かりました。森でモンスターに襲われてもこの子を守ってくれるでしょう」

「約束しますよ」


「それで、メアリーに執着する理由は何ですか?」

「そんなの簡単ですよ。こんなにいい子は他にいない。俺のすべてで戦って取り戻します。」


「・・・いいでしょう。」


メアリーは真っ赤だけど、今は照れていて良いタイミングなのだろうか?


「ただし条件が2つあります。」

「条件?しかも、2つも!?」


■2つの条件

「メアリーを嫁がせるためには2つの条件があります。」


コーテーは条件を聞くことにした。

どちらにしても、叶えるしか選択肢はないのだが。


「時々娘に会わせてください」

「そうですね。盆、正月には里帰りさせますよ」


「ぼん、しょうがつ、とはどれくらいの期間ですか?」


そうか、異世界には盆も正月もないのかも。


「3~4か月ごとくらいで。それ以外でもいつでも会いたいときに」

「それならば・・・」


「こっちからは『お願い』がある」

「なんでしょう」


「情報がほしい」

「情報?」


「異世界人の俺からしたら、こっちの世界の人は何を考えているか分からないところがある」

「なるほど、それで情報を・・・」


「メアリー経由でいい、そしたら王妃様もメアリーに会えるし、俺も会わせないと情報をもらえない」

「交渉が上手ですね。私の『条件』を満たすためにも『お願い』を聞く必要がある・・・分かりました。この国が不利になる情報以外なら出しましょう」


「不利になる情報かどうかは分からないけど、まずは、1つだけ知りたい」

「いいでしょう」


「なぜ、城は勇者を召喚した?差し迫った危機があるようには思えなかった。森に出現したモンスターなんかも、勇者召喚後に出てきた情報だろ?」

「色々ご存知のようですね。いいでしょう。あなたのことでもある訳ですからね」


「もうじき魔王が誕生します。そして、城に大きな危害を加える可能性がある。だから、その前に勇者様を召喚して対抗できるようにしないといけません」

「『魔王』?」


「この世を滅ぼす存在と言われています」

「『言われている』ってことは見たことがないのか」


「予言ではまだこの世には存在していないはず。」

「予言なのか・・・」


勇者くんもそんな訳の分からない存在のために、修行させられているのか・・・

同情するなぁ。


「もう一つ条件があります。」

「2つ目か、2つ目は何ですか?」


「しばらくはメアリーと一緒にいられる時間を作ってほしいです」

「どんな風に?」


「そこは任せます」


肝心なところを丸投げかよ!


