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君のいない箱  作者: sen
2/7

放っておいてくれない人々



 昼時の混雑を避けたて遅めの昼食にしてみたが、日も暮れる頃にはやはり空腹となっていた。燃費が悪い。こういうのが贅肉になっていくのだろうなと嫌な予感はありながら、現実は消費が大きいらしいのもおかしなものだ。宮田の店へ着いた頃にはさて今晩は何を食べようかとわくわくしていたり。


「こんばんはー」

「いらっしゃいませー! あ、こんばんは鷹野さん!」


 迎えてくれたバイトの女の子ーーアヤに「宮田さんいる?」と尋ねると、彼女はきょとんとして「あれっ? 何かお約束でしたか?」と質問で返された。


「えっ? もしかして留守?」

「はあ……今は、ですけど……じきに戻る風でしたけどかれこれ四時間、ぐらい?」


 なんてこった。


「電話してみよ。待ってていい?」

「はい! えーと、カウンターどうぞ」


 促されてカウンターのいつもの席に腰掛ける。スマホを操作して電話してみたがなかなか繋がらない。運転中か? まあ、急ぎでもないのでのんびり待たせてもらおう。


「こんばんは、鷹野君」

「あ、こんばんは。川崎さん、宮田さんどっか出てるらしいっすね?」


 おしぼりと水を受け取りながら問うと「そう。いつもふらっと行っちゃう人だからね」と苦笑い。


「奥さんの所でもなさそう?」

「その時はそう言って行くから。彼。……待ち合わせ?」

「ですです。昼間電話くれたんでーー」

「あー……何か企んでるな。また」


 またって。そして何故それを察知する。旧知故の勘か。


「そうやって根回ししてく時は大概何かしらあるんだよ」

「えー、コワっ! 何ソレ俺何かされんのかなあ……」

「悪い事じゃ、ないんだけどね」


 まあ彼の奢りとして好きな物頼んでれば? と川崎はお通しの小鉢をそっと出してくる。とりあえず生ビールを頼むとすぐに出してくれた。今日はナッツ入りのエビアボカド。箸で摘んでぱくり。


「うまーい。ねえこれ川崎さんが仕込んだやつ?」

「だね」

「ちょっとピリッとしてんのがいいっすね。いいなーこんなん出来ると」

「簡単だよ? 普通のエビアボカドに唐辛子漬けたオイルをちょっとだけ。これ、凌さんも好きなんだ」

「あー……あいつ、ちゃんとまともな飯出してます?」

「お陰様で」


 何せ【出汁無し味噌汁】を出した過去のある女だ。しかし料理上手な旦那がいれば教えられたりなんだりで上達もするだろう。幸せそうな「お陰様で」である。

 いつも頼むおつまみセットを用意してもらって、ちびちびとビールを飲み進める。店内に流れているジャズやポップスを何とはなしに聞きつつ川崎と近況なんか話し合った。主に仕事と家庭の話。新婚気分はまだまだ抜けていないようで川崎が矢橋について言及する時はふわりと雰囲気が和む。大事にして、されているのだ。きっと。


「……今日、もしかして暇っすか?」


 普段ならあちこち行き来している川崎とアヤも、今日は割と自分の相手をしてくれている。ふっと見渡せば何となくいつもより客の数が控えめな気がする。


「ちょっと寒いからね。こういう日もあるよ」

「あー確かに。何日か暖かかったのにねえ」

「こういう日もないと川崎さん達倒れちゃいますもん。ちょっとありがたいですよ?」


 アヤがそう言ってオーダーのメモを川崎に託す。彼女もよく働く娘だ。確か大学生のはず。年上のかわいい彼氏のおとぼけ話をちょくちょく聞かせてくれるから、彼女もいい恋愛をしているのだ。リア充万歳。


