<行き止まりの風景-6>
<行き止まりの風景-6>
「俺が代金の肩代わりをしましょうか」
腹ぺこに耐えかね、がっくりと肩を落とすジグの背後から救いの声がかけられた。
思わず声のする方に振り向くと、出入り口付近に制服を着た小柄な少年が立っていた。
身長は165センチほど、見たことのある制服だ。
「キミはウチの学校の生徒だよね、学校は授業中のはずだだけど」
ジグにとっては千載一遇のタイミングだったが、
先に出たのは教師としての言葉だった。
男子生徒の制服から察するに、
自分が所属する江戸山区立未来ヶ丘中学校の生徒であることは間違いない。
担任学級の生徒ではないものの、ソラにプリセットされた記憶では、
2年A組の赤尾 一二三という生徒らしい。
細面の顔で髪を茶色に染め、ワイルドツーブロックの刈り上げでキメている。
一二三は、ジグの問いかけにも悪ぶれることなく質問で返した。
「3B担任の神宮先生ですよね、こんちは。
俺がエスケープしているなんて報告だけは、
勘弁してくださいよ。
俺のことなんかより、先生こそトラブってる感じなんですけど」
一二三は両手をズボンのポケットに入れたまま、
上目遣いにジグの窮地を抉ってきた。
「確かに、確かにキミの言うとおりだ。
本来首根っこを捕まえて学校に戻るのが筋だろうが、
王手飛車取りをかけられ飛車が逃げるわけにもいかないし」
《ジグ様・・》
実際ボクに残された選択肢は、二択ではなく一択。
この際、赤尾一二三のエスケープは後回しにし、
自分のことを優先に危機を乗り切るしかない。
そんなわけで、
ボクは勤務先の中学校の生徒にランチを奢られるはめになった。
「それにしても、赤尾君は中学生なのに良くこの店に入れたね。
そこの怖そうなおぢさんに店をたたき出されなかったのが不思議だよ」
ジグは、相変わらず無愛想で威風堂々とした男をチラ見した。
ソラからの提案もあり、オーダーしたランチが運ばれるまで、
赤尾一二三から情報を手に入れることにしたのだ。
「呼ぶときは一二三でいいっすよ。
神宮先生、このGUILDには何も知らずに来たんですか。
てっきり、<あの件>があった後<選択>されたメンバーのひとりなのかと」
一二三はテーブルの上に置いてあるピッチャーから、
ミネラルウォーターを二つのグラスに注ぐと、
片方をジグに差し出した。
「申し訳ないが、<あの件>と<選択>の事柄について、
もう少しわかるように説明して欲しい」
ジグは一二三から差し出されたグラスを受け取り、
一気に水を飲み干した。
これこそ鉄管ビール(古
ジグはミネラルウォーターが五臓六腑に染み渡ることで、
少しだけ体力が上昇した気がした。
一二三はジグの言葉を受け、一瞬カウンターの男に視線を移した。
男は一二三の視線を受けると、ほんの僅か首を縦に動かした。
「何も知らないんだな先生は。それなら少し話しが長くなるけど、
ランチがくるまで俺が話してやるよ」
今や完全に上から目線の一二三は、空になったグラスに再び水を注いだ。
ボクのランチは、
Bランチ ウソウソうっそ~ん定食 980円(ライス食べ放題)
一二三のランチは、
Aランチ 鵯越のスパゲッティー 880円(スープ・サラダ付)
奢られるほうが価格が高い。
本来あってはならないことだが、ライス食べ放題の誘惑には勝てなかったよ。
とりあえず、一二三のはなしを少し聞こうじゃないか。