「せっかく会えた娘です。そしてやっと向き合えた。なのに、数か月に1度しか会えないのでは私の気がすみません」

「確かに・・・」


「それに、メアリーの新しい生活を実際に私の目で見て確かめたい」


ああ、そうか、『王妃』としての条件と言うより、単なる『お母さん』としての希望か・・・


「わかった、叶えよう。勇者くんとチコをここに連れてきてほしい」

「勇者様とチコを?」


「そ、今日から1週間、合法的にメアリーと一緒に暮らすことができるようにできますよ」


それを聞くと、王妃は近くの侍女を呼び寄せ、勇者とチコを呼び寄せた。


庭には本物勇者とポンコツ勇者、王妃、メアリーとチコと言う何とも訳の分からない集まりができた。


「あ、コーテーさん、こんにちは!」

「あ、勇者くん、おつかれ」


すっかり勇者とは変な関係が築かれてしまっている。


「メアリー!」

「チコー!」


ここも何か抱き合って再会を喜んでいる。


「じゃあ、始めようかな」

「王妃様とメアリーの時間を作り、王妃様がメアリーの生活を見れて、ついでに、勇者くんに有給を作る」


「ゆうきゅうって何ですか?」


勇者くんは16歳だったか・・・有給って言葉が通じないか。

知らないっていうか、実感がないんだろうな。


「合法的にお休みってこと」

「そんなことできるんですか!?」


「ついでのついでに、メアリーとチコの時間も作る」

「コーテー様!嬉しいです。でも、どうやって・・・」


うーん、とりあえず、見た目からかな。


『ほんとにやるの?こんな穴だらけの計画!』

『たのむ!』

『細かいところはお姉ちゃんが何とかしてあげるわね!』

『またこいつ変な事考えたわよ!』

『私・・・協力する・・・』


何か色々あったけど、協力は得られるみたいだ。


さっきまで白地に所々黄色の入ったスーツだったが、がらりと変わって、全身真っ黒のスーツになった。

背中には、大きな黒い羽が生えている。

髪は元々黒いので、そのまんま。


「あ、ちょっとその辺りに雷を落とすから、みんなこっちに集まって!」

「「「え?雷?」」」


コーテーの言葉をトリガーに、晴れていた空はおどろおどろしい真っ黒な雲に覆われた。

そして、先ほどまでコーテー達がいた東屋に大きな雷が直撃し、建物は大破した。



■勇者、魔王になる

雷は続いていて、城の庭に置いてあるオブジェなどを次々破壊していった。

当然、城からは人が集まってきた。


「だ、大丈夫なんですか?コーテー様、なんか人が続々と集まってきていますけど・・・」


メアリーは不安そうだ。


「大丈夫だよ。そろそろいいかな」


コーテーは5メートルほど空中に浮かび上がると黒い羽を大きく広げた。


「我こそは魔王なり!」


城中に響くよう声を拡声している。


「確かに全身真っ黒で、黒い羽・・・まさに魔王だ!」

「魔王だ!ついに魔王が現れたぞ!」

「陛下と騎士団に報告だ!!」


良い具合に騒ぎ始めてくれたので、コーテーは続けた。


「王よ!お前の大事な人間を連れて行ってくれるわ!」


王妃やメアリー達が空中に浮き始めた。


「え!?ええ!浮いてる!」

「ちょ!コーテー様!?」


ちなみに、メアリー達の声は城の人間に聞こえないようになってる。


庭に集まってきた侍女たちや、騎士団たちは何が起こったのか理解できないようだった。

そりゃあそうだろう。

今考えて、今実行しているし。


騎士団なんかも集まって来たものの、相手は空中に浮いている。

普通の人間がどうすることも出来ないし、槍などを投げようにも王妃が一緒に浮いているのだ。

投げることも出来ず、「降りてこい!」などと叫んでいるだけだ。


「わーはっはっはっはっはー!」


高笑いと共に、空中に浮かせた人間たちを一人ずつ消していく。

さすがに王は来ないだろう。

SP的な人に守られているはず。


城の多くの人に目撃されればOKなので、問題はない。


「さらばだー!」


そう言い残すと、コーテーの姿は消え、空はからりと晴れた。


もちろん、全員瞬間移動させただけで、移動先はいつもの屋敷だ。

イスス村の屋敷のエントランスには、王妃、勇者、チコ、そして、メアリーとコーテーがいる状態。


コーテー以外はあっけにとられている。

状況は理解できないようだ。


コーテーが口を開いた。


「ようこそ、我が屋敷へ。約1週間のバカンスをお楽しみください。」


そこで、何人かが「はっ」とした。

一番にメアリーが気付いた。


「ようこそいらっしゃいました。我がお屋敷へ。歓迎いたします」


完璧なカーテーシー(両手でスカートの裾を軽く持ち上げる挨拶)で迎えた。


「あなたは、魔王となって私たちを誘拐したという事ですか!?」

「そうなりますね」


王妃の質問に対して、コーテーはやすやすと答えた。


「誘拐した目的は何ですか!?」

「城に対してはどうしましょう?これから考えます。真の目的は、王妃様を城から合法的に連れ出すことです」


「まさか・・・メアリーとの時間って・・・」

「そうですね、今まさにスタートしました。1週間と言わず、好きなだけ過ごされてください」


確かに、城中に響く声や、晴れた空を急に曇らせての雷、人を空中に浮かせて消すなどは魔王と言っていいだろう。


「でも、魔王に王妃が連れ去られたら、城に戻ったとしても慰み者になったと思われ、元に戻ることはできません!」

「そうかもしれませんね、だから勇者くんを連れてきました」


「あ!勇者様が悪い魔王から王妃様を守り、城に連れ帰るのですね!」

「さすがメアリー!賢いね!」


コーテーがパチンと指を鳴らしながら言った。


「えへへ、褒められてしまいました」


メアリーが嬉しそうだ。


「ついでに、勇者くんはまた一つ功績が増える。王妃を魔王から守り、城に連れ戻すわけだから」


「あのー、私は何をしたらいいのでしょうか?」


チコが不安そうに申し出た。


「チコは・・・とりあえず王妃様の身の回りのことを・・・あとは、休憩の時に私とお茶を」


さすがメアリー、分かってる。


「つまり、誘拐を偽装して、私たちに時間を作った、と」

「そういうことになりますね」


「そんなことをしたら、全力で城が攻めてきますよ!?」

「まあ、まだ魔王がどこのだれか分からないでしょう。それに何かあったら・・・」


「あったら?」

「その時は戦争しましょう!」


「そんな気軽な・・・」


あきれる王妃。

ただ、コーテーは考えた。

戦争するような相手だ。


月一で攻めてきたりはしないのだ。

つまり、城からの干渉が減る。

異世界ニートライフがより強固なものになるのだ。


しかも、戦争の矢面に立つであろう勇者くんは強引に味方につけた。

共犯者とも言うが。

いつ戦争を始めるか、いつ攻めてくるかなどの情報は、トップに近い王妃からもらえばいい。

こっちには、娘であるメアリーがいるんだ。

本気で情報を出してくれるだろう。


2000アクセスを超えました。

ありがとうございます!

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