大切なものは失ってから大切さがわかる
屋敷に帰ると静かだった。
元々人間は、コーテーとメアリーしか住んでいない。
コーテーが外出中だったので、メアリー一人の時は屋敷の中は実に静かだった。
だが、コーテーが帰ったときは、何をしていても、メアリーが迎えに出てきていたのだ。
ところが、今日に限ってそれがない。
気付かないという事はもはやないのだ。
精霊王の気配を感知できるようになってきたメアリーにとって、精霊王を6人も連れて歩いているコーテーは方角だけなら数キロ先からでもその位置が感知できるようになっていた。
屋敷に帰ってきたのだから、それに気づかないはずがないのだ。
「メアリー?かえったよー?」
昨日もへべれけになって寝てしまったことを恥じて隠れているのかもしれないと思い、コーテーは屋敷中を探した。
ところが、どこにもいない様なのだった。
「これは面倒なことになっちゃったみたいね~」
「グノーム、何か分かるか?」
「メアリーちゃん連れていかれてるわね」
「どっ、どこに!?」
「うーん、どこかと言えば、お城ね・・・」
「城!?」
「あんた、心当たりは!?」
「・・・心当たりしかない」
「私もあのわんこちゃん好きだしねぇ」
「よし!助け出しに行くか!」
「わ、私はあんたに言われなくても行くわよ!?」
メアリーを連れ去ったのが城の誰かは知らん。
ただ、向こうはこっちの屋敷の場所なんかは知り尽くしている。
むしろ、王様の屋敷だし。
そして、メアリーを奪って行ったという事は・・・戦争じゃぁ!
「お兄ちゃん、ちょっと待って」
「どうしたルミニス、冷静に」
「お兄ちゃんのその勢いで行ったら、王都どころかこの世界が滅んじゃうよ?」
「確かに・・・」
「こんな時こそ冷静に、作戦を立ててから行った方がいいと思うんだ。」
「ルミニス・・・ボクっ子半ズボン金髪ショートなのに、見た目に反して大人だな」
「お兄ちゃん時々失礼だよね(^^)」
食堂で作戦会議をすることにした。
仮にメアリーを殺すことが目的だとしたら、屋敷から連れ去ったりせず、その場で殺しているだろう。
ただ、何らかの情報のために誘拐されたとしたら、拷問くらいは受けている可能性がある。
いずれにしても、作戦だけはまとめて早めに出陣した方がよさそうだ。
誘拐したのは城の誰か。
そして、目的は・・・目的だけは誘拐した本人に聞かないと分からないな。
奪還するだけなら、それほど大変ではないだろう。
メアリーを見つけて、奪還する。
邪魔するものは全てせん滅する。
たとえそれが、王様だったとしても、だ。
・・・それでも国の頭が不在になると国が混乱するだろう。
知らない人だが、知らないところでも自分が原因で人が死ぬのは寝覚めが悪い。
まず、敵を明確にする。
王なのか、王妃なのか、それ以外か。
城で一番強いのは、恐らく勇者くんだろう。
彼は同郷として戦うのは気が引ける。
敵の頭をつぶさないようにする場合、メアリーを連れ帰っても再度誘拐されてしまうかもしれない。
ヘタしたら、報復でメアリーが殺されてしまうかもしれない。
二度とこんなことをしないように完膚なきまでに、徹底的に、余すところなく、すみずみまで、根本的に屈服させる必要があるな。
「コーちゃんがどんなことを考えているかは大体わかったわぁ」
精霊王が相談相手だと色々話さなくていいから、ある意味便利だ。
「城までは瞬間移動で行くだろうから、風のお姉ちゃんは要ると思うんだけど、『敵』と対峙するなら光のボクも手伝わせてよ」
瞬間移動はシルフの効果だったのか。
いつも助けてもらっている。
「手伝うって?全員連れて行くけど?」
「そうなんだけど・・・言うならば合体?この間の変なのと戦ったときは全員合体だったけど、今度は、お兄ちゃんと風のお姉ちゃんとボクの3人合体」
「他は?」
「お休み。一緒には行くけど、リビングで休んでいるみたいな」
