<行き止まりの風景-7>
<行き止まりの風景-7>
「神宮先生は当たり前のことが何もわかっていない、
でも俺としてはノープロブレムだ。
<あの件>とは、断崖がどうしてできたのかということ。
そして断崖とは、<R・B>と呼ばれる、
街を食い荒らす化け物によってつくられた歯形のようなものです」
一二三は、水の入ったグラスを一旦テーブルに置き、
両手で獅子舞の頭をつくり口にあたるそれをパカッパカッと開閉した。
さらに、ハーモニカを吹くようにトウモロコシを囓る真似をしてみせた。
「歯形?」
一二三の予想もしない動きに、ジグは思わず言葉を復唱した。
「そう歯形だよ、ヤツには恐ろしくでかい口とギザギザの歯があって、
街の遥か下の部分から一気にガシガシと食い荒らしていくんだ。
あいつは、間もなくこの辺に戻って来る。
説明するより先生が自分で確かめたらいい」
一二三は一瞬視線を遠くへ解き放ち、破壊と殺戮の記憶を辿った。
そして再び言葉を続けた。
「<R・B>は今も、
街の外周をちょっとずつ囓りながら移動しているはずだよ。
なのになぜ、住民はカタストロフィーを目前にしてパニクらないのか。
それは、街の住民が<R・B>に<感化>という、
一種の操作系の暗示をかけられているからなんだ。
<感化>により、街の連中は破壊に関わる全てに対し無関心にさせられた」
一二三は、淡々と状況を説明していった。
ジグは、言われたことを噛みしめるように消化し、
自分の言葉で吐き出した。
「何処からか<R・B>がやってきて住民を<感化>した。
その結果、住民たちは街の破壊を目の当たりにしながらも、
雑魚NPCのように淡々と日常を過ごしているわけだ。
そういえば、この通りのクルマが全てノーブレーキのまま
断崖に向かってサヨナラしていくんだが、
恐らく断崖が認識できていないんだな」
一二三は、ジグの言葉に肩を竦めてみせた。
それから、ジグが知らねばならない説明を続けていった。
「最初に<R・B>が街を襲ったのはいつなのか、
そして最初の<断崖>が街のどの辺りから始まったのかは俺も知らない。
わかっているのは<江戸山南4条西10丁目>の断崖は、
今まででいちばん新しい断崖だということさ」
ボクは二杯目の水グラスを手離し頷いた。
頭の中では、<あの件>の再現を試みていた。
「<R・B>とは、
バウムクーヘン(まち)を年輪の幅で囓っていく害虫といったところか」
「さすがに先生は飲み込みが早いですね」
一二三は、ジグの斬新な発想に思わず合いの手をいれる。。
「お世辞はいらない。
それよりなぜ、ここの連中だけは<感化>されていないんだ」
ジグの指摘に一二三の表情が一変し、
獲物を狙う野獣のような眼差しでジグを見据えた。
「そこですよ、先生が今ここに居るのもそこがポイントかと」
それに併せて、周りで食事していた連中が一斉にジグの方を振り向いた。
「俺たちは、GUILD長に選ばれた能力者なんですよ。
能力者とは、<R・B>による<感化>の影響を受けなかった、
数少ない戦闘スキルホルダーを言います。
俺たちは、この街が少しずつ<R・B>に削られていることを知っているし、
街をなんとか<R・B>から守ろうと戦っているのです。
これまで繰り返された十数回にわたる防衛戦では、
その度にGUILD長がその時点で最強メンバーの討伐チームを組んだのですが、
まったく歯が立たなくて、<R・B>に食われてしまったというわけです。
そんなわけで、今では俺みたいな中坊の下っ端でも主力扱いですよ」
一二三は、笑い顔とも泣き顔とも言えぬ表情でおどけてみせた。
「そんなに強いのか、<R・B>って」
ジグは、マカインでの戦いを思い出しながら呟くように言った。
「そりゃあもう、強いなんてもんじゃありませんぜ、先生。
このフロアがスカスカなのは、
あれだけ大勢いた俺たちのメンバーが殉職しちまったから。
恐らく、次の防衛戦が伽藍GUILDとして最後の戦いになるはず」
後ろの席からGUILDメンバーとみられる屈強な大男が、
ジグに野太い声をかけた。
彼は、名をブロディと名乗った。
同時にテーブルで食事中の他の連中も、ブロディに呼応するように頷いた。
「私もこの度の戦いに参加いたします。
私は、GUILD長のロルズロイスと申します。
戦いが終われば恐らく、この店に誰もいらっしゃらないでしょうから」
いつの間にか、カウンターの男がトレイにランチを乗せて立っていた。




