チコからの悪い知らせ
ダンジョンの攻略から1週間を過ぎたくらいだったろう。
またチコが物資を持ってくる時期が来たらしいことを知らされた。
事前情報で、今回は「悪い知らせ」が複数あるという事だった。
何だろう・・・勇者くんはダンジョンの討伐で失敗したのか?
それとも、あのダンジョンではなく、他のダンジョンだったのか?
色々と悪いことは思い浮かぶコーテー。
結局、異世界に来て、何も活躍できていないのに、さらに悪い知らせで気持ちは暗くなってきていた。
「どんな内容なのかは、わたくしもまだ知りません。どんなことがあっても、わたくしは、コーテー様のお傍を離れません!」
こうなったら、メアリーの可愛さと健気さだけが救いだった。
いつものように荷馬車は冒険者2人とメイドのチコ1人の合計3人で来て、食材などを置いて行った。
いつもより食材が少ないので、処理に困らないと思い、少し嬉しかった。
でも、その後にチコから「悪い知らせ」があるのだった。
「勇者様、大変恐縮ですが、3つほど悪い知らせをお持ちしました」
「3つも!」
「チコ、どんなことなの?教えてちょうだい」
「まず、1つ目ですが、以前この村近くの森でモンスターが暴れていた件です。」
そんな話もあったな。
多分、俺がベルゼブブを倒してしまったからで、三下がイキって暴れているのだろう、という事だった。
ある程度モンスターは度討伐して、肉にして、食料としているのだが・・・何か問題だったのだろうか。
「モンスターが活発だったのは一時的なものだったようで、森のモンスター討伐のお話がなくなりました」
「ん?」
「誠に申し上げにくいのですが、城からの使いもまいりません」
「ん?ん?」
「城からの接触が少なくなってしまい、心細く思われているとは存じますが、何卒ご勘弁ください」
チコが申し訳なさそうに、深々と頭を下げた。
城から誰か来るはずだったけど、来ないってこと?
ラッキー♪
「それは、残念だな。でもしょうがないな」
ちらりとメアリーの方を見た。
「そ、そうですね。しょうがないですね」
「恐縮ですが、2つ目です。これは、お話ししていませんでしたが、もう一人の勇者様が大きな困難にぶつかりまして、コーテー様にもご尽力いただく話が上がったのですが、もう一人の勇者様だけで無事解決されたため、コーテー様を城に戻すお話がなくなってしまいました」
「ん?」
「可能ならば、お城にと思ったのですが、私では何の力もなく、お話が流れてしまう結果に・・・」
例の城の東のダンジョン攻略の件かな?
勇者くんが攻略できたから、俺はいらない、と。
ラッキー♪
「それは、残念だな。でもしょうがないな」
ちらりとメアリーの方を見た。
「そ、そうですね。しょうがないですね」
「最後、3つ目でございます。このイスス村は、近年まれに見るひどい飢饉が起きていたので、救援物資を出すお話がありました。ところが、奇跡的に持ち直しましたので、そのお話がなくなりました。」
「ん?」
「救援物資を城から送る場合、勇者様にも何らかの接触があったと思うのですが、お話が流れたことで、勇者様にも寂しい思いをさせてしまうことになり、誠に残念です」
そういえば、このところ、村で炊き出しをしていたな。
配給も継続しているから城からは誰も来ないってことかな。
ラッキー♪
「それは、残念だな。でもしょうがないな」
ちらりとメアリーの方を見た。
「そ、そうですね。しょうがないですね」
「私の今回の訪問の一番心苦しかったのは、このような残念なお知らせしか持ってこれないばかりか、補給物資が少なくなることまであったことでした」
「ま、まあ、色々あるだろうし、あんまり気にしなくても・・・いいよ。家庭菜園とかもあるし・・・なあ、メアリー」
「は、はい、そうですね(苦笑)」
「今回は、これらの悪い話をお持ちするので、こちらのお屋敷で一晩泊まってから城に返ることになっています。このように寛大にご容赦頂けて大変恐縮です」
「いやー、部屋はたくさんあるし、何日でも泊まっていきなよ・・・ははは」
「おほほ・・・」
悪い情報ってこれだけだった。
良い情報の間違いじゃね?
まあ、勇者くんが無事ダンジョンを攻略できたことが分かったので、良い知らせだったと言える。
折角だから、メアリーはチコと積もる話もあるだろう。
時間が取れたのなら僥倖だ。
■メアリーとチコの女の話(チコの場合)
チコは、メアリーに絶対に聞かないといけないことがあった。
今まで忙しくて話すチャンスがなく、聞けずじまいになっていたこと。
それを今回の宿泊出張の時に聞くことができる。
チコはこれを楽しみにしていた。
チコが知りたいこと、それは、メアリーの肌と髪の美しさの秘密だ。
メアリーは、暗い過去があって肌に傷や痣があることは知っていた。
そして、本人はそれをすごく気にしていて、前髪も顔を隠すように伸ばしていた。
それが、勇者様とこのお屋敷に引越してからものの1~2か月で傷も痣もなくなった。
髪もつやつやで光が反射してる。
肌もきれいになって、赤ちゃんの肌みたい。
水仕事で荒れていた指先も、軟らかくなっていて、ひび割れもなくなっていた。
食べ物はお城からの支給の物だろうから、きっとこの村の水に秘密があるとにらんでいた。
そこで、料理をしているところを見ようと一緒に台所に立ったのだけれど、何となくぼんやりしていて、何も覚えていない。
料理はできていたので、ちゃんと作ったと思うのだけれど・・
お食事は美味しかった。
ただ、勇者様は変わった方。
メイドと一緒のテーブルで食事をしたいなんて・・・
きっと、異世界では、庶民だったに違いない。
お城の勇者様の方はナイフもフォークも使えるようだったし、貴族だったのかもしれないと思った。
いつもと同じようにお風呂は使用人用を使ったけれど、あまり覚えていない。
使い方をメアリーに習ったような気もするけど・・・
そもそも桶に水をはって、タオルで拭くだけなのだから、習う必要などなかったはずなのだけど・・・
その後、メアリーとは、使用人部屋で色々なことを話した。
辛いことはないかと問いただしたけど、勇者様は良い方だと言ってた。
詳しく聞いたはずなのだけど、あまり覚えていない。
眠かったのだろうか・・・
メアリーは、勇者様の部屋に行ってしまった。
もしかしたら、勇者様の夜伽に・・・?