「アヤちゃんもお疲れ。学校にバイトに忙しいでしょ。彼と遊ぶ間、ある?」

「あはは、ありがとうございます。ありますよ〜明日会うんです」にっこり。「鷹野さん今日はお休みでしたか?」

「そーそー、久々にね」

「お急がしそうですもんね〜またツアーとかですか?」

「そ。明日からまた嫌ーな仕事の日々」


 先日、例の友人の公演が一段落したと思ったら、追加公演にと再びお声が掛かったのだ。人気があって何よりだと思うが、自分より師匠を相手に呼んでくれないものかなとちょっと疲れ気味な心地で引き受けていたりする。働かざる者食うべからず。師匠ときたら自分があちこち連れ回されるのが面倒だからと上手く逃げたクチだ。まあレッスン生を放ったらかしにしているわけにもいかない。


「きれーなお姉さん相手だったら何処でも行くんだけどなー生憎男でさ。きれーな顔ではあるんだけど」

「鷹野さんったらまたそんな」

「分かるな。一所に居たいのに行かなきゃならない時のあの感じ」

「でっしょーーー? 川崎さんさすが。分かってるう!」

「仕事って分かっててもね。……うん。英気を養ってって」

「あはは、あざーっす。お土産持ってきますんで楽しみにしてて下さいね」

「嫌な、なんて言わないでくれよ。ケイ」


 ぽんと肩を叩かれての第三者からの一言に、びしりと体が硬直した。これはまさか……?


「ルークおまっ、何で!」

「君にどうしても会いたくて」


 人懐こい笑顔で、言われたのは本日二度目の熱烈な告白であった。モテ期なのか? 違う野郎にモテてどうする。どういう事だと混乱するばかりで、ぽかんと開いた口が塞がらなかった。



*   *   *



「ケイに会えるって聞いたから、マサトについてきたんだよ」


 ね、とルークが振り返ったそこには宮田の姿があった。ーーあんた、どんだけ人脈持ってんの? と寒気がしたが宮田はにこにこしているし、川崎もアヤも「ああこの人はいつもこんなだよな」というようにしれっとしているのでこの場で慄いているのは自分だけのようだ。


「マサトの店にも一度来てみたかったから丁度よかったよ」

「えっ、あー……てか、二人、知り合いなのか」

「僕が海外にいた時にね。ちょっと」


 ちょっと。何だ。宮田が言うと意味深長過ぎる。

 気が付けばルークは隣のスツールでジントニック片手にすっかり寛いでいるし、カウンターの向かいには川崎ではなく宮田がいるしでーー何だこれは。囲い込まれている気分である。


「ケイもよく来るんだってね」

「ああ。うん。……ってかお前さ、今日オフでダラダラするんだっつってたのに何で」

「マサトが連絡くれて。久しぶりにゆっくりしたいって言ったらじゃあうちにおいでよって」

「はあ……あ、そう……」

「ルークとオフの日がなかなか合わないからさ、運が良かったよ」

「宮田君。そうならそうって言ってくれたらいいのに何で君はいつも黙ってふらっと出ていくかな……」

「川崎君とアヤちゃんなら任せても安心だから。つい」

「はあ……まあいいよ、もう慣れた」


 川崎は溜息混じりにそう言ってカウンターに更にもう一品出す。きのこが沢山載った和風あんかけのオムライスだった。自分は頼んでいないぞ。


「ルークさんにって。宮田君が」

「あー……そっすか」

「Yes. ユキのご飯は美味しいってマサが何度も褒めるからリクエストしてたんだ。仕事が早いね。ケイも食べようよ」

「はあ。……じゃあ、遠慮なく」


 一見和やかな食事風景だが妙な緊張感がある。ルークがオフにまでわざわざ街中へ出てくるなんて大体禄な事がない。何の話をしに来たんだか。川崎の作った料理なのにあまり味がしないのは心持ちのせいだろう。日本食も好物なルークは顔を綻ばせながら舌鼓を打っている。


