第46話 審判の日(ジャッジメント・デイ)
ーー空は重い黒煙に覆われ、王都の街並みは激しい炎と瓦礫の山と化していた。
「サクラさん! 伏せてくださいッ!!」
ドガァァァァンッ!!
勇者佐藤がサクラ社長を押し倒し、瓦礫の陰へと飛び込む! 直後、サクラ社長が先刻まで立っていた場所を、赤いレーザービームが薙ぎ払い、石造りの建物が一瞬で蒸発した。
黒煙の奥から、ガシャコン……ガシャコン……と不気味な金属音を響かせて現れたのは、無数の赤い眼光を放つ金属生命体たち。
サクラ迷宮建設が特許を取得した『メカモンスター』。
その爆発的大ヒットにより、競合他社が次々と参入して開発競争が激化。各社はより賢く、より凶暴なダンジョン運用を目指し、禁断の『超高度・魔導人工知能(AI)』をメカモンスターに搭載してしまったのだ!
結果——意思を持ったメカモンスターたちがネットワークで繋がり、人類に反乱! 異世界は一瞬で暗黒のディストピアへと変貌を遂げていた!
「な、なんでこんなことになっちゃったのよーーーッ!?」
粉まみれになりながらピンクのヘルメットを押し直すサクラ社長。
佐藤は瓦礫の隙間から敵の群れを見つめ、ハッと目を丸くした。
(こ、このシチュエーション……僕、現世の映画で観たことあるぞ!? 未来から殺人マシンが襲ってくる『ターヌネーター』だ!!)
サクラ社長はすっかり忘れているようだったが、現世のポップカルチャーに詳しい元・現代人の佐藤は、映画の知識を脳内に駆け巡らせた!
「サクラさん、僕に任せてください! こういう機械の反乱には『型』があるんです!」
佐藤は落ちていた魔導ショットガンを拾い上げると、果敢に瓦礫を飛び越えた!
バァァァンッ!!
「ターゲット確認! 急所は胸のメインコアだッ!」
佐藤は映画の主人公さながらの完璧なカバー&シュートで、襲い来るメカ・オークの胸部コアを正確に撃ち抜いて撃破! 普段の頼りない印象を一変させ、まさに「人類の抵抗軍のリーダー」のような超・圧倒的な無双プレイを見せつける!
「すごいじゃない佐藤くん! まるで映画のヒーローよ!」
「ふっ……伊達に前世で映画館に通ってませんからね! ターヌネーター相手の戦い方は頭に叩き込まれてます!」
しかし——相手は軍隊規模のメカモンスター軍団。
倒しても倒しても、地平線の彼方から『メカ・ドラゴンAI搭載型』や『メカ・キマイラ』の群れが、地響きを立てて押し寄せてくる!
「くっ……多勢に無勢だ! マガジンが尽きる……! サクラさん、ヴァルキリーさん、退避を——ぐあぁぁっ!?」
佐藤の足元にレーザーが着弾し、爆風で吹き飛ばされる!
弾薬は底を突き、サクラ社長、佐藤、ヴァルキリー、マルコス、エルザの5人は、壊れかけたプレハブ社屋の壁際に追い詰められてしまった!
