チコ来訪
「チコが来ます」
それは朝食の時間だった。
メアリーと食事をとっている最中に、突然メアリーが言った。
ちなみに、『チコ』とは前回荷馬車で荷物を屋敷に持ってきたメイドの名前である。
コーテーがいいかげん名前を覚えたのだ。
数日たったら、また城から使いが来ると言うことだった。
コーテーと2人で住んでいる屋敷でどうやってその情報を届けているのかコーテーは一度聞きたいと思っていた。
しかも、メアリーだけに知らせるのだから。
メアリーが少し困っている。
「どうしたの?何か不都合が?」
「いえ、不都合と言うほどではないのですが・・・密かにコーテー様の様子を報告しないといけません」
「なるほど」
なるほどと言ったものの何か報告されて困るようなことがあっただろうか。
「一番いいのは『何もなかった』なのです」
「じゃあ、そう報告したらいいんじゃないかな?」
「そんなの無理です!」
メアリーの声が大きくなった。
これは、ツッコミか!?
ツッコミなのか!?
メアリーにツッコミ属性が発現したのか!?
「コーテー様は何となく違うことを考えておられるようなので、説明します」
「まず屋敷の庭!わたくし一人なのに雑草の1本も生えていません」
そういえば、面白半分で草刈り機を出して、庭の雑草を全部刈ったな。
エンジン式で、バギーみたいにまたがるタイプだったから珍しくて、楽しくて、庭どころか、敷地外まで草刈りしてしまったのだった。
「次に、屋敷ですが、築30年以上なのに新築みたいにピカピカです!」
確かに、ヒールが人以外にも使えるか試そうと思って色々なものにヒールしているとき、屋敷の外壁にもヒールをかけたな。
「台所も見たこともない調理器具でいっぱいです」
メアリーの手間を少しでも少なくしようと、最新の調理器具をそろえたな。
「トイレはおしりを洗う見知らぬ機構が付いています!」
ウォシュレットは必須だしな。
「大浴場はレバーをひねるだけでお湯が出ます!」
瞬間湯沸かし器は絶対要る。
「食料があまり減っていません!」
ああ、俺が色々出すからそれ食べることも多いしね。
余った食料は村に寄付でもするか。
「わたくしの顔の傷と痣がなくなっています!」
きれいになってよかった。
「髪型も変わっています。」
確かに、前髪を少し切った方が、顔が見えてかわいいし・・・
「どうしましょう!?わたくしなんて報告したら!?」
紫色の髪のミニデフォルメキャラが突然目の前に浮かんだ。
ゴスロリの服装に、黒いクマのぬいぐるみを持っている。
キャラは濃いめかな(汗)
「お前は?」
メアリーに変に思われないように、小さな声で聴いてみた。
「闇の精霊王・・・テネブレ・・・やっと出番・・・だと思って出てきた」
いかにも陰キャそうなのが出てきた。
精霊ってのは四大精霊って言うくらいだから、4人じゃないのか!?
