勇者くんとポンコツ勇者
正直城がどこにあるか知らん。
城からは、馬車で景色が見えないようにして出されてしまったので。
城から屋敷までまっすぐ来たかも分からない。
遠回りしたり、同じところを回っていたら、馬車に乗っていた時間も当てにならないから、距離も分からない。
ただ、コーテーには瞬間移動と言う魔法がある。
一度行ったことがある城には、いつでも行けるのだ。
城の中自体はほとんど軟禁状態だったので、ほとんど知らない。
そこで、城の前までは瞬間移動で、その後、認識阻害で城の中を移動して、勇者の様子を探ることにした。
広い城の中で勇者がどこにいるのかなんか分からないのだが、索敵魔法も使えるので、レベルが高そうな人間を目指せばいいことが分かった。
勇者の部屋は分かったが、ドアが閉まっている。
認識阻害ってドアを開けても大丈夫だろうか!?
そんな心配をしていると、勇者の部屋に訪問者がいた。
『トントン』
「はい、どうぞ」
「失礼します」
勇者の部屋に来たのは、姫だった。
最初に1回だけ見たし、格好がもう姫らしいので、万が一違っても『姫』でいい。
2人は部屋で話し始めた。
「どうしたんですか?姫」
「先程、騎士団との合同訓練の時、お加減が優れないようなご様子だったので、心配になって来てみました。何か不都合がおありでしたか?」
「いえ、皆さん良くしてくださっています。連日の訓練で少し疲れていたのかもしれません。もう大丈夫です」
朝っぱらから訓練とは、勇者とは大変なもんだな。
たしか、この勇者くんは16歳とかじゃなかったかな?
高校1年で、突然知らない異世界に一人ほっぽり出されて、知らない大人と訓練とか、ないわー。
しばらく勇者くんは姫と話していたが、ずっと「大丈夫」と言っているので、姫が折れて退室した。
勇者くんは、イスに座ったまま、頭を抱え込んでしまった。
勝手な想像だけどプレッシャーかな?
「はー、逃げ出したい・・・」
勇者くんがつぶやいた。
確かに、そうだろうなぁ。
そういえば、いつの間にか、鑑定スキルが使えるようになっていた。
勇者くんのステータスを見てみよう。
氏名:桂 優斗
年齢:16
属性:高校生
LV:18
HP:1000 体力
MP:1000 魔力
STR:1000 力
ATK:1000 攻撃力
VIT:1000 生命力
INT:1000 知力
RES:1000 抵抗力
DEX:1000 防御力
AGI:1000 素早さ
LUK:1000 運
EXP:244369 経験値
魔法属性:地水火風
称号:勇者
あれ?
体力とは1000から変わってない!?
たしか、召喚された初日も1000って言ってたような・・・
経験値は積んで、レベルは18になったんだな。
「なあ、勇者くんは全属性持ちってことは、どんな魔法も使えるのか?」
ルミニスにこっそりと聞いてみた。
「確かに、地水火風の精霊に好かれているみたいだね。使える魔法の数は、練習によるね。でも、精霊に好かれているみたいだから上達は早いかも」
「そっか、俺は?」
「お兄ちゃんは、精霊王が付いているから精霊はほとんど近寄らないね」
「そか」
ついにボクっ子が『お兄ちゃん』と呼ぶようになってしまった・・・
「寂しい?精霊が来るようにしようか?」
「いや、いい。俺にはお前がいるなら寂しくない」
ルミニスの頭を撫でてやった。
「もう、お兄ちゃん!髪の毛ぐしゃぐしゃにしないでよ!」
ルミニスが真っ赤になって照れくさそうに逃げた。
半ズボンのボクっ子のくせに、乙女だなぁ。
金髪ショートの半ズボン・・・ショタ好きの誤解を受けないだろうかと本気で心配し始めるコーテーだった。
そのうち、勇者くんが急に立ち上がりながら言った。
「夜のうちにどこか遠くに逃げるか!」
