でかいクマのぬいぐるみ
また勇者くんの部屋に行ったところで、勇者くんが部屋にいなかった。
城の人に聞く訳にはいかないので、しょうがないから、こっそりチコに聞いた。
めちゃくちゃ驚いていたけど、認識阻害が使えるので城に忍び込むこと自体は簡単だ。
ただ、話を聞くために人に話しかけたらバレるから誰にでも聞くことはできなかった。
チコによると、勇者くんはモンスター討伐でケガをしていて、療養中とのこと。
話も聞きたいし、勇者くんの所に行ってみることにした。
教会と病院の中間みたいなとこで、治療と祈祷を合わせたみたいな施術をされているらしい。
たしかに、教会の大広間っぽいところのど真ん中に大きな魔方陣が描かれていて、中心のベッドに寝かされていた。
しかも、魔法陣の外8方向から術者的な人が祝詞みたいなのを上げている。
勇者くんは意識があるみたいで、眉間にしわを寄せている。
かなり痛いみたいだ。
認識阻害をかけて勇者くんのベッドに近づく。
「ルミニス、治癒って出来るかな?」
認識阻害が効いているとは知っているけど、小さい声で聴いた。
「腕の骨が折れてるね。あといくつか内蔵を痛めてるみたい」
「重症じゃないか」
「うん、大丈夫だよ」
目立たないように治癒してもらった。
「勇者くん、大丈夫?」
「あ、あれ?痛くない・・・」
「気づいた?」
「わあ!コーテーさん!」
「しー!認識阻害してるから、目立たなければ誰にも見つからないんだ」
人差し指で「しー」のポーズで言った。
「ちょっと話が聞きたいから、起き上がって、もう大丈夫だ的な事を言って解散させてもらえるかな?明日もう一度来るから、話を聞かせてよ」
「わかりました。これ奇跡ですか!?」
「いや、ただの治癒魔法だよ」
「明日詳しく教えてください」
「了解」
・・・
翌日、勇者くんの部屋には、割とたくさん人がいた。
確かに、昨日まで起き上がれなかったのに、急に起き上がってもみんな心配だろうからなぁ。
こっそり着いたことを伝えて、人払いしてもらった。
「やあ、勇者くん、もう身体は大丈夫?」
「はい、ありがとうございます。不思議なほど平気です。奇跡だったんですか?」
「まあ、ある意味奇跡かな。治癒魔法が得意な人がいるんだよ」
「コーテーさんじゃなかったんですね。俺のことは知ってるだろ?無属性のポンコツだから」
「コーテーさんがポンコツなはずないですよ!前の討伐では助けてもらったし!」
「まあ、人に恵まれただけだよ」
「昨日も大変でした。僕が予定外に全快したんで、奇跡だ奇跡だと」
「大変な部分を背負ってもらってて悪いね」
「こちらこそ、死にそうなところを助けてもらって」
「そこまで重症じゃなかったろ」
「あのままだったら、6日後に死んでたよ」
横からルミニスが教えてくれた。
聞かなかったことにしよう。
どうせ、勇者くんには聞こえていないんだ。
「で、何があったの?」
テーブルの勇者くんの向かいの椅子に座らせてもらった。
「レベル10のトロールでした。」
勇者くんは、左右の手の指を絡ませていて、親指をくねくねと持て余していた。
「勇者くんはレベル18だよね?楽勝まではいわないまでも、十分な強さだったんじゃないの?」
「油断・・・だったのかもしれません。」
勇者くんは下を向いてしまった。
「不謹慎かもしれませんが、僕は嬉しかったんです」
「嬉しかった?」
「はい、僕の力が必要とされている。そして、僕にはその素質があった。思い上がりかもしれないけど、できることをしたかったんです」
「・・・」
「でも、あいつは、そんな僕の思い上がりを打ち壊したんです」
「打ち壊した・・・」
「最初は、トロールでした。練習で何度も倒したトロールでした」
「うん」
「第一刀で左腕を切り落とせました」
「神剣アスカロンは持って行かなかったのかい?」
「持っていきました。でも、近づいても消えなかったから、騎士団と連携して討伐することにしました。それで、僕が第一刀を・・・」
神剣アスカロンがあれば、勇者くんでもレベル18までのモンスターなら近づくだけで消滅する。