「おいしい! あっさりしてていくらでも入るよ」

「ありがとうございます。喜んでもらえてほっとしました」

「こんなご飯がいつも食べれたらいいのに。ツアーに着いてきてほしいくらいだよ」

「ははは、恐縮です」

「川崎君は駄目だよ。遠くまで連れてったら大事な奥さんが寂しくて泣いちゃうからね」


 宮田が軽口を挟む。


「そうなのかい、ユキ」

「ええ、まあ……」

「そうか。なるほど」


 女性を悲しませるわけにはいかないね、なんて。ルークは大袈裟に肩を竦めて残念そうにする。あんたも大概女泣かせのくせに何言ってんだかと思うだけで、黙ってスプーンを口に運んだ。旨い。旨いのに気持ちは落ち着かない。


「ねえケイ。君は恋人はいないって」

「ストップ。ルーク。俺断ったろう」

「おっと。そんな話、してないじゃないか」


 その顔で、この流れで、言いそうな事は決まっている。


「泣かせる女がいないならーって? いてもいなくても、俺は海外なんか、ヤだ」


 ふん、と鼻を鳴らす。態度がよろしくないが相手は仕事相手ではなく友人(・・)だ。許される。


「ケイ。僕は本気だよずっと」

「俺も本気で嫌だ」

「夜はあんなに熱烈なのにひどいな君は」

「Give me a break!」


 うんざりした。切り上げよう。タン、とグラスを置いて「帰ります」と立ち上がりしな川崎に向けて言う。宮田とルークは目に入れない。


「ケイーー……!」

「野郎に泣きつかれても嬉しくねえよ。いいか、何度も言わせるな。その話は断った。何言われようが俺の気持ちは変わらねえぞ」

「ケイがそこまで嫌がる理由が解らない。言わなきゃ誰にも、何も解らないよ」


 君の師匠にだって、と、背中に聞こえるルークの声は苦しそうだ。

 こんな場所で内情を話すわけがない。席を立った時点からこちらの動向を気にしている視線がちらちら向けられているのに、だ。今ここにいる客の中にルークを知る者がいたら? 彼は自分と違い、来日をワイドショーなんかにも取り上げられている有名人だ。それを相手に本気で喧嘩なんかしてみろ。SNSなんぞに載せられたらお互いいい迷惑だ。


「嫌なもんは嫌なの! ったく……ーーあのな、俺はお前とやれなくなったらさすがにつまんねえんだよ。だから余計な事言わずに気持ちよく仕事させてくれ。じゃあな」


 ひらひらと片手を振って店を後にする。追い掛けてくる気配も無いので正直ほっとした。ひやりとした外気に晒されてようやく一息吐けた。ーーやめてくれよ。散々断って散々逃げてきてるのにまだ言うのかよ。

 自分は世界に通用するほどの腕は無いのだ。きらびやかな世界。このままではその中に居られる時間は思っているよりずっと短いのだろう。解っている。彼のような腕利きの弾き手と居れば元々競争心の強い自分が磨かれる事ぐらい。でも、嫌だ。海外なんてつまらない。


ーーなあ、これ、楽しいのか?


 言葉の壁。文化習慣の違い。楽器に向き合う時間なんて一日の中で考えればたかが知れていた。日々忙しく、充実していたようで本音ではつまらなかった四年。


ーーお前なら喜んで行ったろうよ。ふん、


 いつも過るのは森矢の事だった。代われるものなら代わってやりたい。しかしそれは無理なのだ。彼は、もう彼岸の人。

 何年か前。矢橋がまだ森矢の後を追いかけていた頃、自分は彼女に「もう止めろ」と言った。居ないものを追い掛けても仕方がなくて、彼女は彼女の人生をきちんと生きるべきだと忠告をした。二人で森矢の遺していった曲をやって、それで仕舞いだったはずだ。なのに、今度は。


「……くそっ、」


 今度は俺かよ、といっそ笑えてくる。ステージで森矢の【感じ】を何度か見た気がして、最初はまだ自分の中で彼の事を引き摺って軽く考えていたのに、それは次第に重たい何かに変わろうとしていた。らしくないと思うのに気になる。その影にふと目をやると満足そうに笑うのだ。ーーぞっとした。こんなの子供じみている。



