<華麗なる直夫の日常>
<華麗なる直夫の日常>
直夫が目を覚ますと、四畳半の畳の上には布団が敷いてあり、
その布団に寝ている自分に気がついた。
かつてここは布団すら無い汚部屋そのものだったが、
例の冊子が届いてからは畳に積まれたゴミも片付けられていた。
そして、直夫が寝ている布団の周りには、
謎の仕様書と未だ未使用の工具がきれいに並べられていた。
《なんだかなあ、仕様書自体を見る限り、
昔いじってたIT機器と比べても、それほど構造が難しくはないんだよなぁ。
これが出来たとして、いったい何に使うのか甚だ疑問だぜ》
直夫は、布団に仰向けになったまま両手で仕様書を広げ、
完成予定図全体をまじまじと眺めた。
図面で見る限り、どこかで見たような形状をしている。
完成品は、ちょっとでかい消火器のような本体と、
それに接続するホースでできている。
《ふーん、見た目だと動力が無い手動式のように見えるが、
実は小型のコンプレッサーのようなものが付いているわけね。
その動力は俺にもよくわからん謎の燃料で作動するっと・・》
直夫は昔取った杵柄か、
いつの間にか製造所の技術監督のような目線で設計図を吟味していった。
これが何かはさっぱりわからないが、
組み立てぐらいだったらいけそうな感触を持った。
ガタンッ ドスンッ
その時ドアの外で大きな物音がした。
ドスンという音から察するに何かが置かれた音だろうか。
だがその割に運搬人の足音はまったく聞こえなかった。
ん?
直夫は、両手で広げた仕様書を一旦元に戻し、
布団からむっくり起き上がる。
そして入り口のドアをゆっくり開け、二階の通路に顔を覗かせた。
《あらら、これは・・・》
予想通りそこには誰も居なかった。
その代わり二階の通路いっぱいに、
厚手のビニールで個別包装された様々な大きさの部品と思われるものが、
所狭しと並べられていた。
《イリュージョンかよ。
いったい誰がどうやってこれだけのモノを、
俺に目撃されずここに置いてったんだ》
ここしばらく、不思議な出来事が次々と起こり直夫を翻弄していた。
今更ことの本質が俺にわかるはずもない。
直夫は謎の部品が全て自分の部屋のドアから搬入できることを確認し、
通路にそれらを放置したまま嶋谷のばあさんとこで朝飯をご馳走になることにした。
《誰だかわからんが、待ってろよ。
俺の圧倒的な技術力でこいつをビシッと組み立ててやるさ》
直夫は真下に住んでいる嶋谷のばあさんの部屋に向かうため、
二階の階段を降りようとした。
直夫は一瞬立ち止まり、視線を遥か遠くへ泳がせた。
落日荘は、街の高台に立っていた。
二階から眺望できる街の風景は広大で美しく、少なからず直夫は気に入っていた。
だが最近、直夫はその風景に気になるものを発見していた。
地平線の遙か向こう。
今までなら、街の地平線は遠い先のほうが霞んで見えていたものだ。
しかし今では、霞んで見えたはずの遠い街の風景が、
驚くほど鋭角的に無くなっているのだ。
俺の目がおかしいだけなのか、それとも・・・
直夫は、一瞬沸き起こった疑念を振り払い、
ばあさんの作った朝飯にありつこうと階段を駆け下りた。