「ほんの数秒の間でした。トロールの身体が光ったと思ったら、2メートルくらいのトロールは4メートルになって襲ってきたんです」
「4メートル!?いきなり!?2階建ての建物の高さ!?」
「はい、その後は、殴られるみたいに・・・騎士団は1/3が死にました・・・僕が気を抜いたから・・・」
「・・・」
思ったより勇者くんは抱え込んでいるみたいだった。
「勇者くんはまだ16歳だろ。『勇者』なんて言って持ち上げられたんだ。少しくらい調子に乗ってもしょうがないだろ」
「・・・」
「騎士団の方は、ケガはあっても、死なせてしまったのは初めてで・・・」
「俺も『勇者』って看板をきみに背負わせて逃げてる。元々この世界の人だって、きみに丸投げなんだ。難しいかもしれないけど、ある程度割り切らないと、きみが身体をこわすよ」
「はい・・・ありがとうございます。これまで期待されたこと・・・あんまりなかったから・・・できるところまで頑張りたいんです」
「じゃあ、もう少し詳しく情報をもらおうかな。俺はポンコツだけど、優秀な友達がいるし」
「はい・・・」
勇者くんの話を要約すると、こんな感じだった。
全長2メートルのトロールは、身体が光ると数秒で4メートルになって暴れまわったのだと言う。
事前に神官が鑑定魔法でレベルを見たらしい。
レベル10前後と言う鑑定結果・・・シルフの鑑定と一致する。
俺は気になることがあった。
レトロのアニメではそんな敵が出てきたのだ。
最初はたまごで、強い敵を見つけると10秒で解析して、それよりも強い身体になると言うチートな敵。
結局その物語では、強い兵器を見せて10秒以内に倒すというオチだったと思う。
しかも、裏で糸を引いている敵がいたけど、突き止めて倒すというストーリだったはずだ。
俺は早速南の森に行き、探索してみた。
「もう一度、探索してみて。」
「ん、レベル19のトロールが1匹」
「あれぇ?つい数日前までレベル10じゃなかった?」
「もしかして~、シルフが読み間違えちゃったんじゃないのぉ?」
「ん、そんなはずない。しかも、みんなも調べたはず」
「数日でレベル10が19なんて・・・あんたみたいなのが2人も3人もいたら世の中崩壊よ」
「お姉ちゃんにとっては、コーちゃんは一人だけだからねぇ」
「ボク、ちょっと見てこようか?」
「私も・・・興味・・・ある」
「気になることがあるから、遠目に見ていったん帰ろう。作戦会議をして明日以降討伐と言うことで」
「わかったー!」
「ん」
精霊王たちを連れて、森の奥深くに行った。
方向なんかは的確だし、迷いがない分、疲れも最低限で助かる。
例によって、随分遠い位置から長距離射撃用ライフルで狙う。
引き金を引けば終わり・・・と。
「当たったかな?」
「私・・・見てみる・・・」
今日もテネブレは黒いクマのぬいぐるみを持っている。
剣と魔法の異世界で、緊張感がないなぁ。
さすが精霊王。
「あれ?・・・見られた・・」
「みんな!隠れて!」
俺を含めて、全員が一気に屋敷に戻っていた。
「ど、どういうこと?」
全てが一瞬だった。
なにが起こったのか分からなかった。
いつもは冷静で、抑揚がない喋りのシルフが珍しく叫んだ。
次の瞬間は屋敷だった。
「あ、コーテー様お帰りなさいませ。」
メアリーだ。
エントランスで出迎えてくれた。
ご飯でも食べながら、状況把握と対策会議ってことになりそうだな。
食卓に料理が並んでいる。
メアリーの料理だ。
日に日においしそうになっていくな。
今日もメアリー可愛いなぁ。
細いし、背はちっこいし、何より銀髪ロング。
そして、キャラ的にはわんこ。
しかも、酔っぱらったら絡んでくる。
もう最高だ。
「・・・ってお兄ちゃんは今考えてるよ」
「ちょっと、考えている事そのまま言わないでもらえる!?」
「コーテー様、私のことをそんな風に思って!」
メアリーが珍しく顔を真っ赤にしている。
考えていることを暴露されたこっちの方が恥ずかしいよ。
ルミニスはいたずらっ子か。
半ズボンのボクっ子が。
金髪ショートで今度一緒におふろ入っちゃおうかな!