とにかく、テネブレに聞いてみる。
「なにができる?」
「幻術で、以前の通りに・・・見せることが・・・できる」
「なに、それは本当か!じゃあ、じゃあ、戻さなくていいってこと!?」
「(こくり)」
「じゃあ、それでお願いします!」
「魔力・・・ちょっと多めに・・・もらっていい?」
「おう!死なない程度ならな」
「わ、わかった・・・」
闇精霊はふいっと消えていった。
どれだけ精霊がいるんだ。
今度、整理しないとな。
「と、言うわけで何もしなくて大丈夫だ。メアリー」
「すいません。どういうわけなのか、全く分かりませんでした・・・」
まあ、そりゃあそうだわな。
幻術で、チコ達には以前の風景を見せるので、普通に「何もない」と報告したらいいと伝えた。
「あ、でも」
「はい?」
「メアリーには幻術をかけたくない」
「でも、それでは、一番目立つ部分が残ってしまいます」
「でも、折角かわいいんだから、それを隠したくない。むしろ、自慢したい」
「そ、それをお望みでしたら・・・わたくしなんかでよろしければ・・・」
またメアリーはうつむいて真っ赤になってしまった。
かわいいなぁ。
「テネブレ?メアリーへの幻術はなしだ。屋敷内と庭だけで頼む」
テネブレが数秒だけ現れて、コクリと頷いてまた消えた。
ちゃんと伝わったようだ。
意外に準備が大変かと思ったけど、何もしなくてよくなったので、チコ達を待つだけか。
残っている食料を村に寄付するくらいは作業がある。
村長の家にでも行って、渡して来たら良いだろう。
本当ならば持っていくのは一苦労だが、先日森に行って以来、過去に行ったことがあるところには瞬間移動することができるようになった。
それなんてルーラだろう。
テレビやゲーム、アニメで見たことがあるようなものは、魔法でなんとかかんとか再現できることが分かってきた。
もしかしたら、今だったら時間を止めることもできるかもしれない。
急に悪戯心が芽生え、時間停止を試すことにした。
「時よ止まれ!」
屋敷の廊下で試してしまったので、特に動いているものがなくよくわからなかった。
1階に降りて、メアリーが台所で忙しく働いているのをこっそり見て、再度挑戦した。
「時よ止まれ!」
メアリーの動きがその瞬間ぴたりと止まった。
「ま、マジか・・・」
メアリーに近づいて行くと、勝手に時は動き出し、メアリーは仕事の続きで動き続けた。
「あれ?コーテー様、なにかご用事ですか?」
「あ、いや、ちょっと顔を見に来ただけだよ」
時が止まったら、色々説明するのも憚られる様なことをしようと思っていたが、たった5秒ほどで動き始めてしまった。
体感的には5秒程度(時が止まっているのに5秒とは奇妙な話だがとにかくそのくらいだ)の停止が可能。
イメージで参考にしたものが良くなかったようだ。
空気を吸って吐くように、HBの鉛筆をベキッ!とへし折るように、自分にはできて当然と認識することが必要そうだ。
これは練習次第で止められる時間が長くなるだろうから、今後に期待しよう。
食糧倉庫に行き、1週間分くらいは食料を残して、残りを持っていくことにした。
いや、待て、時間停止ができるなら、「アレ」もできるはず。
収納魔法・・・は特に掛け声はなかったな。
目的の荷物をストレージに収納してみると、ものの見事になくなった。
試しに取り出してみた。
全部出てきた。
完璧だ。
それでは改めて、収納、と。
そして、そのまま村長の家に移動、と。
目の前は村長の家のドアの前だった。
『トントン』
「はーい」
きっと奥さんだな。
元気のいい女性の声が聞こえた。
「こんにちは、以前ごあいさつさせていただいた外れの家に住んでいるものです」
「ああ、あのお屋敷の!」
「ええ、まあ・・・」
「実は、食べ物が余りそうなので、村の皆さんで食べてもらえたらと思って・・・」
「ほんとかい!それは助かるよ!」
「そんな沢山じゃないんですけど・・・」
「いやいや、ちょっとでも助かるよ、今年は不作になりそうだからねぇ」
「そうなんですか?」
「天気が良かったから、水が不足していてね」
「なるほど」
晴れればいいというわけではないらしい。
農業とは難しいものだな。
奥さんに言われた倉庫に食べ物をストレージから出して置いた。
村のみんなで食べるにはほんの少しだ。
ついでに、小麦粉1トンと塩と砂糖を10kgずつ出しておいた。
ネットスーパーの写真があれば、実際に買ったことがなくても容易に取り出せるので、この能力は便利だ。
「え!?ええ!?こんなにたくさんかい!?手ぶらだったからもっと少ないかと思ってたよ!」
物置に来てくれた奥さんが驚いていた。
「あ、一応収納魔法が使えるんです」
「こりゃあたまげたね」
「主人にも報告しておくよ!」
「住ませていただいてますからね。何かあったときお力添えをお願いします」
特に何かを期待しているわけではなかったが、適当な挨拶をして、村長の家を後にした。
誰も見ていないことを確認して・・・また自宅に瞬間移動したのだった。
家に着くとほどなく城からの荷馬車が着いた。
チコが下りると同時に大声をあげていた。
「えー!?メアリー!?どういうこと!きれー!!」
前回のように、メアリーとチコが抱き合っている。
挨拶なのか、同僚だからか、めちゃくちゃ仲がいいな。
今回も冒険者は2人同行しているようだ。
屋敷のエントランスに荷物を運んでもらっている。
こういう時収納魔法を使うと、すぐに終わるのだろうけど、下手に手伝うと城に変な情報が渡ってしまいかねないからな。
何もせず、指示だけはした。
メアリーとチコは応接室を使って何か話しているようだった。
会うと同時に、チコはメアリーのほっぺを触ったり、髪の毛をなでたり、すごい反応だった。
なんとなく、誇らしい気持ちになったコーテーだった。
・・・
「勇者様!勇者様!」
リビングでくつろいでいると、どこからか大声で俺を呼んでいるようだ。
「あ、勇者様!こちらでしたか!」
チコがリビングに入ってきた。
なんかめちゃくちゃ大きい声で呼ばれると、呼び出されているみたいな気になる。
会社員時代の悪い習慣と言うか、トラウマと言うか・・・
「はい、なんでしょう?」
『ギラッ』とチコが目をくわっと見開いた。
あれ?何か俺怒られる感じ?