メアリーの肌のこともあって、伽までは呼ばれないと思っていたのだけど、勇者様に言われれば、メアリーは断れるわけがない・・・
適性は全くなかったらしいけど、私の大事な親友メアリーと婚約までしてしまった・・・
悔しいけれど、少しでもメアリーを可愛がってもらえるように、私も友達として、心証を良くしておこう・・・
■メアリーとチコの女の話(メアリーの場合)
久しぶりにチコとゆっくり話せてメアリーのテンションはアゲアゲだった。
ただ一つ気になっているのは、お城に情報が渡って、コーテー様がお城に戻るようになってしまったりすると、今の生活が壊れてしまうので、それだけは避けたいと思っていた。
コーテー様が幻術の魔法を使えるという事で、チコにはこの屋敷が以前と変わらないように見えているらしかった。
ところが、屋敷自体も、お庭も全く新しいものになっていて、すごくきれいになっていた。
庭には枯れないお花が咲いているし、建物は新品よりもきれいだった。
廊下は、人がいない間に勝手に掃除をしてくれる「ろぼっとそうじき」が掃除をしているし、人間が掃除をするときも「きゃにすたー」で掃除をするから、箒も塵取りもほとんど必要なかった。
チコは、一緒に廊下を歩いたのに「ろぼっとそうじき」が見えていないらしかった。
コーテー様の幻術魔法の効果かもしれない。
キッチンは「さいしんかでん」があり、最初は使いにくいと思ってかまどの方がいいと思ったけれど、慣れればすぐに火が使える「こんろ」や「とーすたー」、「でんしれんじ」はすごく便利だった。
お料理に使う時間と手間は半分どころか、1/5くらいになっていた。
チコには何を見せてもいいし、説明してもいいという事だったので、キッチンを思いっきり自慢してしまった。
それぞれの魔道具の使い方も実演して見せた。
これが幻術でどんなふうになるのか少し不安だった。
夕ご飯は、コーテー様のリクエストでこの前教えていただいた「とんかつ」に挑戦したのだけど、チコはどう思うのかしら。
どう考えても、この世界の料理ではないのだけど・・・
余った時間は、コーテー様とお庭に花壇を作ったり、家庭菜園をしたりしている。
お散歩にもよく連れて行ってくれる。
最初は気が引けて、罪悪感ばかりが先に立っていたけど、最近では少し楽しみになってきている。
空いた時間にご主人様とお散歩しているなんて言ったら、お城のメイドたちに怒られてしまいそう・・・
メイド長に知れたら、お暇を出されてしまいそうだと思った。
食事は3人で食べた。
チコもとんかつを食べて喜んでくれていた。
お城で報告しないでくれたら嬉しいのだけれど・・・
食事の後片付けも簡単。
お皿を洗うのは「しょっきあらいき」で乾燥まで終わるので、お皿を拭く必要もなかった。
お風呂は劇的に変わった。
お城では桶に水をはって、タオルで髪や体を拭いていたけど、大浴場に入るようになった。
貴族様だけの物だと思っていたけれど、まさか自分が入ることになるとは・・・
ただ、コーテー様の「しゃんぷー」、「こんでぃしょなー」、「ぼでぃーしゃんぷー」で髪と肌のきれいさが格段に良くなった。
「けしょうすい」「にゅうえき」「くりーむ」で肌がカサカサしなくなった。
お風呂上りは、チコとたっぷり話ができた♪
お城の事を聞いたり、逆にこのお屋敷でのことを話したり。
コーテー様は最高のご主人様で、最高の婚約者で、本当に愛されていて、今最高に幸せだとのろけてしまった・・・
本当にお城に伝わらないよね・・・
使用人部屋は結局使わなくなってしまった。
コーテー様が同じ部屋で過ごすことを希望されたからだ。
大きなベッドは2人で寝ても十分広い。
婚約もしたので、伽を申し出たけれど、成人してからと言われてしまった。
この世界では成人は13歳なのに、異世界では何歳が成人なのだろう・・・
自分の魅力が足りないせいかもしれない。
コーテー様に言われたとおり、お風呂ではきれいに身体を洗って、お風呂上りに「すきんけあ」を続けることでいつか認めてもらえるようになりたい。
ご主人様と同じベッドで寝ているメイドなんて、お城に報告されたら連れ戻されてしまうかもしれない。
明日、チコが出発する前にコーテー様にもう一度だけ幻術魔法について確認しておかなければ・・・