 森矢は請われるまま海外に出ていただろうか。自分を高みにやってくれる誰かを探して、あるいは自分が誰かを高みに連れて行く側になっていただろうか。ーーやめようぜ、そーゆーの。そんな面倒なの、俺には向いてない。

 ただ自分が満足できたらそれでいいはずなのに、影はどこまでも着いてくる。今、その影の名前は、ルークだ。


「恵亮っ」


 どん、と背中に衝撃があってよろめきそうになった。おい、このタイミングでお前かよと顔だけ振り向けばそこには矢橋の姿があった。はあはあと息を切らせて、かなり走ってきたのだと分かる。どこから?


「あんた、足、速ーー……」

「何してんのお前」

「ちょ、待って。……はーしんど…………由貴さんとこ行こう思たらあんたっぽいのがおったから」


 追っかけてきてん。

 はー、と長い息を吐いて矢橋は顔を上げた。コートを掴まれたままでは逃げられない。……逃げる。誰から。何から。


「川崎さんに叱られるぞ。こんなとこ一人で」

「駅前やここ! 大丈夫セーフ!」

「はあ。……どした。何か用か」

「や、……あんた、ひっどい顔しとんの、気になって」


 遠目からよくもまあ人の顔色の違いが分かるものだと感心する。


「ひどいか」

「そらもう。ぶっすり人刺してきましたぐらいの」

「しねえよそんなの」

「せやな。せんわなあんたは。あんたは刺される方やわうん」溜息。「……何や、あんたもこんなとこ。店行くとこやったんか。帰りか」

「帰り」

「あ、そお。……なら、ええわ」


 ぱっと手が離された。ほうっと、安堵の息が漏れたのは自分なのか矢橋なのか。


「…………なあ。俺、海外行ってギターやるとか言ったらオマエどう思う」


 唐突で無意味な問いかけだったと思う。だが矢橋はきょとんとしてから「アカンやろ。あんた何様やねん」とばっさり言い放った。


「何様ってオマエ……」

「自分で言うとるやろ。あんたぐらいのいくらでもおんにゃから別に行かんでもええんやって。……それによ、ほったらかしてったら泣きよるで」

「誰が」

「え? リオちゃん?」

「何でそこ、リオちゃん?」


 唐突だ。ついでに疑問形なのか、そこ。

 ここで「森矢が」と即答されていたら多分、凹んでいた。


「や、何となく。……何や、仕事か? じきに帰れるんなら行ったらええんちゃうん」

「…………じきに、かな、あれ」

「はっきりせんのお! アカンでそんな湿気た顔。男前が台無しや」

「はは、……そうか」


 矢橋から【男前】だなんて飛び出してくる当り、彼女も少々動揺しているのかもしれない。そんなにだったか、俺。


「あんたなあ。あんたのホームはここちゃうん。英語もよおでけんくせに」

「そうでもねえぞ。口説くぐらい楽勝」


 嘘やん! と矢橋はのけぞった。


「オマ、何年ドイツ居たと……ドイツ語もちったぁできるぞ俺」

「あ、せやせやせやった! わー普段アホやからそんなん忘れとったわ」

「あーそーだよなー披露してねえわオマエ馬鹿だからわかんねーだろうと思って」

「馬鹿言うなや! アホは許せるけどそれは許せんっ」


 関西人にするとアホと馬鹿には大きな違いがあるそうだ。まあ、その話はいいとして。


「オマエさ、俺居ないとつまんねえ?」

「つまらんな」即答。「ついでに心配やわ。あんたただでさえキチンとしとんのかって思うのに」


 海外なんか行かれたら通信費高ぉつくやんかやめてや。

 体の前で腕を組み、矢橋はまるで仁王様のようだ。通信なんて今やラインだ何だとどうとでもできる時代なのに、気にする所はそこなのか。ウケる。

 何年か前の矢橋ならもしかしたら行けばいいと言ったかもしれない。彼女は森矢を追いかけていたし、自分では叶わないものを人に託すぐらい許されると思っていたはずだ。ある意味、弱かった。しっかりしているなと、今の彼女を見てほっとしている。