「なるほど、シルフはいいのか?」
「お姉ちゃんはねぇ、コーちゃんと一緒ならどこにでも」
「よし、決まりだな。合体ってどうしたらいいんだ?」
「ん、別にいつも通りでいいんだけど」
「いや、それでは気が引き締まらない。掛け声を決めたい」
「いいよ」
「いいわよ」
「「「フュージョン!」」」
合体と言えば、これだろう。
掛け声は頭で考えれば、2人には伝わる。
わざわざ言う必要はなかった。
以前の7人合体の時は、自分の姿なんて気にしなかったけど、今回の3人合体は、髪は白、服は白と黄色のイメージになっていた。
スーツみたいな服装だけど、ベースは白だからまだよかった。
黄色がベースだったらお笑い芸人みたいになっていただろう。
白いマントも付いていて、これだと優雅に奪還に行かないとな、イメージ的に。
よし、どんな最悪な状況でも取り乱さないようにしよう。
「行くぞ!」
「「はい」」
コーテーはマントをひらりと翻した。
次の瞬間には城の入り口にいた。
ここまでくるとメアリーの居場所は探知できる。
誰かが手を貸してくれているのだろう探索魔法だと思う。
地下牢には・・・いない。
元々のメアリーの部屋・・・にもいない。
白の中を探索すると・・・いた、庭だ。
庭の東屋か!?
いるのは、メアリーと・・・もう一人、人間だ。
行ってみるか。
ただ、行ったことがない場所なので、瞬間移動はできない。
しかも、一般人であるコーテーは城に正面から行っても入れてもらえないだろう。
そう考えると、背中から大きく白い羽が生え、大空に舞った。
コーテーは、鶴や鷹の様に羽を大きく広げて、優雅に東屋に舞い降りた。
東屋にいたのは、メアリーと・・・王妃だった。
椅子に座って2人でお茶を飲んでいたようだ。
「コーテー様!」
叫んで立ち上がったのはメアリーだ。
メアリーは、メイド服ではなく、ドレスを着ている。
コーテーは、どういう状況か理解できないでいた。
王妃も立ち上がり、メアリーの前に立ちはだかり、メアリーの動きを制した。
「王妃様、あなたが俺の敵という事ですか?」
「誰であろうとメアリーに手を出す者は許しません」
コーテーは、王が敵の首謀者だと思っていた。
もしかしたら、王妃がメアリーを誘拐したのか!?
「王妃様・・・いえ、お母様!違うんです!コーテー様は!」
メアリーが、訳の分からないことを言い始めた。
王妃が、メアリーの・・・お母様?
これは話を聞かないといけないようだと、心のファイティングポーズを解くと、王妃も少し警戒を解いたようだった。
「話を聞かせてもらえますか?」
王妃はメアリーに視線を送り、2人でコクリと合図を送り合って座った。
促されて、コーテーも東屋に準備された椅子に腰かけた。
王妃が手を挙げると、遠くから侍女が来てコーテーにお茶を淹れ、冷めてしまった王妃とメアリーのお茶も淹れ直していった。
「さて、あなたはもう一人の勇者様・・・ですか?」
そういえば、服装はともかく、髪の色が白くて羽が生えている。
変身を解いて元の姿に戻って見せた。
王妃はすごく驚いていたが、剣と魔法の世界だそんなこともあるのだろう。
声を出して驚くほどではなかった。
「もしかして、メアリーの痣と傷を治したのも・・・」
「コーテー様です!」
自慢げにメアリーが答えた。
「やはり・・・」
王妃が立ち上がり、コーテーに頭を下げた。
ゆっくりと頭を戻し、言った。
「私の娘を・・・ありがとう」
相手は勇者とはいえ、どこの馬の骨とも分からない平民だ。
王妃が頭を下げると言うのはよほどのことなのだろう。
「でも、どうして・・・どうやって」
「おそらく魔法でしょう・・・詳しくは俺にも分からない」
「それにしてはさっきの羽と言い・・・」
精霊王のことを城の人間に知らせるのは悪手だろう。
「俺には協力者がいるんだ」
「そうですか・・・まあ、いいでしょう」
「あなたの目的は?ここまで来たのです。目的があるのでしょう」
