第5話:魔鏡映えするラグジュアリー迷宮
アニメお決まりのサービス回、〇〇なやつです。
「サクラ社長! た、大変です! 暗黒界のIT成り上がり悪魔・バアル様から、予算『金貨200枚』の超メガ案件を勝ち取りました!」
営業のマルコスが事務所のドアを蹴破り、鼻血を出しそうな勢いで羊皮紙を突き出してきた。
「き、金貨200枚!? すごいわ、マルコス! 一気にホワイト企業化が進むじゃない!」
「ただしご要望がひとつ! 『魔鏡で100万イイネ!が取れる、最高に映えるラグジュアリー迷宮』にしてくれとのことです!」
(魔鏡映え……?)
首を傾げた瞬間、背後から狂気に満ちた高笑いが響き渡った。
「オーーッホッホッホ!! ついに、私の時代が来たわ!!」
エルフの天才デザイナー・エルザである。彼女はドヤ顔で分厚い図面を広げた。
「見なさい! これが私の最高傑作『バカ映え★マジカル・スライム・シャワー』よ! 天井から降り注ぐ特製スライム液が、冒険者の服だけを跡形もなく綺麗~に溶かし尽くすの! 衣服が溶けてパニックになる冒険者の姿、これぞ魔鏡で100万イイネ確定の『エッチで映えるハプニング』よ!」
「バカなのーーーッ!? 絶対ダメに決まってるでしょ!」
サクラは即座にヘルメットを叩きつけた。
「うちの現場で公然わいせつ事件を起こす気!? それに酸で服を溶かすなんて安全基準(ISO9001)違反よ! 却下! 現場導入は絶対禁止!!」
「なんですってぇ!? 私の試作品は完璧よ! ほら、現場の点検に行くわよ!!」
怒ったエルザに引っ張られ、サクラ、ゴルドン、マルコス、そしてヴァルキリーの面々は、完成したばかりの実験室(プレハブ現場)へ向かった。
「見てみなさい、サクラ! この天井のバルブをひねれば、マイルドなスライム液が……」
「触るんじゃないわよ、エルザ! 構造の安全点検が先でしょ!」
「おいおいエルザ、この配管、圧力が上がりすぎてねぇか?」とゴルドンが覗き込む。
「どれどれ? 私が人事管理の観点から配管の安全確認を……」とヴァルキリーが近づいた、その時だった。
――カチリ。
足元で不吉な音が鳴った。モグラ部隊の置き忘れたスコップが、ヴァルキリーの足に触れ、起動スイッチを直撃したのだ。
『——過剰圧力排出モード、作動——』
「え?」
――バッシャーーーーーーーッ!
「ぶはぁっ!?」「ごふっ!?」「んあぁっ!?」「――?」
天井の全バルブが破裂し、大量の特性スライム液がスコールのような勢いで降り注ぐ。
現場にいた5人全員が、頭から足先までドロドロのピンク色の粘液まみれになった。
「何すんのよエルザぁぁぁ!!」
「私じゃないわよ! ヴァルキリーの不注意よ!」
「ゲホゲホッ! 人事評価に響きますよ、コレ!」
「おい社長……! なんだか身軽になってねぇか?」
ゴルドンの震える声に、全員が自分の体を見下ろした。
――ジュワワワワワワワワワ…………ッ。
不気味な溶解音が響く。
「あ!」
スパァン!! スパスパァン!!
一瞬だった。
サクラの作業着、エルザの豪華なエルフ服、ゴルドンの頑丈な作業用レザー、マルコスのビシッとした高級スーツ、ヴァルキリーの厳格な服と鎧。綿、麻、革、シルク——あらゆる繊維が一瞬で泡となって消滅した。
次の瞬間。
実験室の中に立っていたのは、全員ピンクの粘液でヌルヌルに光り輝き、ヘルメットや帽子だけを頭に乗せた、完全なる全裸の幹部たちだった。
「……」
誰も言葉を発しない。気まずすぎる静寂が現場を支配する。
サクラは必死に冷静さを保ち、震える声で尋ねた。
「……ねえエルザ」
「な、なにかしら社長……」
「これ……服の溶解スピード……設計通りなの……?」
「か……完璧な計算通りよ……一秒で……全裸よ……」
「完璧すぎるわ! バカあぁぁぁぁぁぁぁーーッ!」
サクラの怒号が実験室に響き渡った!
「嫌ぁぁぁぁ! 何よコレ! 私の服が! 労働基準法違反ですわぁぁぁ!」
ヴァルキリーが羽兜だけを被った全裸で悲鳴を上げ、手近な書類で股間を隠す!
ゴルドン親方が巨体を丸め、ツルハシで必死に体を隠そうとするが全然隠れていない!
「社長! これは『緊急幹部全裸会議』として議事録に残しますか!?」
マルコスが全裸のまま、謎のプロ意識でメモ帳を広げる!
「どこからペン出してんのよ! 残すなぁぁぁ! 早く服を着なさい服をーーーッ!!」
そこへ、騒ぎを聞きつけた掘削部隊のモグラたちがガタガタとドアを開けて入ってきた。
「お頭ー! 破裂音がしたけど大丈夫ですか……って、うわあああぁぁぁーッ!!」
「見るんじゃないわよ、モグラどもーーッ!」
ピンクのヘルメットで必死に胸を隠しながらサクラが叫ぶ中、エルザが「ほら見なさい! 皮膚はスベスベでしょう!?」とヌルヌル全裸のまま胸を張った。
「肌のスベスベ感はどうでもいいのよ!」
サクラは物陰から顔だけ出し、大惨事の現場を指差した。
「いい!? 溶けた服の繊維が全部排水溝に詰まって現場が冠水しかけてるでしょうが! 破けた服の買い替え費用で被服費(経費)が爆増よ! 被害額いくらになると思ってんの!」
「えっ……経費……?」青ざめるエルザ。
「当たり前でしょ! ダンジョンで服を溶かされた冒険者が『服代を弁償しろ』って訴訟起こしてきたらどうすんのよ!!」
「た、確かに……悪魔の弁護士を立てられたら負けます……」と全裸のマルコスが青ざめる。
「スライムシャワーは不採用! どうしてもやるなら『服の袖がちょっと破れて露出が増える程度』に スライム液を100倍に薄めなさい! 一瞬で下着まで溶かすのは、一瞬で会社を倒産させる行為よ!」
「うぅ、わかりましたわ……」
シュンとするエルザを横目に、サクラはタオルで体を拭きながら頭を抱えた。
「はぁ……それでマルコス、肝心のバアル様への『映えるラグジュアリー迷宮』の提案、どうすんのよ?」
「ご安心ください、社長。今回の件で学びました。安全かつバカ映えする『ラグジュアリー黄金温泉プール迷宮』の提案書、たった今書きあげました!」
「服を着てから提案しなさーい!」
こうして、幹部全員が全裸で逃げ惑うという史上最大の大惨事を経て、無事に現場の安全基準(と会社の資産)が守られたのだった——?!
(第5話・了)
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