「ありがとうございますっっ!」
きっちり90度のお辞儀での最敬礼のお礼が来た。
状況はさっぱり分からない。
「えーっと・・・」
『どたどたどた』
後ろからメアリーが飛び込んできた。
珍しいなメアリーがドタバタするなんて。
「まあ、落ち着いて座ろうか」
ソファにごろんと寝ていたことに対してコメントされるのも嫌なので、ちゃんとソファに座って、メアリーとチコの話を聞くことにした。
メアリーはソファの横に座ってくれたが、チコは立ったまま話をしようとしていたので、座るように言った。
これだから本当のメイドは・・・
「メアリーは私の親友なんです!そのメアリーをこんなに大事にしてくださって、本当にありがとうございます!!」
前回会ったときはなんだか当たりがきつい感じだったチコは、今回打って変わってかなり好意的な感じ?
「メアリーが傷の事を気にしているのは知っていました。でもこんなにキレイになって!聞いたら、勇者様が毎日信じてなでてくださったり、拭いてくださったりしたから、きれいになったのだとか!」
何の話だろう?
知らない話だけど。
メアリーの方に視線を向けると「もうしわけございません」とすごく肩に力が入っているメアリーがいた。
そういえば、傷と痣の消した方法について打ち合わせしてなかった。
苦し紛れにメアリーがそう答えたのだろう。
魔法で治したと言ったら「勇者は魔法が使えるようになった」と報告が行くだろうし、「薬草できれいになった」と言えば「10年来の傷も治る薬草が見つかった」と報告が行くだろう。
どう答えていいか分からずに「信じて拭く」と言う、なんだか新しい宗教みたいな回答でごまかしたのだろう。
「たまたまだよ。たまたま。よかったよなぁ」
もはや、イエスでもノーでもない、玉虫色の返事でごまかす。
「それより、お城から何か情報はないのかな?チコ」
華麗に話題をチェンジする。
上機嫌のチコは色々話してくれた。
もう一人の勇者は、さっそくレベル15になって城近くのダンジョンでレベル上げをしていること。
この村の税収は、今年はあまり見込めないと言っていたこと。
この屋敷近くの森のモンスターが活発になっていること。
勇者はレベル15になったのか。
コーテーはすでにレベル80を超えていたので、黙っていた。
屋敷の近くの森はボスっぽいモンスターを倒したのに活発になっているのかと疑問に思い、聞いてみた。
「そうですね、森の主みたいな強大なモンスターの反応がなくなったらしいです。だから、覇権争いで森の中が荒れているみたいです。危険ですからくれぐれも森には行かれませんように」
なるほど・・・ベルゼブブ(超激レア星5)を倒したからかな?
悪いことをしたなぁ。
今度改めて森に行って、雑魚モンスターをちょっと討伐しておこうと思うコーテーだった。
まあ、とりあえず、うまい具合にチコ問題を解決した(?)のだった。