「メアリーを返してもらいたい」
「メアリーは私の娘であり、城内では侍女という事になっています」
確かに、メアリーはもらったわけではなく、城からあてがわれた侍女なだけだ。
王妃が言っていることが本当なら王妃の方が筋が通っている。
「・・・」
しまった、よく考えたら、いろいろ事情はあるみたいだけど、本当の親である王妃から娘を取り上げる悪いやつじゃないのか。
『お兄ちゃん、あの人の考えを読む?』
急にルミニスが話しかけてきた。
『そんなことができるのか?』
『うん、ボクはもう見ちゃったから、お兄ちゃんにも一部を見せるよ』
■王妃の記憶
私が15歳の時のことだ。
まだ幼かったメアリーは誘拐された。
政略結婚だった。
借金を抱えたお父様の領土借金を帳消しにする条件として国に嫁いだ。
当時まだ王城の生活に慣れていなかった。
頼れる人もおらず、味方もおらず、城でたった一人・・・
陛下との間に子供はでき、最低限のお役目は果たせたと思った。
子供が生まれた後、城中の人から関心をなくされた。
陛下からも・・・
子供は大事にされたが私の存在はひどく薄いものとなった・・・
子供と会えるのも数日に1度、陛下とお会いできることはほとんどなくなった。
この時私の人生は終わったと思った。
娘が10歳になった頃だった。
ほとんど会わせてもらえないので、愛情の持ち方が分からないでいた。
娘を抱きしめたこともなかった。
そんな頃、娘が誘拐された。
盗賊団になのか、モンスターになのかはわからない。
だけど、朝起きたら部屋にいなかったそうだ。
子供が誘拐されてからは城中の同情が集まるようになった。
陛下からの寵愛も・・・
子供には悪いと思ったけれど、自分の居場所ができた。
城の中で生きてもいいのだと思った。
数年後たまたま視察で行った町の奴隷商でメアリーを見つけた。
この子は自分の娘だと直感した。
ほとんど会わせてもらえなかった娘。
だけど、自分の娘だと分かったのだ。
ただ、美しかった娘は全身に傷と痣があり、記憶はなかった。
この子の本当の名前はマリア。
自分の名前すら忘れていた。
この子はメアリーになっていた。
よほど辛いことがあったのだろう。
この子を自分の子だと証明する方法はない。
だけど、このままにしておくことはできなかった。
仮に娘でなくてもよかった。
贖罪の気持ちもあったのかもしれない。
この子を城に連れ帰り、侍女にした。
可愛がりたいという気持ちもある、大切にしたいという気持ちもある。
だけど、全身の傷や痣を見ると罪悪感に苛まれる。
遠ざけることも出来ず、近づくことも出来ない、そんな時が何年も続いた。
そんな時、勇者様の軟禁の話がでた。
国にとって役に立たない勇者様を遠方の村の屋敷で飼い殺す計画。
村も過ごしやすくて、勇者様の世話の仕事もそれほど大変ではない。
色々と駆け引きやつき合いがある城内にいるよりは幸せになれるかもしれない。
万が一ダメだったら城に連れ戻せばいいだけ。
奇跡が起きた。
様子見に行かせた侍女、チコの話ではメアリーの傷や痣が完全になくなったのだとか。
会いたい。
娘との付き合い方も決着がつかないでいたこの数年を埋められるかもしれない。
半ば強引に屋敷に遣いを出した。
チコに言って連れてきてもらった。
一目見て分かった。
やっぱりこの子は私の娘。
顔なんかも私の若いころそっくり。
分からないのはなぜ急に傷や痣がなくなったのか。
神様の奇跡かもしれない。
ただ、困ったことは一つ。
娘が誘拐されてから城は影武者を立ててしまった。
王の娘が誘拐されるなんてあってはならないこと。
妾の子をマリアとして育ててしまっている。
今更本当のマリアが見つかっても、戻すことはできない。
少なくとも私の力では・・・
陛下にも結局、メアリーのことは伝えられていない。
ただ、会いたい。
もう一度会いたい。
娘に会いたい・・・