「・・・それじゃあ、王都の人が困るか~」
そう言いながら、へなへなとすわった。
多分いいやつなんだな、この子。
「よし、ルミニス、認識阻害を一時的に解除してくれ」
「え?大丈夫なの?」
「何かあったときは、時間を戻す!キラークイーンの様に」
「それが何か、もう聞かないけど、お兄ちゃんめちゃくちゃだよね!」
「よお!勇者くん!元気かい?」
コーテーはいきなり部屋に現れた感じになってる。
「わあっっ!びっくりした!あなたは!?」
もう一人の勇者は、イスから転げ落ちる勢いで驚いた。
「ごめん、ごめん、驚かせて。もう一人の勇者だよ。ポンコツの方の」
「あ、召喚の時にいらっしゃった!気にしてたんですよ!」
良い子だった。
「今度、東のダンジョン行くんだって?」
「よく知ってますね!」
「どうなの?実際」
息子と会話の少ないお父さんみたいなことを言ってしまった(照)
「僕なんか全然だめですよ。騎士団の人にも持ち上げられたり、姫の人にも気を使われてるけど、モンスターなんかと戦ったらケガするんですよ!」
そうだろうなぁ、怖いだろうなぁ、どこかの誰かは、モンスターが逃げていくから経験ないけど・・・
「じゃあ、レベル18以上のモンスターは倒しておくし、ボスは適当に弱らせておくから、何とかしてくれ」
「え?そんなことできるんですか?」
「(俺の力じゃないけど)多分ね。討伐はいつなの?」
「明日です」
「そか、じゃあ、今日行ってくるよ」
「ルミニス、また頼む」
そう掛け声をかけると、コーテーの姿は、もう一人の勇者の視界からスーッと消えていった。
ぽかーんという顔で固まってしまった。
「じゃあ、行くか」、「うん」みたいな合図をルミニスには目で送った。
「なあ、ルミニス?」
「なに?お兄ちゃん」
「いろんなことをさせてるけど、パワハラになってないか?」
「『パワハラ』ってなに?」
「いや、いやな仕事させてないか?ちゃんと何か報酬はあるのか?」
「お兄ちゃん、いつもめちゃくちゃだから、楽しくやってるよ?あと、報酬は、お兄ちゃんの魔力をガンガン持って行ってるから大丈夫」
なんかヤバそうなワードは聞こえたが、別に生活に困ってないし、いいか。
「ちゃんと、嫌なことがあったら『嫌』って言うんだぞ!」
「うん、お兄ちゃんありがと」
「ところで、その『お兄ちゃん』は何とかならないか?」
「嫌!」
「早速かよ!」
■東のダンジョン
「じゃあ、東のダンジョンに行くけど、場所知ってる人!」
コーテーは手をあげて、同意する物を募る。
もちろん、相手は精霊王たち地水火風光闇の6人だ。
「そんなの知らないわよ!勇者に会ったんならそんなのこそ聞いとくべきだったんじゃないの!?」
オンディーヌさん厳しい。
「お姉ちゃんが東に深いダンジョンを見つけたから、多分それだと思うわ!連れて行ってあげようか?」
グノーム優しい。
「最近できた大き目のダンジョンってそこだけ?」
「確かに、まだまだ若いダンジョンね。でも、結構な数のモンスターがいるみたいよ?」
「よし!そこに行こう!」
・・・と言っても、行ったことがないので、瞬間移動はできない。
ルーラ的な瞬間移動なので、過去に行ったことがあるところしか行けないのだ。
「飛ぶ?」
口数が少ないシルフなので、連れて行ってくれるってことなのだろう。
「お願いできる?」
「ん」
そのまま空を飛んでいる。
スーパーマンの様に手を前に出してみたり、飛行機の羽根の様に横に手を広げてみたりしたが、スピードには全く影響がなかった。
多分、風の精霊王シルフがやってくれているのだろうが、すべてはシルフ次第。
飛行機を発明した人類の端くれのはずなのに、全く何もなすすべがなく、されるがままにダンジョンに連れていかれるコーテーだった。
そして、いよいよダンジョンの入り口だ!