「お・・・お兄ちゃんが、なんかいけないことを想像している!!」
ルミニスが顔を真っ赤にしてどこかに走って行ってしまった。
おーい、ご飯はいいのか。
子供の気を引くと言えばこれだろう。
風船を2つ出した。
ちゃんとヘリウムが入って空中に浮かんでるやつだ。
ルミニスはどこかに行ってしまったので、テネブレに2つとも渡してしまおう。
「ルミニスにも1つあげといて」
「ん・・・分かった・・・・」
「コーテー様・・・さっきのそれ・・・」
後ろから近付いてきたのはメアリーだった。
「な、なんだ・・・」
いつの間にか、四方を囲まれている。
メアリー、グノーム、オンディーヌ、シルフ、サラマンダー、5人だから5方かもしれないけど・・・
「「「「「いまのなに!?浮いているやつー!」」」」」
この世界では魔法もあるし、浮いているものなんて珍しくないと思ったけど・・・
思いのほか人気だったらしい。
これは浮いている風船だけじゃなくて、膨らませる前の物を見せるところからやらないと、みんなを満足させられなさそうだ・・・
食事開始が30分は遅れました・・・
「さて、改めてテネブレ、何があった?」
「トロールは・・・止まってた。弾は・・・当たってた」
「じゃあ、仕留めた?」
「んーん・・・弾は・・・効かなかった」
「これまでのモンスターと違うな」
「ん・・」
「悪いのは・・・ここから・・・」
「ん?何かあるの?」
「トロールを・・・みた」
「うん」
「その後・・・光って・・・トロールが・・・」
「まさか・・・」
「全長・・・20メートルになった」
「はぁ!?20メートル!?6階建てじゃないか!ビルだよ!ビル!」
「テネブレちゃんを見て強さを吸収したのね・・・」
「そして・・・」
「まだあるの!?」
「くまの姿を・・・盗まれた」
「!?どういうこと!?」
「全長・・・20メートルの・・・クマちゃん」
「なにー!?」
テネブレは風船の紐を指にくるくる絡めている。
もしかして、勇者くんの話を聞いたときに俺が思い出した、レトロなアニメのあの敵のことをみんな知っているのか?
それを知ったうえで、話しているような口ぶりだった。
「一瞬だったから、お姉ちゃんも見逃したけど、多分レベルはもう19とかじゃなくて、3桁いってるわね」
「そんなに!?」
「ちょっと!大変じゃない!どうするの!?」
「それを考えるのが今だろう」
「テネブレちゃんは、精霊王だからレベルとかないし、どこまで行ってるのか分からないわね」
「仮にレベル200だとしてさ、俺よりも強いなら、俺が行ったら弱くなってくれないかな?」
「弱い魔物もなにも、みんな狩られてるわね」
「だめかー(><)」
「じゃあ、俺の方が強いとして、その全長20メートルのクマのぬいぐるみをどう倒せと・・・」
アニメではどうしていたのか・・・
全く覚えてない。
地球での記憶が、異世界で役に立つという定石はどこにいったのか・・・
そんなことを考えながら、スマホで検索するがアニメが古すぎて情報がない。
Wiki的なところで調べても、10秒以内に倒した、と。
欲しいのは「結果」ではなく、「方法」だよ!
俺も風船を膨らませながら考えていた。
いろいろ意見は出たけど、確実性が高そうなものはないように感じていた。
風船はどんどん膨らんでいく。
森の中に全長20メートルのクマのぬいぐるみが・・・
なんか思ってる剣と魔法の世界の戦い方じゃない・・・
『バン』
空気を入れ過ぎて風船は破裂してしまった。
メアリー他数人がびくっとした。
みんなで話していてもなかなか集中できないので、酒を飲みながら一人作戦会議にすることにした。
まずは、相手のことをよく知る必要が・・・このワインっぽいの美味しいな。
全長20メートルの相手に対してどんな対抗手段が・・・この料理、ワインっぽいのに合うな。
この肉の串焼きがまたおいしい。
「お兄ちゃん、しょうゆとって」
「はいはい、と」
「コーちゃんグラスが空いてるわよ」
「ありがと・・・って全然集中できてなーーーい!」
「コーテー様!」
メアリーが珍しく大きな声を出して近づいてきた。
「な、なに?」
メアリーは、コーテーが座っている目の前に立った。
そして、黙って向かい合わせのまま膝にまたがってきた。
さらに、ハグされた。
なんだ、この大好きホールド。
メアリーの顔を見ていると・・・
「誰だ!メアリーにまた飲ませたのは!!」
「そんなの誰だって良いんです!わらしだって、コーテー様と難しい話をしたいのです!」
別に難しい話をしていたわけではないのだけれど・・・
メアリーにまた誰か酒を飲ませたな。
メアリーが飲むと絡むから・・・面白い。
「あー!メアリーがお兄ちゃん取った!」
「コーテー様はわらくしの旦那様です!」
メアリーがますますぎゅっと抱きしめてくる。
ついでに脚も背中に回っている。
古いおもちゃで言えば、「ダッコちゃん」状態だ。
何だこの可愛い生き物は。
「ボクもお兄ちゃんすきー!」
横からルミニスが抱き着いてきた。
ややこしいことになってきた。
「私もー!」
後ろからグノームにも抱きしめられた。
益々ややこしいことに。
「わ、私はしないわよ!そんなこと!」
サラはなぜ、そこで参加しようとする!?
この日は結局考えがまとまらずに夜は更けていった・・・
なんか最近、飲んで酔いつぶれるパターン多くないか!?