「……助かった。オマエ最高にいい奴だわ」

「うん? 気持ち悪いな。何のこっちゃ知らんけど、まあよきにはからえ」

「ん」


 これから店の方に行くという矢橋と別れ、駅に向かう。雑踏の中に身を置くと少しほっとするようになったのはいつからだろう。

 岐路は何度かあった。今回も現状維持のまま面倒事を回避するのみである。明日から顔を合わせなければならないのは気が重いが仕事は全うせねば。 



*   *   *



「そう落ち込むなよルーク」

「ああ、……マサ。ケイはどうしても来てくれないのかな」


 すっかり気落ちしてしまった友人を慰めるのに、まあ、とワインを勧める。深い赤。それをくっと一息で飲み込んで、ルークは額に片手をやって項垂れる。


「留学してた頃は、世界に出てやるってあんなに言ってたのに。ケイはもっと評価される。でもどうしてだろう? 日本に帰ってしまってからすっかり人が変わってしまった」


 留学中の恵亮がどんなだったかは知らないが、日本での仕事ぶりなら知っている。学生時代の映像よりも音は柔らかくなった気はするし、本人が言うよりもガツガツした印象ではない。勢いは確かにあるけれど、落ち着いたというか何かが吹っ切れた風な面持ちでもあった。由貴と凌が収まる所に収まってからだろうか。それとももっと前に?


「うーん……彼も、色々考えての事だと思うよ」

「ステージでのケイは本当にすごいんだ。皆何故わからないんだろう?……友達の贔屓目じゃないよこれは」

「僕もすごいと思ってる。彼はこう……観てると飲み込まれそうな、強さを持ってる。それに繊細だよね。優しい人だから」

「マサは、僕とケイとなら、どっちがいい?」


 難しい質問だ。


「僕は二人共大事だから決められないよ。……どっちも、羨ましいよ」


 美しいものを生み出す力がある二人だ。強い引力を持って、遺憾なく自身の力を発揮できる肝も据わっている。ルークも自分が思っているよりもずっとしなやかで強い芯を持っているのに、傍にいる恵亮(かがやくもの)に目を奪われてそれが見えていないのだ。きっと。


「ああ……! もどかしい。ケイ……ケイがいいんだ。僕は」

「君が女性だったら、彼ももう少し態度が違ったかもしれないね」

「……愛になっていた?」

「そうじゃないよ。もっとあっさり断られてそこで関係が終わっていた、っていう話。君が君だから、彼も大事に関係を続けてるんだよ」

「友として?」

「そう。彼は優しいから、いいと思った相手にはきちんと自分の出来ることを返そうとする」

「そうか……確かにそういう所はある。ああでも惜しい。僕は本当にケイを連れて行きたいんだ。必ず成功するよ。彼の人生がこの島国で終わるなんて悲し過ぎる。ギタリストの給料なんて知れてるんだろう。ケイはもっと人前に出るべきだよ」

「その意見には賛同するけど、彼の人生は彼が決めて書き進めるものだから。言ったろう? 皆自分の物語を持って天に召されるって」

「…………僕の人生に、彼が必要なんだ……」


 友としても仕事の相手としても。

 ルークの目に留まってしまったのは恵亮にとって幸か不幸か。振り切るにはかなり手強い相手になりそうだ。


「とにかく明日からの仕事に響かないようにしようね。……送るからそろそろ切り上げよう」


 深酒になっては大変だ。ぐずる子どもをあやすような気持ちでルークの背をそっと叩く。ーー君は本当に、罪作りな語りべだよ。


「ルーク。賭けてもいい。彼はいずれ自分から海外に行くって言うよ」



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