トンネルのような場所があり、ここがダンジョンの入り口のようだった。
「このダンジョンには、どれくらいの魔物がいるんだ?」
「お姉ちゃんが教えてあげるね♪ダンジョンは地下に23階、モンスターの数は全部で16,259匹」
「多いなあ!」
「そのうち、レベル18以上は628匹。地下20階より下にいるわね」
「いきなり少ないな」
「じゃあ、地下20階まで垂直にトンネルを掘るわね」
・・・またこのパターンか・・・
少しのデジャブ・・・
「このダンジョンは!俺が剣でモンスターを討伐するからね!」
「ええ、分かってるわ!お姉ちゃん、コーちゃんのたくましい姿を期待しちゃうわ♪」
一応釘も刺せたし、今度は大丈夫だろう。
ダンジョン入ってすぐの場所に地下20階までの直通穴が開いて、そこをゆっくり降りていく。
例によって風魔法だろう。
エレベーターで降りていくような、全く危機感が抱けないゆっくりしたスピードで降りていく。
いよいよ、地下20階ではおびただしい量の強そうなモンスターがいる!・・・のに、全てのモンスターが動かないのはなぜだろう!?
よく見ると、足が地面に1mほど埋まっている。
じろりとグノームを見た。
「ぴーぴぴー、お姉ちゃん何も知らないわー」
明後日の方向を見て、(吹けていない)口笛を吹いている。
間違いない、彼女だ(汗)
もはや、登場回数がなさ過ぎて名前すら忘れてしまいそうな神剣「アスカロン」でモンスターに切りかかっていく。
剣がモンスターに当たる前に、モンスターが無に返る。
さすが神剣アスカロン・・・
剣の効果が凄すぎて、モンスターに2mまで近づいたら、剣を振りかざさなくても無に返ることが分かった。
つまり、止まったモンスターに剣を持って近づくだけの簡単なお仕事だった・・・
特に見せ場も、危険な場面もなく、20階、21階、22階と進めてしまい、いよいよ最下層23階に到着した。
例によって、全てのモンスターは身体の半分くらいが地面に埋まっているので、襲ってこない。
いや、襲って来れない。
最下層だと言うのに、ボスの部屋の前まで来てしまった。
ドアには、幾何学模様と、いくつかの丸い窪みがあった。
そして、禍々しい文字で何かが書かれている。
恐らく、この謎を解き、丸い窪みに玉状の何かを埋め込まないとドアが開かない仕組みだとコーテーは悟った。
きっと、魔法か何かですごい封印がされているのだ。
・・・魔法?
「急ぎたいと思うから、お姉ちゃんドア開けちゃうね!」
ひょいっと簡単にドアが開けられた。
「ノーっっっ!!」
精霊王が6人もいるのだ、精霊を使ってどうにかした魔法が抗えるはずもない・・・
象の前の蟻ですらないのだった・・・
ドアの奥には、3つの首の蛇がいた。
鑑定スキルで見たら、レベルは56。
今のコーテーのレベルは106。
楽勝の相手のはずだ。
はずだった。
火をはく首と、氷をはく首と、毒をはく首があるらしい。
しかも、HPをほとんど削ったところで、しっぽに現れる第4の首は回復らしく、削ったHPを全快させるとんでもないボスモンスターだ。
例によって頭が3つとも地面に埋め込まれて、尻尾も既に地面に埋まっている。
これが蛇だとは言われないと分からない。
4つの首を切り落として、討伐終了・・・
ボスの部屋の奥には宝箱が置かれていた。
念のため開けてみた。
『銀河の剣』
一応、鑑定してみよう。
「クリティカル+12%アップ」
「・・・びみょう―」
宝箱には、聖剣アスカロンと入れ替えて、閉めて置いた。
ボスの部屋には、19階からレベル17の強そうなモンスターを踏んづかまえて連れてきて、さっきの銀河の剣を隙間にさして、中から開かないようにした。
「・・・終わった?」
「おわったな」
「終わったわね」
「ん」
「コーちゃん、頑張ったわね!汗かいてない?」
また全く活躍の機会がなく、見せ場もなく、終わってしまった・・・
ボスの部屋の剣よりも、明らかに聖剣アスカロンの方が強かったから、あれは勇者くんにあげよう。
必要だったらまたつくればいいし・・・
むなしく帰ることにしたコーテーだった。
オンディーヌが最後に聞いてきた。
「ねえ、あんた結局、冒険してみたかっただけでしょ?」
「うん」
「満足した?」
「あんまり・・・」




