第49話 魔王マルコスと知性の仮面!
事態は「国家防衛ダンジョン」の乗っ取りを企む秘密組織【ヴェノム】の陰謀へと向かっていたが……その裏で、営業本部長の魔王マルコスは冷や汗で全身をビショビショに濡らしていた。
(あかん……あかんぞ……! ヴェノムの件がバレたらサクラ社長に絶対に首を跳ね飛ばされる……!)
夜、社屋のロッカールームのすみっこで、震えながら頭を抱えるマルコス。
勇者佐藤が温かいお茶を持って隣に腰掛けた。
「マルコスさん、大丈夫ですか? 昼間からずっと顔色が真っ青ですよ」
「勇者佐藤よ……聞いてくれるか……? 私が何故『魔王』になったのか……その恐ろしき真相を……」
マルコスは遠い目をして、血と涙と勘違いに満ちた昔話を語り始めた——。
——回想すること数百年前。
当時の魔界では、空席となっていた『魔王』の座を巡り、血で血を洗う壮絶な覇権争いが繰り広げられていた。
強力な悪魔、凶悪な魔獣、伝説の魔導士たちが、数百年もの歳月をかけて互いに殺し合い、凌ぎを削っていたのだ。
そしてついに——数千もの戦いを勝ち抜き、立ち塞がる強敵をすべてなぎ倒した一人の最強の悪魔が、王座の前で勝利の咆哮を上げた!
「ハァ……ハァ……ついに……ついにワシが魔王だぁぁぁッ!!」
しかし、数百年にわたる連戦により、その最強の悪魔は全身傷だらけ、骨はバキバキ、体力も魔力もゼロに等しい「息も絶え絶えのヨレヨレ状態」であった。
……まさにその時である。
数百年もの間、魔界の地下深くにある引きこもり部屋でゲームと寝返りだけを繰り返していた悪魔・マルコスが——
「あ〜……久々に外の空気でも吸おうかなぁ。ついでに新しく魔王になったヤツに挨拶でもしとくか」
と、数百年ぶりに部屋のドアを開けて外に出てきたのである。
魔王城の謁見の間に入ってきたマルコス。
そこには、今にも倒れそうなほどボロボロになった新魔王が立っていた。
口先だけは超一流のマルコスは、「おや、大丈夫ですか魔王様〜?」と調子よく声をかけ、親切心から介抱しようと近づいた。
——その瞬間!
「あッ」
崩れた石畳に足を取られたマルコスは、派手に盛大につまずいた!
ガツーーーーーーンッ!
偶然か、はたまた運命のいたずらか!
前傾姿勢で倒れ込んだマルコスの固い頭が、満身創痍で瀕死だった新魔王の脳天にクリーンヒット!
「ブフッ……!?」
最強のはずだった新魔王は、白目を剥いて、「勇者とは闘うなーー」と一言残して、そのまま絶命!
数百年の闘いの覇者が、引きこもりのつまずき頭突き一発で呆気なく崩れ去ったのである!
さらに運の悪いことに(あるいは良いことに)、その瞬間を影から覗き込んでいた下級悪魔が、目をむき出しにして叫んでしまった!
「ひぇぇぇぇッ!? 数百年の死闘を勝ち抜いた最強の魔王様が、謎の悪魔の一撃で瞬殺されたぁぁぁぁッ! 新魔王様の誕生だぁ!」
「ち、ちが……っ! いまのは単につまずいてーー!」
マルコスの弁明も虚しく、その情報は一瞬で魔界全域へと伝破!
こうして、「部屋から出てきて数秒で前魔王を瞬殺した最悪の暴君・魔王マルコス」が誕生してしまったのである!
「……あ〜〜〜っ! あの時、引きこもり部屋から出なければぁぁぁぁッ!!」
床に突っ伏して慟哭するマルコス。
「そ、そんな経緯で魔王になったんですか!」とドン引きする勇者佐藤。
事故で魔王になってしまったマルコス。本当に戦う力なんて皆無。
戦いを挑んでくる猛者たちから逃れるため、彼は持ち前の「口先だけの口八丁」をフル稼働させた!
「我が直接手を下すまでもない」「知性なき暴力は愚かだ」と言い張り、別名『知性の悪魔』あるいは『四大悪魔・魔王の側用人』という架空のポジション(自称)をでっち上げ、自分自身が魔王であることを隠してうやむやに逃げ回り続けたのだ。
しかし、そんなハッタリと緊張の毎日に心底疲れ果てたマルコスは、
「もう嫌だ! 人間界に逃げて静かに暮らす!」
と魔界を脱出。人族の街に紛れ込み……たまたま求人募集を出していた『サクラ迷宮建設』に営業として入社してしまったのだった!
「……でな、勇者佐藤よ。その魔王になる前の、若さゆえの過ちというか、気晴らしというか……」
マルコスは声を潜め、震える声で告白した。
「引きこもってた頃に、悪友とノリでつくった秘密サークル……それが【ヴェノム】なんだよー!」
「アンタ、阿呆なのかーーー!」
1000年の時を経て、過去の自分の適当な黒歴史と、勘違いで手に入れた魔王の威光が、サクラ迷宮建設を巻き込む巨大なトラブルへと発展している事実に、マルコスは涙目になった。
その時——バンッ! とプレハブのドアが開いた!
「何やってんの二人とも! 国家防衛ダンジョンの現場点検に行くわよ! ヴェノムの偽物どもを叩きのめして、追加予算十億ゴールドを分捕るわよーッ!」
ピンクのヘルメットを被ったサクラが、ギラギラとした目を輝かせて立っていた。
「ヒィィィィッ!(一番恐ろしい人がきた!)」
口先だけの魔王マルコスと、現場至上主義の鬼社長サクラ!
1000年前の黒歴史『ヴェノム』との決戦に向け、何も知らないサクラは(マルコスの冷や汗と共に)意気込むのであった!
(『いせダン』第49話・了)




