<江戸山南4条西10丁目の防衛戦 伽藍GUILDにて-2>
<江戸山南4条西10丁目の防衛戦 伽藍GUILDにて-2>
それが始まったのは、いつのころからだったか。
ある日何処からともなく現れた<R・B>と称される妖獣は、
全身を堅い鱗で覆われた麒麟のような風貌を持ち、
巨大な両翼を広げ街に降りてきた。
その大きさは、全長1000mに及ぶ異界の妖獣だった。
<R・B>は広大な荒れ地と街の境界に降り立つと、
禍々しい風貌の耳まで裂けた口を大きく開け、
そこから低い轟音を鳴り響かせ街を震撼した。
雷鳴のような轟音に伴う地響きに住民の誰もがひれ伏すなか、
妖獣は頑丈な顎と鋭い歯先で足下の大地を深々と穿っていった。
この街で確認された最も古い<断崖>はそこから生まれた。
その後<R・B>は自ら造り上げた<断崖>を足場に、
街の外周を抉るように貪欲に喰らい始めた。
住民たちは、当初突然街を襲った忌まわしき妖獣による惨事に狂乱し、
我を忘れ逃げまどった。
だがその狂乱が長く続くことはなかった。
なぜなら、住民は<R・B>の<感化>に染まってしまったからだ。
その結果住民達は大惨事に関る全ての記憶を奪われ、
<R・B>の存在を打ち消す一種の精神的隷属状態に陥った。
逆説的だが、ある意味住民にとって幸いだったのかもしれない。
なぜなら<R・B>による大地と街の飽食に怯えながら、
絶望の日々を過ごす地獄から解放されたからだ。
<R・B>は、
今も大地のひとかけらを喰い尽くすまで貪欲に街を周回し続けている。
伽藍GUILDでは、予測より早まった来襲にメンバー全員が浮き足立っていた。
彼らは<感化>を跳ね返す強固な精神力と体力を備えており、
<R・B>に対峙できる唯一の対抗戦力だったが、
敗戦の歴史が彼らの未来を漆黒に塗り潰そうとしていた。
残されたバトルプレイヤーは、伽藍GUILDに居るメンバーのみ。
世界の存亡を賭け戦い倒れていった先人たちを偲ぶ胸の奥は、
<R・B>に対する深い憎悪と、絶対強者への恐怖で満ち溢れていた。
ジグはモニター画面を一時停止させ、GUILD長に話しかけた。
「戦闘予定地点の到着時刻は凡そ午後6時。
現在午後1時半ということで、戦術的な猶予は4時間余りしかありません。
<R・B>の動きを封じる方策として、
ロイズロルスさんはどのように考えているのでしょうか」
ジグは、ソラの情報とGUILD長の戦術をベストミックスさせようとしていた。
ロルズロイスはジグの問いに頷くと、
メンバーと厨房で働くスタッフの全てをカウンター前の広場に集結させた。
「貴方の指摘が正しいことは、この壁面モニターを見ても明らかですな。
討伐準備の時間が殆ど無いのであれば、
私が事前に考えていた、各自のスキルアップ訓練や、
討伐のためのフォーメーションを練り込むひまはなさそうです。
となれば私の使命とは、今ここに集まったメンバー各々ができることを、
最大限に活かす司令塔になることです。
そのために、貴方と<R・B>の情報と攻略のための考えを共有したい。
どうか、貴方が今持っている情報を全て教えてください」
ロルズロイスの招集で集まったメンバーは、
一二三を含めたバトルプレイヤーが7名と、
レストランの調理スタッフが10名だった。
彼らは二人のやりとりを真剣に聞きながら、
この街と、自分自身の生存を賭けた死闘に臨もうとしていた。
「<R・B>の攻略法を話し合う前に申し上げます。
実を申し上げますと、ボクはこの世界の住人ではありません。
例えば一二三にとって、ボクは未来が丘中学校教諭の神宮弥彦ですが、
それは<感化>よりも高次元のスキルで刷り込まれた記憶にすぎません。
あなた方にとって、ボクはビジター(よそもの)なんです。
だけど、ボクはこれから訪れる世界が破滅する未来を知っているし、
それをどうすれば防ぐことができるのかを真剣に考えています。
ボクはこの街を、そして一二三の中学校を絶対に守りたい。
そんなところです」
ジグの力強い言葉に、一二三が大きく頷き全員がそれに続いた。
「貴方には、出逢った瞬間から得体の知れない何かを感じておりましたが、
今となってはどうでも良いことです。
重要なのは、貴方が私どもの敵なのか味方なのかということだけです。
来る戦いに、力を合わせ迎え撃ちましょうぞ」
いつの間にか黄金のバトルスーツを身に纏ったGUILD長は、
自らも戦地に赴く駒となるべくジグの発言を待った。
「それでは、情報に基づく<R・B>討伐のため、
貴方たちが成すべきことを示しましょう」
ジグは、ソラが作成した討伐シミュレーションの画像を、
白い壁面に映し出していった。