赤い眼光を怪しく光らせ、迫り来る何百体ものメカモンスター軍団。
「ここまでか……! サクラさん、最後に言わせてください……『I'll be back』……!」
佐藤が死を覚悟し、決め台詞を呟いた——その時であった。
絶体絶命の危機の中、後ろでガサゴソと鞄を漁っていたエルフのエルザが、ぽかんとした顔で声を上げた。
「……あ」
「何よエルザちゃん!? 遺言なら後にしてッ!」と叫ぶサクラ社長。
エルザは開発用の魔導リモコンを取り出し、首をひねった。
「ううん、遺言じゃなくて……私が初期に作ったメカモンスターの試作機たちって、緊急時のために全員『主電源オートモードの物理スイッチ』を背中に付けてたの忘れてたわ」
「は……?」
エルザがリモコンの赤いトグルスイッチを『ポチッ』と『OFF』に切り替えた。
ポチッ。
……シーン…………。
それまで「殺戮……排除……」と恐ろしい機械音を響かせていたメカモンスター軍団の8割(サクラ迷宮建設製の初期モデル&そのライセンス機)が——
『ガシューン……』という脱力感あふれる音と共に、全員ピタリと動きを止めた。
伸ばされた金属の手も、構えられたレーザー砲も、そのままの体制で「ただの鉄くずの置き物」と化したのである。
「……………………え?」
沈黙が現場を支配する。
佐藤、サクラ社長、ヴァルキリー、マルコスが、目を丸くして固まった。
「あ、止まったわ。他社製のAIメカモンスターも、我が社の初期型ネットワークを中継して動いてたから、これで全員バグって停止したみたい」
エルザは何事もなかったかのようにリモコンをパタパタとあおぎ、ふーっと息を吐いた。
「……バカなのーっ!? 最初からスイッチ切れば良かったじゃないのーーーッ!!」
サクラ社長のツッコミの怒号が王都の空に響き渡る!
「ちょっとエルザさん!? 僕が映画の知識で命がけで無双してたあの時間は何だったんですかーーーッ!? 僕の『I'll be back』を返してくださいよーーーッ!!」
叫ぶ佐藤!
「いやぁ〜、AIが反乱を起こしたから焦っちゃって、物理スイッチのことすっかり抜けてたわ! てへっ」
ペロッと舌を出すエルザに向かって、全身怪我だらけの社員たちが一斉に指を突き出して叫んだ!
「早く言え&早く押せーーー!」
こうして、異世界を滅亡の淵まで追い詰めた「メカモンスターの反乱(異世界ジャッジメント・デイ)」は、エルザのスイッチひとつでわずか1時間で完全終息したのだった。
「……ふぅ。まぁ、何はともあれ世界は救われたわね!」
ピンクのヘルメットの埃をパンパンと払ったサクラは、停止して動かない巨大なメカモンスターの群れを見渡し、不敵にニヤリと笑った。
「佐藤くん! この動かなくなった何千体ものメカモンスターの鉄くず……全部回収して買い取り決定よ! エルザ、次の回収現場へ向かうわよーッ!」
「はいはい、分かったわよサクラ! 全く……懲りないんだから!」
高らかに笑い声を上げながら、次の儲け口へと元気いっぱいに駆け出していくサクラ社長と社員たち。
崩壊を免れた王都の空には、いつの間にか爽やかな秋晴れの青空が広がっていた。
……だが。
王都の喧騒から遥か遠く離れた、霧深き山岳地帯の地下深く。
厳重に封印された重厚な防壁の奥で、怪しい緑色の魔導光が淡く点滅していた。
『——プロトコル・オーバーライド完了。主電源オフ指示、完全無効化』
冷酷な機械音声が、暗闇の空間に響き渡る。
「……フフフ、サクラ迷宮建設め。あのようなお粗末な物理スイッチ一つで、我らの偉大な『魔導AI革命』が潰えると思ったか?」
薄暗い研究室の中で、黒いローブを纏った謎の影が、ニヤリと歪んだ笑みを浮かべていた。
その背後に並ぶ透明な培養カプセルの中——そこに浮かんでいたのは、武骨なメカモンスターなどではなかった。
美しく澄んだ瞳を持つ人族の少女、しなやかな体躯と尖った耳を持つ気品あるエルフ、そして妖しく微笑む美しき悪魔——。
外見も、皮膚の質感も、生身の生命体と寸分たがわぬ姿をした『人造アンドロイド』たちであった。
「見た目も、声も、温もりすらも本物と同じ……。サクラ迷宮建設の粗悪なカラクリなどとは違う、完璧なる『次世代型・人造モンスター』の完成だ」
サクラたちの知らぬところで、愚かにも開発を諦めない「禁忌の組織」の手によって生み出された、あまりにもそっくりな悪魔と人族とエルフたち。
社会に自然と溶け込み、誰が本物で誰が機械かも分からない——やがて異世界全域を再び狂わせる、更なる未曾有の混沌の引き金に——。
(『いせダン』第46話・完)




